【対談・前編】東尾理子×ヒロクリニック統括院長・岡博史先生|「35歳から高齢出産」が日本に与えた誤解と、知られていない男性不妊のリアル
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妊活お役立ち情報
目次
- 「妊活している人=年齢が高い」という思い込み
- 体の準備は、結婚を決める前から
- 20代は、やりたいことが一番多い時期でもある
- 「高齢出産は35歳から」という定義が生んだ誤解
- 定義が変わった瞬間に、社会へ伝わったメッセージ
- 情報を求めていない人に、どう届けるか
- 不妊の半分は、男性側にある
- 1,000人に1人のクラインフェルター症候群と、行われない精液検査
- 結婚前の検査に、精液検査は入っていない
- 50年で半減した、日本人男性の精子
- 卵子は、自分の年齢と同じ
- 小学5年生のメダカで止まっている性教育
- 親世代も教わっていないから、子どもと話せない
- 家庭に「きっかけ」を1つ置く
- 遺伝と環境 — 「音痴は親のせいにしていい」
- 知能の遺伝と、一卵性双生児の研究
妊娠・出産について、私たちはいつ、どこで学んだでしょうか。学校の授業ではメダカの受精までしか教わらず、家庭では話題にしにくい。その結果、「35歳までは大丈夫」「不妊は女性側の問題」といった誤解が、知らないうちに広がっていきます。
今回はヒロクリニック統括院長の岡博史先生をお迎えし、「妊活の歩み方」主宰・東尾理子との対談(前編)をお届けします。高齢出産の定義が生んだ誤解、ほとんど知られていない男性不妊の実態、そして止まったままの性教育について、率直に語り合いました。
「妊活している人=年齢が高い」という思い込み

岡先生:本日はスペシャルゲストに来ていただきました。東尾理子さんです。ご自身の妊活経験を発信されながら、妊活情報サイト「妊活の歩み方」をプロデュースされています。
東尾:よろしくお願いします。
岡先生:それはどんなサイトなんですか。
東尾:妊活の当事者の方に見ていただきたいサイトです。全国600以上ある各治療の専門病院にアンケートを取って、その直接の回答から検索できるような、かなりマニアックなつくりになっています。あとは治療のことや情報を発信しています。
岡先生:なるほど。ユーザーとしては、妊活しているということはやっぱり若干年齢が高い方が多いんですか。
東尾:なんで妊活していると年齢が高いってなるんですか。決めつけないでください。20代でも30代でも、治療しなければいけない方はいらっしゃいます。そういうステレオタイプが、その方たちの心を一番痛めるんですから(泣)。「妊活している人=年齢が高い」って決めちゃだめですよ、先生。
岡先生:ああ、なるほど。
東尾:お会いして初めまして5分ですけど(笑)。
体の準備は、結婚を決める前から
東尾:日本の文化として、結婚してから初めて妊娠・出産を考え始めて、体のこと、いわゆるプレコンセプションケアをチェックし始めるんですよね。でも、それだと遅いんです。
岡先生:もっと前から、ということですか。
東尾:そうです。みんな「心の準備ができた、結婚する、じゃあ体の準備もしよう」という順番なんですけど、そうじゃなくて、体の準備はずっと整えておく。心や気持ちで「結婚」と決まったときには、もう体は家族を作れる準備ができている。その順番にしないと、どんどん遅くなって、「欲しかった」というときに手遅れになってしまう。
岡先生:スタートが違ってしまってはいけない、ということですね。私も早ければ早いほうがいいと思っています。昔はやっぱり20代前半で結婚される方が多かったじゃないですか。
古いと言われるかもしれないけれど、体のことを考えたら、若いうちに結婚したほうがいいと思いますし、妊娠も早いほうがいい。第1子は20代で産んだほうがいいと私は思っています。
東尾:グサッときますけど、現実ですよね。平均寿命や健康寿命は上がっているけれど、生殖年齢は変わっていない。
岡先生:変わっていません。それはもう遺伝子に組み込まれていますから、変えようがないんです。何万年とそうやって人類が続いてきたわけであって、ここ数十年の間にこんなに妊娠が遅くなった。体、というかDNAはついていかないですよね。
20代は、やりたいことが一番多い時期でもある
東尾:けど、20代を振り返ると、なかなかそうは思えないんですよね。やりたいことがたくさんあるじゃないですか。私もアメリカツアーを回っていました。
岡先生:一番調子がいい時期ですもんね。
東尾:その頃は知らなかったんです。家族って、いつか望めば子どもってできるものだと思っていたので。
「高齢出産は35歳から」という定義が生んだ誤解

岡先生:私も、勉強を始める前は知りませんでした。高校生の頃なんてまったく意識していません。医学部に入って、卒業して医者になって、それでもまだ知らなかったかもしれない。
東尾:そうでしょう。みんな知らないんですよ。だから周りを見て「まだ結婚していないから、まだ大丈夫かな」って思う。芸能人の方が40歳を過ぎて産みましたというのを見て、「大丈夫なんだ」と思ってしまう。
定義が変わった瞬間に、社会へ伝わったメッセージ
それと、高齢出産の年齢が30歳から35歳に定義が上がったじゃないですか。これは大きな間違いだと思っています、日本で。
岡先生:なるほど。
東尾:これが上がった時点で、「35歳でいいんだ」「30歳は高齢出産じゃないんだ、遅らせていいんだ」というメッセージを、社会に伝えたと思います。
岡先生:それはあるかもしれないですね。勘違いしてしまいます。要するに30歳というのはまだまだ安全なんですよね。でも35歳となるとかなりリスクが高くなってくる。いわゆるダウン症なども含めてですね。それなのに「35歳までOKです」となってしまうと、その間にいろんなことが起きてしまいます。
東尾:知らないんですよ。だからそれを伝えたいという活動を、企業研修をさせていただいたり、サイトで発信したりという形でやっています。
情報を求めていない人に、どう届けるか
岡先生:情報を求めている人はもう大丈夫じゃないですか。求めていない人に伝えるのが難しいんですよね。
私は産婦人科じゃないので、ある意味で中立的なんです。産婦人科の先生、特に不妊治療をやっている先生だと、遅くなった方もある意味ではユーザーなわけじゃないですか。だから、いつまでも妊娠を試みていただきたいと思っている。40歳でも42歳になっても。
でも、なかなかできなくなってくる。染色体に異常が発生したりしますから。それでも「頑張りましょう」と言い続けることになる。私はただの医者なので、そこは違うんです。
東尾:先生、ご専門は何なんですか。
岡先生:専門は皮膚科なんですけど、内科も普通にやっていましたし、一通り回って勉強しているんですよね。美容外科もやっていたし、いろんなことをやっています。
不妊の半分は、男性側にある

東尾:不妊治療は2022年に保険適用になりましたよね。それで若い方が治療に行くきっかけにすごくなっていますし、あとは夫婦で最初に初診を受けなければいけないという形になった。女性にとっては、男性をどうやって一歩連れて行くかが大きな悩みだった方が多かったので、保険診療になって本当によかったことだと思います。
岡先生:不妊の半分は男性に原因があるんですよ。これを皆さん、やっぱり知らないですよね。
昔だったら、子どもができなかったら里帰りじゃないけど返された時代があったじゃないですか。江戸時代とか。あれは女性が悪いみたいになっているんだけど、半分は男性ですから。だから男女で行かないと意味がないんです。
東尾:全国で不妊治療当事者の皆さんのお話をよく聞くんですけど、今でも特に地方で多いのが、旦那さんが無精子症などの男性不妊で治療しなければいけないのに、旦那さんのお母さんやご家族はそれを知らない。だから自分が責められる、という悩みを抱えている奥さんは意外に多いです。
1,000人に1人のクラインフェルター症候群と、行われない精液検査
岡先生:これは我々の分野になるんですけど、クラインフェルター症候群という疾患があります。一見すると男性なんですが、精子がほぼないケースが多いんですよ。
知能も普通ですし、見た目も背が高くてすらっとしている方が多いので、一見普通に結婚されるんですね。そのあとに気づかないまま、後から自分がクラインフェルターだと分かる。これが大体1,000人に1人ぐらいです。
東尾:多いですね。それは遺伝するんですか。
岡先生:染色体異常なので遺伝はしないんですけれども、偶然に起こるんです。そういう方が不妊治療にやってくるわけですよね。それで無精子症と分かる。でも、それまで本人も知らないんです。
東尾:知らないですよね。男性は、精液の中に精子がいないなんて、多分知らないと思うんです。先生、ご存じでした?

岡先生:知っていました。
東尾:普通に、自分の精液があればそこに精子がいる、と男性は思っていると思うんですよね。
岡先生:精液だから数パーセントしか精子じゃないですからね。90何パーセントは精子ではないので、分からないですよ、それは。だから、事前に検査するというのはありだと思いますよね。
東尾:良いことを言いますね!ありじゃなくて、絶対してほしい。
結婚前の検査に、精液検査は入っていない
岡先生:そうだと思います。今、結婚前の検査っていろいろあるじゃないですか。HIVとか性感染症の検査とかはやるけれども、精液検査ってやらないですよね。
東尾:なかなかやらないですね。泌尿器科でもやっていない。
岡先生:多いですよ。精液は顕微鏡で見るだけなので、実はすぐ分かるんです。でも、泌尿器科は前立腺がんとか、そういうのが専門であって、不妊治療は「なんとなく産婦人科の仕事だよね」という雰囲気が泌尿器科の中にもあるんですよ。私も泌尿器科を回ったことがあるので分かるんですけど、専門でやっているところがあまりないんです。
50年で半減した、日本人男性の精子
東尾:けど、日本の男性の精子って、50年で半減しているじゃないですか。
岡先生:50年で半減している。そういうデータなんですか。知らなかったです。
東尾:大変ですよ。しかも、この20年で倍速ぐらいで減っていっているんです。すごい減少率なんですよ。
岡先生:知らなかったです。じゃあ調べます。
東尾:後で5分休憩するので、その時に調べておいてください(笑)。
岡先生:分かりました。それはサウナのせいとかですか。
東尾:それだけじゃないと思うんですけど、いろいろ理由があると言われていて。ただ、サウナは絶対よくないですよね、妊活中の。
岡先生:妊活中は絶対ダメです。やめたほうがいいです。
卵子は、自分の年齢と同じ
東尾:男性の精子のことも、多分皆さん知らないと思うし、女性で言うと、卵子は自分の年齢と同じだということも知らないと思う。
岡先生:おっしゃる通りです。お母さんのお腹の中にいた時から卵子は形成されていて、そこで第一減数分裂がほぼ終わりかかっていますから。
東尾:生まれた時にはもう半分以下になっている。それと、みんな毎月1個ずつなくなると思っているんですよ。
岡先生:そんなことはないですね。何百となくなります。
東尾:原始卵胞はどんどん出ていってしまう。だから「そんなにいっぱいあるのに、なんでなくなっちゃうの」と女性は思うんです。
岡先生:そういう教育がないじゃないですか。
小学5年生のメダカで止まっている性教育

岡先生:高校生ぐらいになると男女でクラスが分かれて、そういう勉強が少しあるじゃないですか。
東尾:先生、今は小学校で分かれたまま、そのままなんです。小学5年生でメダカのオスとメスは受精すると教わるんですよ。けど、人間は受精すると教わってはいけない。先生が教えてはいけないというか、教えないんです。
岡先生:そうなんですか。じゃあ、いつ教えているんですか。
東尾:まず男女は分けるということが定められていますし、中学・高校に行くと、いわゆる歯止め規定のようなルールがある。先生、おいくつですか。
岡先生:今55歳になりました。
東尾:同じぐらいですね。我々が小学校の時に受けた教育と、同じような教育を今の小学生も受けているんです。
岡先生:私はそういう教育を受けた記憶がないんですよ。学校で勉強した記憶は一度もないですね。
親世代も教わっていないから、子どもと話せない
東尾:親世代が教わっていないから、なかなか子どもと体の話を持ち出せない。そして子どもが少し教わり始めても、それを持ち帰った時に、親がどう受け止めて会話をしていいか分からない。
両方がそうなっているので、少しずつでも、ユネスコの国際セクシュアリティ教育ガイダンスに沿った、小さい時から普通に学ぶという教育をしていきたいなと思っています。
岡先生:スウェーデンやノルウェーはそういうのが早いですよね。すごくオープンですし、子どもを作ることに対してもすごく前向きで、いいなと思います。
なかなか日本だと、親と性の話ってしないですよね。自分も子どもがいますけど、そんな話をしたことは1回もないです。
東尾:きっかけがないじゃないですか。
岡先生:ないですね。うちは2人とも男の子なので、女性の体のことを教わる機会は少ない。話したこともないし、聞かれたこともないし、こちらから説明したこともないです。
東尾:先生のようなご職業の方が説明したことがないというんですから、一般の方は本当にハードルが高いですよね。どうしましょう。
岡先生:日本の、嫌なところは隠すという文化なんですよ。見たくないものは隠しておく。だから、なかなか変わらないと思いますよ。
家庭に「きっかけ」を1つ置く

岡先生:うちは本当にNIPTなどをやっているので、ダウン症の話題もするんですよ。そうすると子どもは「年を取って妊娠するとダウン症になりやすいよね」ということぐらいは知っているんですよね。私が普段、家でYouTubeを撮ったりするから、それを聞いているんだと思います。
東尾:先生がお話しされているというきっかけがある、ということですもんね。
私のほうは、家にきっかけをなんとなく置いておくんです。長男の時は、助産師の先生にお友達を集めて、20〜30人で命の授業をしていただいたりもしました。学校がやらないので。
岡先生:へえ。
東尾:その時すぐにフィードバックは来ないんですけど、1ヶ月、2ヶ月経ってふとした時に「あれは何々のことだったのかな」という話が出てくるんですよ。小学5、6年の時にやったんですけど、男女一緒に聞くことを恥ずかしがって、聞いていないそぶりを見せていた。それでもどこかには残ってくれているんですね。
あとは、家にフェムケアソープを置いておくと、「なんで女性だけこれを使えるんだ」という会話が出てくる。お友達が泊まりに来た時に洗顔だと思って使って、「それは洗顔じゃなくてフェムケアで洗うところだよ」という会話になって、「なんでそれが必要なんだ」という話が生まれるんです。物が1つあることで、自然と。
岡先生:なるほど。きっかけを作るということですね。うちも染色体の模型を置いています。中国で買ったやつなんですけど、YouTubeを撮る時にいつも食卓の上に乗っかっているんです。
東尾:それはいいですね。
遺伝と環境 — 「音痴は親のせいにしていい」

東尾:先生のお子さんも医学部に行かれたんですか。
岡先生:上はそうですね。
東尾:やっぱり自然とそうなるんですね。うちはゴルフをやらせているので。
岡先生:それは絶対そうですよ。遺伝子的にスポーツの遺伝子を持っているんですから、それを生かしたほうがいい。
東尾:ゴルフクラブとゴルフボールが転がっていますからね。環境って大切です。
岡先生:大事ですよ。音楽家の方はやっぱり音楽の道を選ぶ。常に音楽を聴いていますから。
東尾:それは遺伝子に組み込まれていることなのか、外の環境なのか。
岡先生:スポーツや音楽に関しては、遺伝の影響がすごく大きいです。
東尾:音痴なんですけど、親のせいにしていいですか。
岡先生:音楽が音痴な人は、子どもが音痴でも責められないですね。
東尾:自分が音痴なのは親の責任に。
岡先生:それでいいと思います。全然。あと、勉強も結構関係しているんですよ。6割か7割ぐらいは、知能って遺伝するんですよね。
知能の遺伝と、一卵性双生児の研究
東尾:お母さんとお父さん、どちらですか。
岡先生:両方です、均等に。だから両方が賢ければ、もちろん賢い子が生まれる可能性は高い。ただ、みんながみんなそういうわけじゃなくて、その中でもそうでもない子が生まれてくる。そういうものなんですよ。
東尾:けど、遺伝子がある人が頑張ったら追いつけないけど、遺伝子がある人が頑張らなければ追いつける、ということですよね。
岡先生:遺伝子があったとしても、頑張らなかったらもちろん無理です。面白いのが、一卵性双生児で、まったく違う環境に2人が置かれることがあるんですよね。
片方は裕福な家庭で勉強をたくさんさせる家庭、もう片方はそうでもない家庭。最初はスタートが同じで、片方がこう上がってくるんですけど、それが18歳で一致するんです。ほとんど変わらなくなる。
東尾:すごい。
岡先生:7割ぐらいが遺伝の要素なので、環境要素がだんだんなくなってくる。小さいうちは環境要素が大きいので、勉強させたほうが受験には強いんですよね。でも大人になってくると、いつの間にか一緒になってくるんですよ。
東尾:それが分かる遺伝子検査はあるんですか。
岡先生:そんな便利なものはないんですけど、統計学的に分かっているんです。18歳になると同じになるので、最初に急いで勉強するかしないかなんて、そんなに重要じゃないですよ。
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本日お話をおうかがいした方
ヒロクリニック
統括院長
医師・医学博士 岡 博史先生
● 略歴
o 1996年 慶應義塾大学医学部 卒業
o 2004年 慶應義塾大学 医学博士号 取得
o 2005年 慶應義塾大学 皮膚科学教室 助手
o 2008年 ヒロ皮フ形成クリニック 開業
o 2009年 医療法人社団福美会 理事長
o 2015年 医療法人社団福美会 理事
●資格
o CAPラボディレクター
o 日本皮膚科学会 皮膚科専門医
o 日本医師会 産業医
o 東京衛生検査所 指導監督医

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