【元胚培養士が解説】不妊治療の先進医療「SEET法」とは?流れや効果・費用をわかりやすく説明します!

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2025.12.12

不妊治療

胚盤胞まで育たないのは精子のせい?受精卵の成長が止まる原因と対策を専門家が解説

体外受精にステップアップし、 毎回の採卵で卵子は得られ、受精も乗り切るものの、胚の成長が途中で止まり、なかなか胚盤胞まで育たず、移植ができない…という 経験に、深く悩まれている方は少なくありません。

「卵子の質が原因なのかな…」とご自身を責めてしまう方もいらっしゃいますが、実は、受精卵が胚盤胞へと成長する過程には、精子の質が大きく関わっていることがわかってきています。

この記事では、胚盤胞の成長と精子の関係に焦点を当て、なぜ胚盤胞にならないのか、そして胚盤胞到達率を高めるために何ができるのかを、わかりやすく解説します。

胚盤胞まで育てることの重要性


まず、なぜ不妊治療において「胚盤胞」を目指すことが多いのでしょうか。

  • 胚盤胞とは? : 受精卵が細胞分裂を繰り返し、着床(子宮内膜に根付くこと)する直前の状態まで成長した胚のことです。通常、受精後5〜6日目にこの状態になります。

  • なぜ重要? : 胚盤胞まで自力で成長できる胚は、生命力が強く、 着床する力が高いとされています 。そのため、初期胚(受精後2〜3日目の胚)を移植するよりも、 胚盤胞を移植した方が着床率・妊娠率が高く なります。

つまり、 胚盤胞まで育てることは、妊娠率を高めるための重要な一歩です。 

なぜ?受精卵の成長が止まる主な原因


受精卵が胚盤胞まで育たない原因は複数考えられますが、 主に以下の3つが関係していると予測されます。

1. 卵子の質

卵子の質は、胚の成長に最も大きな影響を与える要因の一つで、特に年齢とともに低下する傾向があります。受精後、初期の細胞分裂(〜3日目)のエネルギーは、主に卵子の中にあるミトコンドリアによって供給されます。そのため、卵子の質が低いと、細胞分裂が途中で止まってしまうことがあります。

2. 精子の質

これまで見過ごされがちでしたが、近年の研究で胚の成長、特に3日目以降に精子の質が極めて重要であることがわかってきました。見た目や運動率といった一般的な精液検査の数値が良くても、「質」に問題が隠れているケースがあります。

3. 胚の染色体異常

受精の段階で、偶然胚の染色体に異常が起こることがあります。多くの場合、染色体異常を持つ胚は、成長の途中で自然に淘汰されていきます。

これは卵子や精子の質に関わらず、誰にでも起こりうることです。 更に言うと、染色体異常のある胚であっても、淘汰されず胚盤胞まで成長する可能性も0ではないのです。

卵子、精子どちらのせい?胚の成長と精子の深い関係


「卵子の力が一番重要である」と考えられがちですが、実はそうではありません。

受精後の胚の成長は、以下の2段階で進みます。

  • 〜3日目(初期胚)まで:主に卵子の力で成長します。
  • 3日目以降〜胚盤胞まで:精子由来の遺伝子(ゲノム)が働き始め、胚の成長を主導します。

つまり、初期胚までは順調に育つのに、その後成長が止まってしまう場合、精子側に原因がある可能性が考えられます。

そこで注目されるのが、精子のDNAの損傷(DNA断片化)です。

精子は、大切な遺伝情報であるDNAを運ぶ役割を担っていますが、そのDNAは、喫煙習慣、ストレス、生活習慣の乱れなど様々な要因によって傷つく可能性が報告されています。このDNAの損傷が激しいと、胚の成長に必要な遺伝情報がうまく働かず、途中で細胞分裂が止まってしまうのです。

この精子DNAの損傷は、一般的な精液検査ではわかりません 。「精液検査の結果は良好なのに、なぜ上手くいかないの」と悩まれる方も少なくないのですが、原因はこれにあります。精液検査は精子の形や運動性、精子の数を測定しているもので、精子内部にあるDNAを測定することはできません。

胚盤胞到達率を上げるためにできること


では、精子の質を高め、胚盤胞への成長をサポートするためには、何ができるのでしょうか。ご自身でできることと、クリニックで勧められている方法をご紹介します

ご夫婦で取り組める生活習慣の改善(主に男性側)

精子が作られ、成熟するまでには約3ヶ月かかります。今日からの生活習慣の見直しが、未来の胚を育む力になります。

  • 禁煙・節酒 : 喫煙は精子DNAを損傷させる最大の原因の一つです。禁煙は必須と考えましょう。 また、毎日お酒を飲まれる方は、量を抑えるなどを考えましょう。

  • バランスの良い食事 : 抗酸化作用のあるビタミンC・E、亜鉛、コエンザイムQ10などを積極的に摂取しましょう。(例:パプリカ、ナッツ類、牡蠣、青魚など)

  • 適度な運動 : 血流を改善し、精巣の機能を高めます。ただし、激しすぎる運動は活性酸素を増やすため逆効果になることもあります。

  • 長時間のサウナや自転車を避ける : 精巣は熱に弱いため、温めすぎないように注意しましょう。 ただ、施設(クリニック)によって考えが異なることがあります。

  • 禁欲期間を長くしすぎない : 「精子は溜めた方がいい」は間違いです。精子の寿命はおおよそ3日間とされています。禁欲期間が長くなると、寿命を過ぎた精子が増え、受精能力が落ちる可能性がありますし、古くなった精子は死滅する際に「活性酸素」という物質を放出し、それが周囲の元気な精子にもダメージを与えてしまうことがわかっています。2~3日に1回程度射精を心がけましょう


  • 質の良い睡眠 : 睡眠不足はホルモンバランスを乱し、精子の質を低下させます。


クリニックで相談できること

生活習慣の改善と合わせて、より専門的なアプローチも有効です。

●専門的な精子検査 :

  • ・精子DNA断片化指数(DFI)検査 : 精子のDNAがどれくらい損傷しているかを数値で確認できます。治療方針を決める上で重要な指標となります。

●顕微授精における高度な精子選択(選別)技術:

  • ・IMSI (イムジー) : 6000倍以上の高倍率の顕微鏡で精子を観察し、より形態が良好な精子を選び出す方法。
  • ・PICSI (ピクシー) : ヒアルロン酸を用いて、成熟した良好な精子を選び出す方法。
  • ・膜構造を用いた生理学的精子選択術: DNAを損傷させる可能性のある遠心分離を遣わずに精子調整を行う方法。

●その他 :

  • ・タイムラプスインキュベーター : 受精卵を培養器の外に出すことなく、継続的に観察できるシステム。胚に与えるストレスを最小限に抑え、分割の様子を詳細に分析することで、最も質の良い胚を選ぶのに役立ちます。

まとめ

最後に、この記事の重要なポイントをまとめます。

  • ・胚盤胞まで育たない原因は、卵子だけでなく精子の質も大きく関係している。

  • ・特に受精3日目以降の胚の成長には、精子由来の遺伝子が重要な役割を果たす。

  • ・見た目が良い精子でも、DNAが損傷している可能性があり、それは一般の精液検査ではわからない。

  • ・禁煙や食生活の改善など、生活習慣を見直すことで精子の質は改善できる可能性がある。

  • ・専門的な精子検査や、IMSI・PICSIなどの高度な技術によって、質の良い精子を選ぶことも可能。

胚盤胞まで育たないと、移植に進めず妊娠への道が閉ざされたように感じてしまい、大きな不安や落ち込みを抱くこともあると思います。

けれども、その原因は一つではありません。精子の質や生活習慣など、改善できることもあります。

どうか女性だけのせいにせず、ご夫婦で支え合いながら、主治医と一緒に最適な方法を探していきましょう。

参考文献

Simon L, et al. "Sperm DNA damage and its clinical relevance in assessing reproductive outcome."
Asian Journal of Andrology (2017)
(和訳:精子DNA損傷と生殖医療成績を評価する上での臨床的意義)
概要:精子のDNA損傷が、胚の発生、胚盤胞到達率、妊娠率、流産率にどのように影響するかを包括的にレビューした論文です。本記事の「精子DNA断片化」に関する記述の主な根拠となっています。

Smits RM, et al. "Antioxidants for male subfertility." Cochrane Database of Systematic Reviews (2019)
(和訳:男性不妊に対する抗酸化物質)
概要:複数の臨床研究を統合・分析し、抗酸化物質(ビタミンC、亜鉛など)のサプリメントが精液所見や妊娠率を改善するかどうかを評価した、信頼性の高いコクランレビューです。「生活習慣の改善」の項で言及した栄養素の根拠としています。

Robinson, L., et al. "The effect of sperm DNA fragmentation on miscarriage rates: a systematic review and meta-analysis."
Human Reproduction (2012)
(和訳:精子DNA断片化が流産率に与える影響:システマティックレビューとメタアナリシス)
概要:精子DNA断片化率が高いと、妊娠後の流産リスクが有意に上昇することを示したメタアナリシス(複数の研究を統合した分析)です。胚盤胞まで育つかどうかだけでなく、その後の妊娠継続にも精子の質が重要であることを示しています。

監修

塚田寛人

大学卒業後、検査会社にて動物の検査業務を担当。その後、医療法人三秀会中央クリニックにて胚培養業務に従事。クリニック開業に伴う、培養室立ち上げにも参画。現在は、高度生殖補助医療(体外受精)や妊活で悩む方へのオンライン相談やのほか、株式会社QOOLキャリア(https://career.qo-ol.jp/)へ協力し、企業に勤める女性へ医療情報を提供するなどのサポートを行っている

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