肥満は精子に影響する?男性不妊との関係

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2026.06.15

カラダ

肥満は精子に影響する?男性不妊との関係

「最近、お腹まわりが気になってきたけれど、特に体調が悪いわけじゃないから大丈夫。」
健康診断で「メタボ予備軍」や「肥満」と指摘されても、日常生活に支障がないとつい深刻に考えずに過ごしてしまいがちです。


しかし近年、肥満は単なる生活習慣の問題ではなく、男女ともに妊娠のしやすさに直結する重要な要因であることが分かってきました。今回は男性の肥満が精子にどのくらいの影響を与えるのか、その理由と対策を分かりやすく解説していきます。

【日本の現状:男性の約3人に1人が肥満】

まず、日本の状況を見てみましょう。厚生労働省の調査では、日本人成人男性の約32%が肥満(BMI25以上)とされていますつまり、およそ3人に1人が肥満に該当する計算になります。


さらに近年は晩婚化の影響もあり、30代・40代から妊活を始める方が増えています。
この年代では、

  • ・不規則な食生活
  • ・睡眠不足
  • ・運動不足
  • ・ストレスの蓄積
  • ・基礎代謝の低下

などが重なり、知らないうちに体重が増えやすい環境にあります。また見落とせないのが夫婦は生活習慣を共有しているという点です。


パートナーの一方が肥満の場合、もう一方も肥満である割合が高いことが知られています。
一緒に暮らしていると食事内容、運動習慣、睡眠リズムなどを共有しているためです。
肥満は個人だけの問題ではなく、夫婦で向き合うテーマとも言えるかもしれません。

【肥満は精子にどのような影響を与える?】


では実際に、肥満は男性にどのような影響を与えるのでしょうか。研究では次のような変化が報告されています。

  • ・精子濃度の低下
  • ・精子運動率の低下
  • ・正常形態率の低下
  • ・精子DNA損傷(DNA断片化)の増加

など、実際に精液検査の異常が増えることが知られています。他にも標準体重の男性と比較すると、肥満男性では精子の数が極端に少ない「乏精子症」や、動きが悪い「精子無力症」のリスクが約3倍に上昇するというデータもあります。


さらに近年、特に重要視されているのが「精子DNAの質」です。精液検査では問題なく見える精子でも、内部のDNAが傷ついている場合があります。DNA断片化が増えると、

  • ・受精しにくくなる
  • ・胚発育が低下する
  • ・流産率が上昇する

など様々な悪影響があることも分かってきました。
つまり、“見た目の精子の数や動き”だけでは分からないレベルで、肥満が精子へ影響している可能性があります

【妊活や体外受精への影響】


肥満の影響は自然妊娠だけではなく、体外受精の結果にも影響を与えることがあります。

・自然妊娠への影響

男性のBMIが高い場合、自然妊娠までにかかる期間が長くなる傾向があることが知られています。さらに、男女ともに肥満である場合には、その期間がより長くなることも報告されています。


また、肥満は勃起不全(ED)や性欲の低下とも関連しており、「排卵日のタイミングで性交が持てない」というチャンスそのものを逃してしまうリスクも高まります。

・体外受精・顕微授精への影響

「自然妊娠は難しくても体外受精なら大丈夫」と思われることもあるかもしれません。
しかし、精子の質が低下していると、

  • ・受精率の低下
  • ・胚盤胞到達率の低下
  • ・妊娠率の低下

を招く可能性があります。


肥満は精子の質だけでなく、妊娠成立までの過程全体に影響を与える可能性があります。そのため、男性側の体重管理や生活習慣の改善も、不妊治療の重要な一部と考えられています。

【なぜ肥満で精子の質が低下するのか?】

「お腹の脂肪と精子を作る能力に関係があるの?」と感じるかもしれません。しかし近年の研究で、肥満は体の中でさまざまな変化を引き起こし、それが精子を作る力にも大きく関係していることが分かってきました。

① ホルモンバランスの崩れ

精子形成に不可欠なのがテストステロン(男性ホルモン)です。しかし、脂肪組織から分泌する「アロマターゼ」という酵素は、このテストステロンをエストロゲン(女性ホルモン)へ変換してしまいます。

脂肪が増えるほど体内の女性ホルモン比率が高まり、精子を作る工場である精巣への指令が弱まってしまうことが知られています。

② 活性酸素(ROS)による酸化ストレス

肥満状態の体内では、体内の活性酸素(ROS)が増加します。活性酸素は、老化や生活習慣病との関連でも知られています。


精子は酸化ストレスに非常に弱い細胞のため、活性酸素が増えると精子DNAの損傷や精子の細胞死(アポトーシス)などが起こりやすくなります。

③ 陰嚢(いんのう)温度の上昇

精巣が正常に働くには体温より3~4℃低い環境が必要です男性の陰嚢が体の外にあるのは低い温度に保つためと考えられています。


しかし、肥満によって太ももや下半身に厚い脂肪がつくと、陰嚢に熱がこもりやすくなります。
わずか1℃の温度上昇でも精子にとっては致命的で、運動停止やDNA損傷の直接的な原因となります。

④ エピジェネティックな変化(次世代への影響)

最新の研究で注目されているのが「エピジェネティクス」です。
これはDNAの設計図自体は変えずに「遺伝子のスイッチ」が変化する現象のことです。
近年、父親の肥満が精子のエピジェネティクスを変化させることが分かってきました。そしてその変化が次世代に引き継がれることで、子どもの代謝や健康へ影響を与える可能性が示唆されています。

【減量による改善効果は?】


ここまでリスクをお伝えしましたが、最も重要なポイントは、肥満は改善できる可能性があるということです。


研究では、食事制限などで平均16kgの減量に成功したグループでは、精子濃度が約1.49倍、精子総数が約1.41倍にまで改善したという報告があります。さらに、精子DNA断片化指数(DFI)の低下が確認できた報告もあります。


減量によって精子の数だけでなく精子の質の改善も期待できる可能性があります。ただし、リバウンドすると精液所見も再び悪化する傾向が報告されているため、一時的な減量ではなく、健康的な生活習慣を継続することが、妊活成功の重要なポイントになります。

【まとめ】

「今のところ体調に問題はないから大丈夫」
そう思っている間にも、見えない部分で精子の質は変化しているかもしれません。


不妊は決して女性だけの問題ではなく、男性側の要因が関わるケースが約半分を占めます。年齢や遺伝といった変えられない要因はありますが、体重や生活習慣は自分たちの意思で変えていける要素です。
適切な体重管理は、

  • ・妊娠のしやすさ
  • ・将来の自分自身の健康、
  • ・将来授かる子どもの健康

につながります。


まずは無理のない範囲で、日々の食事内容や歩く距離を意識することから、二人で妊活を始めてみることが重要かもしれません。
次回は女性の肥満と不妊治療への影響に関して書いていきたいと思います。

※主な参考文献

Obesity and male infertility: multifaceted reproductive disruption
Published: 04 April 2022 Volume 27, article number 8, (2022).
Gargi Ray Chaudhuri, Arnab Das, Swaraj Bandhu Kesh, Koushik Bhattacharya, Sulagna Dutta, Pallav Sengupta
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Andrea Garolla, Mario Torino, Paride Miola, Nicola Caretta, Damiano Pizzol, Massimo Menegazzo, Alessandro Bertoldo, Carlo Foresta
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Emil Andersen, Christian R Juhl, Emma T Kjøller, Julie R Lundgren, Charlotte Janus, Yasmin Dehestani,Marte Saupstad, Lars R Ingerslev, Olivia M Duun, Simon B K Jensen, Jens J Holst, Bente M Stallknecht,Sten Madsbad, Signe S.

本日お話をおうかがいした方

塚田寛人

大学卒業後、検査会社にて動物検査業務に従事。その後、医療法人三秀会中央クリニックにて胚培養士として勤務。また、クリニック開業時の培養室立ち上げにも参画。現在は川越レディースクリニックで医療部マネージャーを務めながら、高度生殖補助医療(体外受精)や妊活に関するオンライン相談を行い、患者様支援に幅広く携わっている。

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