不妊治療と子どもの健康リスク:知っておきたい大切なこと
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妊活お役立ち情報
体外受精は、多くの方が親になる夢を叶えるための大切な選択肢となっています。しかし、「体外受精で生まれた子どもの健康リスクはないのかな?」と心配になるのは当然のことです。この疑問に答えるために、最新の研究でわかってきたことをご紹介します。
体外受精で生まれた子どもは、自然に妊娠して生まれた子どもと比べて、わずかに健康リスクが高いという報告があります ※1。このリスクの背景には、不妊治療で使われるホルモン剤の影響も議論されていますが ※2、最新の研究では、不妊治療そのものが直接的な原因なのではなく、不妊という「状態」に付随するさまざまな要因が深く関係している可能性が示唆されています ※3, 4。
この点を理解するために、以下の主要な要因について詳しく見ていきましょう。
子に影響する可能性?不妊症の背景にある主要な要因

高年齢
不妊治療を受けるカップルは、自然妊娠するカップルよりも高年齢である傾向があります。一般的に、女性は35歳、男性は40歳を過ぎると自然妊娠が徐々に難しくなると言われています ※5, 6。
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卵子・精子の質: 特に女性は、30歳後半から卵子の質と数が急激に低下し、体外受精の成功率も下がります。
高年齢での妊娠は、体外受精を使っても使わなくても、卵子の染色体異常率が高まるため、ダウン症候群などの染色体異常や流産のリスクがわずかに高まることがわかっています。
男性も同様に、加齢に伴い精子のDNA損傷が増加し、それが流産や子どもへの健康リスクに関連する可能性が指摘されています ※7。
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遺伝的な要因
不妊症の原因には、親から受け継いだ遺伝的な要因が関わっている場合があります ※8, 9。
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男性不妊: 精子の形成に重要なY染色体の一部が欠けている「Y染色体微小欠失」や、「クラインフェルター症候群」といった染色体異常が原因となることがあります。
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女性不妊・不育症: 親が染色体転座などの構造異常を持っているケースも存在します。 これらの遺伝的背景は、体外受精の有無にかかわらず、胚(受精卵)の染色体異常や先天性異常のリスクを高める可能性があります。
発達障害や自閉症といった神経発達のリスクについても、同様のことが言えます。 不妊の原因となる親の遺伝的要因や体質が、子どもの神経発達に影響を与えている可能性が指摘されています ※12。
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母体の健康と栄養状態
親の健康状態や生活習慣も、子どもの健康に大きな影響を与えます。
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栄養状態: 「隠れ貧血」とも呼ばれる鉄分不足(フェリチン欠乏) は、卵子の質や子宮内膜の状態に影響し、不妊の一因になると考えられています ※10。鉄分は、妊娠中の胎児の成長に不可欠な栄養素であり、不足すると胎盤の機能不全を引き起こし、胎児発育不全や早産のリスクを高めることがわかっています ※11。
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その他のリスク要因: 鉄分不足以外にも、低体重(やせ) の女性は、もともと栄養状態が十分でないことが多く、胎児に十分な栄養を供給できない可能性があります。
さらに、喫煙や飲酒といった生活習慣、妊娠中の高血圧や糖尿病といった母体の基礎疾患も、胎児の発育を妨げ、低出生体重のリスクを高める重要な要因となります。
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結論「不妊治療そのものが子への健康リスクを高めるとは言えない」

体外受精で生まれた子どもにわずかに見られる健康リスクの増加は、ホルモン剤の影響だけでなく、親の高年齢、遺伝的要因、そして栄養状態といった複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
体外受精は、これらの背景を持つカップルに妊娠の機会を提供する医療です。その治療そのものがリスクを大きく高めているわけではないという理解が、不妊治療をする上で非常に大切になります。
不妊治療を検討する際は、治療法自体のメリット・デメリットだけでなく、ご自身の健康状態や生活習慣もトータルで考え、不安な点があれば医師やカウンセラーに相談することが大切です。
参照文献
※1Zhu, J., et al. (2020). "Congenital Malformations in Children Conceived by Assisted Reproductive Technology: A Systematic Review and Meta-Analysis.
※2Hassan, M. A., et al. (2018). "Epigenetic alterations in assisted reproduction and their implications for child health.
※3Davies, M. J., et al. (2012). "Assisted reproduction and birth outcomes: a systematic review and meta-analysis.
※4Pelkonen, J., et al. (2015). "Perinatal outcomes of children born after assisted reproductive technology and their naturally conceived siblings.
※5Luke, B. (2017). "Maternal age and its effect on pregnancy outcomes.
※6American College of Obstetricians and Gynecologists (2020). "Fertility and Age.
※7Moomaw, C. J., et al. (2016). "Genetic factors in male infertility.
※8Knopp, K., et al. (2020). "Chromosomal abnormalities in infertile couples.
※9Johnson, R. (2022). "Ferritin and its role in reproductive health.
※10Milman, N. (2012). "Iron and pregnancy--a narrative review.
※11日本生殖医学会『生殖医療の現状と将来』, 2024.
※12Conti, V., et al. (2022). "Assisted Reproductive Technology and Neurodevelopmental Disorders in Offspring: A Systematic Review.
記事監修
三軒茶屋Artクリニック 院長
坂口 健一朗先生
産婦人科医として大学病院や地域の病院に勤務し、女性の心身の負担を減らす治療に力を注いできた。腹腔鏡手術を通じて多くの患者を支える中で、妊娠を望む方々と出会い、不妊治療こそが自身の使命であると強く感じるようになった。木場公園クリニックやリプロダクションクリニック東京にて豊富な経験を積み、生殖医療の知識と技術を培ってきた。現在は、安心して治療に臨める環境づくりを重視し、生命の誕生という奇跡を共に喜び合える日を目指して、患者の想いに寄り添う医療を提供している。

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