精子① 精液検査の意味は?問題ないから大丈夫?

ARTICLE

2025.02.07

基礎知識

精子① 精液検査の意味は?問題ないから大丈夫?

今回は、男性の精液検査について、元培養士の塚田寛人さんからお届けします。

不妊治療をされている方なら勿論のこと、妊活をご経験の方なら、「精液検査」といった言葉を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?

妊娠において卵子も重要ですが、精子もとても重要なのは皆様ご存じのことかと思います。ですから、不妊治療を始める際は、女性側だけではなく男性側も検査を行います。それが「精液検査」です。

私が妊活をされている方や不妊治療を受けている方から相談を受けると、「旦那側の精液は問題ないのになんで妊娠しないの?私が悪いの?」 「精液検査は問題ないのに、なんでうまくいかないの?」とおっしゃられる方がいます。

勿論、精液検査で得られるデータはとても重要ですが、それでわかることとわからないことがあるのは皆さんご存じでしょうか? 今回は、精液検査でわかること、そしてそれだけではわからないことにフォーカスを当てていきたいと思います。

精液検査とは?当日の流れ


まず、精液検査について見ていきましょう。

妊娠とは、女性の卵子と男性の精子の2つが合わさり(受精)、 受精したもの(受精卵)が成長し、 成長したもの(胚)が子宮にある子宮内膜と呼ばれる部分にくっつく(着床)ことです。

妊娠には卵子と精子どちらの力も必要ですから、 女性側の身体を検査するとともに、男性側も精液を調べることは当然と言えます。

精液検査当日は、 旦那さんに自宅もしくはクリニック内の採精室と呼ばれる場所で、クリニックで決められたカップ(採精カップ)に射精してもらい、提出します。

その後、精液を検査する機械を利用して、もしくは胚培養士や臨床検査技師によって検査されます。 検査自体は時間のかかるものではなく、当日中には結果を知ることができます。

そして、結果報告の際は、おそらく「基準値」と言われるものを元にお話されることになると思います。

精液検査の基準値とは?


精液検査で使用されている基準値、これはWHO(World Health Organization)が定めているデータで、ほとんどのクリニックで採用されています。

これは日本に限った話ではなく、世界のクリニックで利用されているものだと思ってください。
そして、それは、最新の「WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen」に記載されています。
※引用:9789240030787-eng.pdf

これらのデータは、 ヨーロッパやアメリカ、アジア、アフリカなどの様々な国の方を対象に、「1年以内にパートナーが自然妊娠した男性の精液所見」を定められています。

自然妊娠したカップルのうち、精液所見データの【下位5%】部分を参考に基準としています。

ここがとても重要で、 基準値から外れたから妊娠しないと考える方がいらっしゃるのですが、そうではありません。

基準値は自然妊娠されたカップルの下位5%なので、妊娠できるできないの可否を定めているわけではないことは知っておいても良いと思います。

「WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen」には、 その他にも精液検査の仕方、トレーニング方法、精子の染色方法など、こと細かに記載されている他、 最新のものには、精子の染色体、いわゆる「質」と呼ばれるものについても言及されています。

今回は「質」についてはお話しませんが、今後取り上げたいと思っています。 さて、 実際の基準値はこちらです。

① 精液量

読んで字のごとく精液の量です。クリニックによっては単位がccであることもありますが、数値は変わりません。

② 精子濃度

1mL中に含まれる精子の数です。 検査では、実際に1mL全部を数えているわけではなく、精液の一部の極めて少量を測定した数値を1mLで換算しています。極めて精子が少ない場合は乏精子症と診断されます。

また、少量を取り出した際、精子がいない場合は、全量検査することもあります。それでも存在が確認できなかった場合は、無精子症と診断されます。
※精液検査は全量を検査するわけではないですが、少量であっても検査結果に大きな差はありません。

③総精子数(精液全体の精子量)

①精液量②精子濃度で算出され、射出された精液中にどれだけ精子がいるかを測定したものです。

④総運動率

精子が全体の何%運動しているかを測定したものです。これも全て測定しているわけではなく、少量の精液から測定しています。

⑤前進運動率

精子が前に進んでいるかを測定したものです。運動している精子の全てが前を向いて進んでいるわけではなく、精子によっては、その場でぐるぐる弧を描くように動いているもの、微動しているものもいます。

体内だと、精子は腟内で射精された後に子宮から卵管を通り卵子を目指しますが、前進していなかったり、動きが弱いと卵子まで到達することはできません。 前進しているかどうかはとても重要です。

⑥生存率

精子が活動しているかを測定しています。 精子のほとんどが動いてない場合は精子無力症と呼ばれます。

⑦正常形態率

精子の形が正常かどうかを測定しています。

精子の形態は実は様々


上のイラストのように、精子の形態は様々です。  実際に顕微授精(体外受精技術の1つで、胚培養士が精子を1個選択し、卵子に注入する方法)の際に精子を観察すると、ほとんどの精子が奇形です。

奇形な精子は、正常な形態の精子に比べて、受精する能力が少ないことが知られています。また、DNAの断片化や染色体損傷も増加することも知られています。

よく聞かれる質問の1つに、「奇形な精子が受精すると、子どもも奇形になるんですか?」というものがあります。

しかし、奇形精子はあくまでも受精、妊娠の確率は低い傾向ではありますが、生まれてくる子に影響があるとは断定されていません。

それには卵子と精子の受精のメカニズムが関係しています。

卵子には、受精した後にDNAの損傷を修復する力があります。つまり、精子にDNAの損傷があっても卵子が修復して、修復がしっかり行われればその後正常な胚になることも十二分に考えられるのです。

逆にDNAの損傷がしっかり行われなかった場合は、受精しない、成長が途中でとまってしまう、着床しても流産につながると考えられています。

なので、奇形精子=子どもが奇形とは考えにくいです。

⑧精液中白血球数

精液内に菌がいるかどうかを測定しています。
菌がいるかじゃなくて、なんで白血球なの?と思われるかもしれませんが、 白血球の仕事は細菌やウイルスをやっつけることです、そのため炎症や感染症が起きると、白血球は増加していき、炎症や感染症に対応していくんですね。

精液中には白血球がいることはあります。

ただ、その量が多いとなったときは、前立腺や精嚢といった部分に炎症があることが疑われます。 このように、精液の項目には、ある程度意味があることがわかります。

そして基準値を設定している理由は、「基準を設定することで、治療を行う必要があるかどうか」を判断することが目的とお考えいただくのがいいかもしれません。

基準値をクリアしたら、男性側には問題ない?


では基準値はクリアしたから、男性側には問題はないと言えるのでしょうか? といったことを良く聞かれます。 そういうわけではありません。

勿論、基準値をクリアしたら、一旦は不妊の原因は他にある可能性はある、となりますが、 完全に男性側は問題ない、とは医師も考えていません。

さきほど、「基準を設定することで、治療を行う必要があるかどうか」の判断のためとお伝えしましたが、 具体的に言うと、自然妊娠する可能性、人工授精の可能性、体外受精以降の可能性、どの可能性が一番妊娠に近いかを判断する指標です。

例えば、精子が基準値より少なければ(程度にもよりますが)、人工授精以降の治療が、自然妊娠に「比べて」妊娠する可能性が高いと言えます。

絶対に妊娠しない、と言っているわけではありません。 あくまでも「可能性が高いか低いか」の問題です。 また、精液データは日々大きく変動しています。

体調が悪ければ精液データが下がることはありますし、禁欲期間が長すぎると精子には良くないことも知られています。

精子データはそういった変化によっても大きく結果が変わってくることがあります。 更に言うと精液検査は、あくまでも精子数や量といった、ある意味表面的な部分を調べています。

受精や受精後の成長は、それだけで決まるものではなく、奇形率の部分でお話した、「染色体」が関係しています。

そして精子の染色体が問題あるかどうかは、精液検査ではわからないのです。
不妊治療が民間で受けられるようになってから、数十年がたっており、旦那様も奥様と同様に、毎回の通院に同行されることも増えてきましたが、まだまだ旦那様の対応が…といった声を聞きます。

治療を受ける際、女性側が通院されることが多いでしょう。実際、男性側は精液検査をした以降、病院に行くことが少ないと思います。精液検査で問題ないと、ホッとされる気持ちもすごくわかります。

ただ、精液検査で問題なかったから自分は問題ない、というわけではないですし、 奥様も旦那様が一緒に治療のお話を聞いてくれる、治療について身を乗り出してくれると、より安心感につながりますし、一人で悩んでいるわけではないと気持ちを強くすることもあります。

そして心のバランスが整うことで、治療に影響することもあるかもしれません。 本記事では精液検査について、測定できることについて伝えしました。
次回は、精子の染色体、男性側に気を付けてもらいたいことについてお話していきたいと思います。

本日お話をおうかがいした方

塚田寛人

大学卒業後、検査会社にて動物の検査業務を担当。その後、医療法人三秀会中央クリニックにて胚培養業務に従事。クリニック開業に伴う、培養室立ち上げにも参画。現在は、高度生殖補助医療(体外受精)や妊活で悩む方へのオンライン相談やのほか、株式会社QOOLキャリア(https://career.qo-ol.jp/)へ協力し、企業に勤める女性へ医療情報を提供するなどのサポートを行っている。

テーマ:

RANKING⼈気記事

KEYWORDキーワード検索

ALL TAGSタグ一覧人気のタグ

CATEGORY

会員限定記事

会員限定の記事です。
ログインしてからご覧ください。会員登録は無料です。