妊活と予防接種:未来の赤ちゃんのための「ワクチン計画」(風しん・インフルエンザ)

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2025.12.05

基礎知識

妊活と予防接種:未来の赤ちゃんのための「ワクチン計画」(風しん・インフルエンザ)

妊娠は、新しい命を迎えるための素晴らしい準備期間です。この大切な時期に、お母さんと赤ちゃんの健康を守るために、事前にできる最も確実な対策の一つが「予防接種」です。

特定の感染症は、妊娠中にかかるとお母さん自身が重症化したり、お腹の赤ちゃんに深刻で取り返しのつかない影響(先天異常など)を与えたりする可能性があります。病気になってから治すよりも、「事前に防ぐことこそが、未来の家族を守る鍵となります。

この記事では、特に重要な「風しん」と、妊娠中も接種が推奨される「インフルエンザワクチン」について、正しい知識と具体的な行動ステップを解説します。

妊娠前の最重要課題:風しんワクチンと2ヶ月のルール

風しん感染が赤ちゃんにもたらす、避けたいリスク

風しんは、発熱や発疹、リンパ節の腫れなどを引き起こす、感染力の非常に強いウイルス性の病気です[1]。大人でも脳炎や血小板減少性紫斑病などの重篤な合併症を引き起こすことがあります[2]

しかし、風しんが最も問題となるのは、妊娠初期(特に妊娠20週頃まで)に妊婦さんが感染した場合です。ウイルスが胎盤を通じて胎児に感染し、「先天性風しん症候群(CRS)」を引き起こす可能性が高まります[1]

先天性風しん症候群(CRS)の主な症状

CRSの赤ちゃんに現れる症状は多岐にわたりますが、代表的なものとして、以下の3つが挙げられます[3], [1]

  • 白内障(眼の異常)
  • 難聴(耳が聞こえにくい)
  • 先天性心疾患(心臓の異常)

一度発症すれば、その影響は生涯にわたります。そのため、厚生労働省も、妊娠を予定・希望する女性は、妊娠前に予防接種を受けておくことが「最も重要」であると強く呼びかけています[4], [5]

接種のタイミング:「妊娠の2ヶ月前」が必須な理由

風しんワクチン(麻しん風しん混合:MRワクチンを含む)は、毒性を弱めた生きたウイルスを使う「生ワクチン」です[6]

生ワクチンを接種すると、一時的に体内でウイルスが増殖します。この時期に妊娠すると、理論上はウイルスが胎児に感染し、CRSを引き起こすリスクが懸念されます[6]

このリスクを最大限に避けるため、公的なガイドラインでは、ワクチン接種後から「2ヶ月間の避妊」が強く推奨されています[5], [6]

Q. 接種後に妊娠に気づいたら?

「2ヶ月経つ前に妊娠が分かった!」と焦る方もいるかもしれませんが、ご安心ください。これまでのところ、日本国内において、ワクチン接種後に妊娠が発覚した女性からCRSの赤ちゃんが生まれたという報告は確認されていません[6]

これは、2ヶ月の避妊期間が安全を担保するための非常に慎重な措置であることを示唆しています。万が一、接種直後に妊娠に気づいた場合は、過度に心配せず、かかりつけの産婦人科医に必ず相談しましょう[6]

妊婦さんの周りの人も一緒にワクチンを

風しんの予防は、妊娠を希望する女性だけの問題ではありません。妊婦さん自身は、妊娠中に風しんワクチンを接種することができません[4]

そのため、妊婦さんが風しんに感染するリスクを減らすには、周囲の人々(特にパートナーや同居家族)が感染源とならないよう、事前にワクチンを接種しておくことが非常に重要です[4], [7]。この協力が、家族全体で赤ちゃんを守る「集団免疫」につながります。

妊娠中の「安心」対策:インフルエンザワクチン

妊婦さんがインフルエンザにかかると重症化しやすい理由

妊娠中は、インフルエンザに罹患した場合に重症化するリスクが高いことが知られています。

  1. 免疫力の低下: 妊娠中は、お母さんの体が赤ちゃんを「異物」として攻撃しないよう、意図的に免疫力が低下しています。これにより、インフルエンzaなどの感染症にかかりやすくなります[8]


  2. 身体的負担の増大: 妊娠後期には、増大した子宮が心肺機能を圧迫し、身体的負担が増します。この状態でインフルエンザに罹患すると、肺炎などの合併症を引き起こし、非妊娠時よりも入院リスクが大幅に高まることが報告されています[8]

妊婦さんが打つべきか? 安全性と2つの大きなメリット

結論から言うと、厚生労働省や日本産科婦人科学会は、妊婦さんがインフルエンザに罹患した場合の重症化リスクを考慮し、流行前の接種を強く推奨しています[8]

安全性について

インフルエンザワクチンは、病原体を無毒化した「不活化ワクチン」であり、生きたウイルスは含まれていません[9], [10], [11]。そのため、妊娠中のどの時期に接種しても、胎児に悪影響を及ぼすことはないとされています[9], [12], [10]

日本人妊婦を対象とした研究でも、インフルエンザワクチン接種による胎児への悪影響は認められていません[13]

ワクチン接種の2つのメリット

  1. 母体の重症化予防: まず、お母さんがインフルエンザにかかる可能性を下げ、かかっても重症化するリスクを大幅に下げます[8]


  2. 赤ちゃんへの移行免疫: お母さんが接種することで作られた抗体は、胎盤を通過して赤ちゃんに移行します。これにより、生後6ヶ月間(ワクチンが接種できない期間)、赤ちゃんがインフルエンザに感染するリスクが低下することが報告されています[14], [8]

注意点:アレルギーと主治医への相談

ワクチン接種によって、発熱や接種部位の腫れといった副反応が起こる可能性はありますが[8]、インフルエンザに罹患した場合の重症化リスクは、これらの副反応のリスクをはるかに上回ると考えられています[8]

ただし、重度の卵アレルギーなど、特定の持病やアレルギーがある場合は注意が必要です。ワクチン製造過程でごくわずかに卵由来の成分が残存することがあるため、重篤な卵アレルギーの既往がある場合は、接種の是非を必ず主治医と相談して判断しましょう[15], [11]

【重要】接種を受ける前に、必ず医療機関へ確認を

インフルエンザワクチンは公的に推奨されていますが、一部のクリニックや病院では、妊婦への接種方針が異なる場合があります[15]。念のため、接種を希望する際は、事前に医療機関に「妊婦ですが、インフルエンザワクチン接種は可能ですか」と電話等で確認してから予約を入れるようにしましょう。

妊娠前に確認しておきたいその他のワクチン

風しん以外にも、妊娠前に免疫の有無を確認し、必要に応じて接種が推奨される感染症があります。これらは生ワクチンの場合は、妊娠中は接種できません。

麻しん(はしか)

  • 妊娠中のリスク: 妊婦が感染した場合、流産や早産のリスクが高まることが指摘されています[16], [17]。また、妊婦自身が肺炎や脳炎といった重篤な合併症を引き起こす可能性が高まります[16], [17], [18], [1]


  • 接種のタイミング: 麻しんワクチンは、風しんワクチンと混合されたMRワクチンとして接種されることが一般的です。MRワクチンは生ワクチンであるため、妊娠中は接種できません。したがって、妊娠を計画する前に抗体検査を行い、免疫が不十分であれば接種しておくことが不可欠です[16], [19]。接種後は風しんと同様に2ヶ月間の避妊が推奨されます[6]

水痘(みずぼうそう)

  • 妊娠中のリスク: 妊婦が感染すると、肺炎を起こし重篤な経過をたどるリスクが高まります[20], [21], [22]。特に妊娠13〜20週頃の感染は、胎児に先天性水痘症候群を引き起こす可能性があり、皮膚の瘢痕や四肢の形成不B全、脳・眼の異常などが報告されています[21]


  • 接種のタイミング: 水痘ワクチンも生ワクチンであるため、妊娠前の接種が推奨されます[19]。接種後は風しんワクチンと同様に2ヶ月間の避妊が推奨されています[23]

具体的な予防接種のステップと助成制度の活用

まずは「抗体検査」から

妊娠を計画する際、最初に行うべきことは、血液検査による「抗体検査」です[19]。これにより、風しん、麻しん、水痘などに対する免疫が十分にあるかどうかを確認できます。検査結果は通常2〜3日程度で判明します[23]

賢く、自治体の「助成制度」を活用する

風しんの予防接種と抗体検査については、多くの自治体が費用助成制度を実施しています。

自治体名 助成対象者(例) 助成内容(例) 助成方法(例)
名古屋市 妊娠を希望する女性、妊婦の同居者など 抗体検査、予防接種ともに無料
(全額公費負担)[22]
公費負担
大阪市 妊娠を希望する女性、妊婦の配偶者・同居者など MRワクチン:
10,351円(上限)など[17]
償還払い(一旦支払い、後日申請)※一部所得制限あり[17]
調布市(東京) 低抗体価と判明した妊娠希望女性など MRワクチン:
4,000円(自己負担額)など[24]
協力医療機関で自己負担分を支払い
神奈川県 妊娠を希望する女性、妊婦の同居者など 抗体検査は無料(全額公費負担)[25] 公費負担(協力医療機関での申し込みが必要)[25]
福岡県 妊娠希望者等とその同居者向け風しん抗体検査が無料で受けられます[26] 抗体検査は無料[26] 公費負担[26]

助成の対象者、金額、手続き方法は自治体によって大きく異なります。お住まいの地域の情報を事前に確認し、積極的に活用しましょう。

余裕を持った計画が成功の秘訣

生ワクチンを接種する場合、推奨される2ヶ月間の避妊期間を考慮し、妊娠を希望する時期から逆算して、できるだけ早く抗体検査と予防接種の計画を立てることが重要です[19], [1]

予防接種は、自分自身と未来の赤ちゃんへの、最も確実な「健康への投資」です。主治医やパートナーと相談しながら、計画的に準備を進めていきましょう。

参考文献

この記事は、主に以下の公的機関および学術的機関が公開している情報・研究報告書に基づき作成されています。

  • 風しん関連
    • 厚生労働省: 妊娠前の女性は「風しん」の予防接種をご検討ください。[5]
    • 厚生労働省科学研究費補助金: 風しん流行及び先天性風しん症候群の発生抑制に関する緊急提言(平成16年9月9日)[4]
    • 国立感染症研究所: 風疹に関する情報[2]
    • 三重県 健康福祉部 感染症対策室: 風しん患者発生時の対応ガイド[27]
  • インフルエンザワクチン関連
    • 厚生労働省: 妊娠されている方のワクチン接種について[28]
    • 厚生労働省科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業): 妊婦に対するインフルエンザワクチン接種による安全性の検討(前向きコホート研究による調査結果)[13]
    • 日本産科婦人科学会: 新型インフルエンザワクチンの妊婦への接種について[12]
    • 日本産科婦人科医会: 妊婦・授乳婦へのインフルエンザワクチン, 抗インフルエンザウイルス薬投与に関するQ&A[29]
  • 自治体助成制度(各自治体の公的広報資料)
    • 名古屋市: 風しん抗体検査・予防接種費用助成[22]
    • 大阪市: 風しんワクチン接種費用の公費助成について[17]
    • 練馬区: 風しん「抗体検査」および風しん「予防接種」の費用助成について[30]
    • 調布市: 風しん抗体検査・予防接種のご案内[24]
    • 神奈川県: 風しん抗体検査の無料実施について[25]
    • 福岡県: 妊娠希望者等とその同居者向け風しん抗体検査が無料で受けられます[26]

引用文献

[1] 麻疹・風疹ワクチン | 白山レディースクリニック | 女医在籍の産婦人科 文京区 https://www.hakusanladies.com/mr_vaccine/[2] 風疹流行および先天性風疹症候群の発生に関するリスクアセスメント第二版(2013年9月30日) https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/diseases/ha/rubella/3980-rubella-ra-2.html
[3] 新生児の風疹 - 23. 小児の健康上の問題 - MSDマニュアル家庭版 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/23-小児の健康上の問題/新生児の感染症/新生児の風疹
[4] 職場における 風しん対策ガイドライン https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2013/133091/201318025A/201318025A0012.pdf
[5] 妊娠初期の女性が - 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001548127.pdf
[6] 風疹予防接種後は、いつから子づくりを行うことができますか? - ユビー https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/qicp0y27m-7
[7] ストップ!風しん - Know VPD! https://www.know-vpd.jp/feature_fushin.php
[8] 妊婦でもインフルエンザの予防接種は受けていいの? | アルコール手指消毒剤手ピカジェル https://www.kenei-pharm.com/tepika/column/disinfection/column34/
[9] 妊娠中に気をつけたい感染症シリーズ⑤:インフルエンザ 院長コラム#027 | マミーズクリニックルナ https://www.mcl.baby/news/column027/
[10] 妊娠中の人や 授乳中の人へ - 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/ninpu_1217_2.pdf
[11] インフルエンザワクチンQ&A|卵アレルギー・妊娠中・持病がある方へ|日進市・長久手市・みよし市・東郷町 https://www.tagaya-clinic.com/blog/インフルエンザワクチンqa|卵アレルギー・妊娠/
[12] 至急連絡 - 日本産婦人科医会 https://www.jaog.or.jp/sep2012/News/influ/091008_02.pdf
[13] 妊婦に対するインフルエンザワクチン接種の安全性:妊娠転帰への影響 https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2018/182111/201818022A_upload/201818022A0019.pdf
[14] インフルエンザが妊婦と赤ちゃんに及ぼす影響 - 新型出生前診断 NIPT Japan https://niptjapan.com/column/influenza-pregnancy/
[15] インフルエンザQ&A妊婦・授乳婦の皆様へ 【薬剤科】 | 市立御前崎総合病院 https://omaezaki-hospital.jp/category/activities/good-story/innfuruennza part2/
[16] 妊娠中に気をつけたい感染症シリーズ⑥:麻疹(ましん) 院長コラム#034 | マミーズクリニックルナ https://www.mcl.baby/news/column034/
[17] 風しんワクチンの接種費用助成のお知らせ - 大阪市 https://www.city.osaka.lg.jp/kenko/page/0000259598.html
[18] 妊婦が麻疹(はしか)に感染すると胎児にどのような影響がありますか? - ユビー https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/9ggt-xnm1
[19] 妊娠したら予防接種歴を確認!〜仕舞ってあった自分の母子手帳を開いてみましょう〜 - 東京ベイ・浦安市川医療センター https://tokyobay-mc.jp/obstetrics_gynecology_blog/web05_99/
[20] 水ぼうそう(水痘)について - こどもとおとなのワクチンサイト https://www.vaccine4all.jp/news-detail.php?npage=2&nid=166
[21] 妊娠中の感染症 - 立川市 - こむかい産婦人科 https://komukai.net/obstetrics/diseases_during_pregnancy/
[22] 妊娠希望の方等への任意風しん抗体検査及び予防接種の費用助成について - 名古屋市 https://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/page/0000136178.html
[23] 妊娠前に知っておくべき、ウィルス抗体とワクチン接種について - 品川イーストクリニック https://e-clinic.gr.jp/column/4342/
[24] 風しん抗体検査・風しん予防接種の費用助成(先天性風しん症候群対策事業) | 調布市 https://www.city.chofu.lg.jp/060070/p037057.html
[25] 風しんについて(県民・事業者向け) - 神奈川県ホームページ https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/cnt/f420454/index.html
[26] 【妊娠希望者等とその同居者向け】風しん抗体検査が無料で受けられます - 福岡県庁ホームページ https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/fushinkoutai-2019.html
[27] 自治体における風疹発生時対応ガイドライン〔第二版〕 - 三重県感染症情報センター https://www.kenkou.pref.mie.jp/topic3/rubella_municipality.pdf
[28] 妊娠されている方へ 新型インフルエンザワクチンの接種 にあたって - 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/dl/infu091028-01.pdf
[29] CQ35 妊婦・授乳婦へのインフルエンザワクチン, 抗インフルエンザウ http://www.midorii-clinic.jp/img/guide_19.pdf
[30] 風しん「抗体検査」および風しん「予防接種」の費用助成について(先天性風しん症候群対策) https://www.city.nerima.tokyo.jp/hokenfukushi/hoken/yobo/koutaikensa.html

記事監修

梅ヶ丘産婦人科

ARTセンター長

齊藤 英和

医学博士
日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
日本生殖医学会認定 生殖医療専門医
近畿大学先端技術総合研究所・客員教授
昭和大学医学部・客員教授
東京都不妊・不育等医療費助成事業実施に係る専門医師
神奈川県地方創生推進会議 副座長
【経歴】
・昭和54年
山形大学医学部卒業 産婦人科助手
・昭和56年~57年
南カリフォルニア大学research fellow
・昭和57年~
山形大学医学部 産婦人科助手→講師→助教授
・平成14年3月~
国立成育医療研究センター不妊診療科長
・平成25年11月~
国立成育医療研究センター周産期母子診療センター副センター長 兼 不妊診療科長
・平成31年4月~
梅ヶ丘産婦人科ARTセンター長

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