妊活における「温経湯」の効果と適した体質とは?

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2025.05.28

東洋医学

妊活における「温経湯」の効果と適した体質とは?

妊活中に、体質を改善するために漢方を活用したいと考える人もいるでしょう。しかし、自分の体質に合っていない漢方を用いると、逆効果になることもあるようです。そこで「妊活に良い」と聞く「温経湯(うんけいとう)」について、薬剤師で国際中医専門員の住吉忍さんが解説します。どんな体質タイプの人に向き、どのような効果が期待される漢方なのでしょうか?

漢方における体質の考え方


妊活で漢方を活用したい場合、ご自身に合ったものを選ぶことが重要です。漢方は一人ひとりの体質に合わせて処方されるもので、同じ薬でも効果の出方が人によって異なります。


体質の考え方は、「気血水」が基本です。気はエネルギー、血は血液を含む栄養、水は潤いや水分状態を指します。また、臓器と機能を一緒にとらえた「五臓六腑」の状態も、体質タイプを考える上では重要です。


つまり、一般的に「妊活に良い漢方」と言われているものが、必ずしもご自身の体質に合った漢方だとは言えません。ご自身の体質に合った漢方を選ぶことを前提に、取り入れてください。

妊活中に使える漢方『温経湯』とは?


温経湯とは、体を温め、潤し、血の巡りを良くする漢方です。とくに「冷え」や血の流れが滞った「瘀血(おけつ)」の症状に頻用されます。

 

生薬は、体を温め、血流を促す桂皮(けいひ)、血を補い巡りを改善する当帰(とうき)、筋肉の緊張を緩め、冷えを和らげる芍薬(しゃくやく)、血行促進、鎮痛作用のある川芎(せんきゅう)、体の潤いを補い乾燥を防ぐ麦門冬(ばくもんどう)、炎症を抑え血の滞りを改善する牡丹皮(ぼたんぴ)を使用しています。

 

並んでいる生薬を見て、漢方に詳しい方は「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」や「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」など、ほかの処方でも見かけるなと気づく人もいるかもしれません。似ているようで違う点がありますので、それは後にお伝えしましょう。


妊活中に、温経湯に期待できることとしては、血行を促進し、冷えを改善することから、卵巣や子宮内の血流を良くして温めることです。また、ホルモンバランスを整えてくれるので、生理不順の改善や排卵リズムを安定させることに役立ちます。さらに、体を潤し乾燥を和らげます。

妊活中に温経湯が効果的な体質タイプとは


温経湯が適している人の特徴は、次の通りです。

  • ・手足が冷えやすい(とくに冬に悪化する)
  • ・生理周期が乱れがち(長めでも短めでも)
  • ・経血に黒っぽい塊が混じることがある(瘀血の特徴)
  • ・皮膚が乾燥しやすい、唇が荒れやすい
  • ・ふだんから喉が渇きやすい
  • ・気分が落ち込みやすく、不眠気味

温経湯は、冷えのぼせを含めて内側から温めて、血流を促し、体が乾燥して潤すことが必要な体質タイプの方に適しています。また、極端な虚証でないことも大切です。例えば、胃腸が悪いとか、横になるほど疲れやすいなど体力や抵抗力が低下している状態にある場合は、前段階としてそのケアをする処方が必要になることもあります。

漢方は原因からのアプローチが大事


前述しましたが、温経湯と似ている当帰芍薬散や桂枝茯苓丸との違いについて触れたいと思います。

当帰芍薬散は、冷えに良いといわれる漢方です。ただし、その冷えは血液や栄養が足りていない血虚、水の巡りが悪い水滞が原因のものです。同様に桂枝茯苓丸は血流に良いと言われますが、これは血の巡りも水の巡りも悪い瘀血や水滞の方に適した漢方です。つまり、どちらも水滞なので、むくみなどの余分な水分を出す側の処方になります。

一方、温経湯は、潤すことが必要な方の処方となります。血の巡りが悪い瘀血でも、処方が異なることがあるのです。体内が乾燥しているのに水を出す作用のある漢方を使ってしまうと、ますます乾燥が進み、体調を崩してしまうことがあります。とくに水分状態は妊活をする方にとっては大事な要素です。ご自身の水の状態を正しく見極める必要があります。


漢方では、冷えや血流が悪いといった症状が、どんな原因から起こっているのかアプローチしていくことが大事です。ぜひご自身に合った漢方を服用してください。

自分に合った漢方を選ぶなら、ぜひ専門家に相談を


漢方を取り入れる際は、一度専門家による漢方相談を利用しましょう。自己判断ではなく、専門家に相談して、ご自身の体質タイプを考慮したうえで適切な漢方を選ぶことを推奨します。

そして漢方の専門家のなかにも、それぞれ専門分野があります。更年期障害、消化器系、メンタルの問題などです。妊活中の方ならば、不妊治療などの分野を専門としている方を選ぶほうが、西洋医学の知識もあり、適切なアドバイスまたは治療を受けることができます。

妊活中に漢方相談する際は、治療内容などを伝えることも大切です。FSH(卵胞刺激ホルモン)やAMH(アンチミューラリアンホルモン)の値、検査で気になった項目があればその状況なども説明できるようにしておくと、ご自身の体質タイプに合った漢方を選びやすくなります。


SNS上には、不確かな情報も多く、漢方について適切ではない発信を見かけることがあります。「これが妊活に良い」と書いてあっても、「良い人もいるけれど、すべての人に適しているのではない」と冷静にとらえていただきたいです。正しい知識を持って妊活を進めていきましょう。

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本日お話をおうかがいした方

ウィメンズ漢方 薬剤師/国際中医専門員

住吉 忍

相談薬局で生まれ育ち、薬剤師となる。自身も不妊治療を経験し、妊活、女性のヘルスケアを専門に対応するため、ウィメンズ漢方(https://ninkatsu-ayumi.com/facility/1330/)創業。複数の不妊治療専門クリニックの漢方外来を担当し、西洋医学の不妊治療に適した漢方処方の提案を得意としています。

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