精子について③良い精子の基準、知ってる?良い精子って何?
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妊活お役立ち情報
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妊活中、男性にとっても気になる精子の質。でも「良い精子」というのはどのような精子のことを指すのでしょうか。基準値が満たされていれば、良いと思いがちですが、そういうことでもないようです。今回は「男性の精子」について、元培養士の塚田寛人さんから詳しくお届けします。
精子①、精子②の記事では、精液検査について、男性側の取り組み方についてご説明してきました。 その中では、「良い精子」という言葉が何度か出てきたかと思います。
では、そもそも「良い精子」とはいったいなんなのでしょうか? そして、精子1個を選び、卵子の中に注入する顕微授精法は、どういった基準で精子が選ばれているのでしょうか?
今回は、病院ではどのように精液が利用されているのかを見ていきながら、「良い精子」について見ていきたいと思います。
精液はそのままでは不妊治療に使えない!
人工授精や体外受精では新鮮な精液を利用することが多いですが、提出された精液をそのままの状態で使用し、その中から精子を探している、そのまま人工授精に使用している、というわけではありません。
治療に用いる際には、かならず、精液から余分なものを取り除く「精液調整」作業がおこなわれます。
実は凄い!精液を構成する「精漿(せいしょう)」
そもそも精液=精子ではありません。精液は、細胞である精子と液体状の精漿(せいしょう)が合わさって構成されています。精液のドロドロは、この精漿と呼ばれるものです。
精子は勿論、子どもになるための重要な役割を果たしますが、精漿にも精子を保護するという重要な役割があります。
精子が卵子と出会うためには、とても長い距離を泳いでいく必要があります。腟内に射出された後が精子にとっての一番の山場です。その山場の前に力尽きてしまうことのないように、エネルギーを温存させるという意味も精漿にはあります。
人工授精や体外受精では精漿が邪魔になる
このように精漿は非常に重要な役割を果たしていますが、人工授精や体外受精においては、必要のない成分なのです。
人工授精では医師によって精子を注入されますし、体外受精では卵子も体外に取り出され、受精の際は長い距離を泳ぐ必要もないため、すぐにお仕事の時間!と言えますから、精漿成分は必要ありません。射出された時点で精漿成分の役割は果たしているわけです。
もっと言うと、精漿成分があると精子は受精できる状態にはならない(受精を阻害する成分も含まれている)ため、人工授精や体外受精時は取り外さなくてはいけないとも言えます。
そのため、「精液調整」は、この精漿成分を取り外す役割があります。精液には細菌や精子以外の細胞も含まれています。精液調整することで、これらの成分も除去できるメリットがあります。
また、精液調整には運動していない精子を除去し、運動している精子のみを抽出できるメリットもあるため、治療を行う際は必要不可欠な作業と言えるでしょう。
良い精子の基準とは?
精液調整が終われば、その精子は全て優秀な精子と考えられるのかと言うと、そうではありません。
運動している精子の中には、形が正常ではない精子、いわゆる奇形精子とよばれるものも多く含まれています。そしてそれらの精子は、正常な形態の精子に比べてDNA損傷が多い可能性があることが知られています。
更に、正常な形態の精子であってもDNA損傷がないとは言い切れません。問題がないかどうかを調べるためには、その1個の精子を検査する必要があります。検査に使用した精子は受精作業には使えません。つまり、卵子と受精させ、成長させ、移植して…といった、やってみないとわからない側面があります。
精子を調整する方法は複数ありますが、どんな精子調整法であれ、DNAの損傷がない精子だけを取り出すことは、まだできません。
では、いったいどういった精子が良い精子として扱われているのでしょうか?クリニックによって違いがありますが、いくつか代表的なものをご紹介します。
1、精子の形状
精子は、頭部、中片部、尾部の3つで構成されており、そのどこかに異常があれば奇形になります。わかりやすいものでは頭部が極めて大きいものや、頭部が二つあるものなどがあります。
精子は非常に小さく、かつ非常に俊敏なため、1個1個を確認するのは簡単な作業ではありませんが、胚培養士はその中から1個の正常形態精子を探し、顕微授精に利用します。
2、精子頭部の空胞の有無
先進医療項目には、「強拡大顕微鏡を用いた形態学的精子選択術」が含まれています。これはクリニックでは、IMSI(intracytoplasmic morphologically selected sperm injection)とも説明されることがあると思います。
通常の顕微授精(ICSI)では約400倍程度に精子を拡大して観察し精子を選別しますが、IMSIは更に倍率を増やし、1000倍以上に拡大してよりよい形態の良い精子を選ぶ方法です。
奇形精子の中には、精子頭部に「空胞」と呼ばれる細胞の穴のようなものが見られるものがあり、形が綺麗だが空胞がある精子、というのも存在します。この空胞のある精子は奇形精子とみなされる通り、正常精子よりもDNA損傷のリスクがある可能性があるため、使用を避けるに越したことはありません。
通常の倍率であっても、精子に見慣れているベテランの胚培養士の中には見える人もいますが、より大きい倍率で精子を観察することで、精子頭部をしっかり観察でき、精子を選別することが可能と考えられています。
3、成熟している精子
IMSIと同様に、先進医療には「ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術」と言う精子に注目した技術があります。これは、PICSI(physiological, hyaluronan-selected intracytoplasmic sperm injection)と呼ばれていて、科学的に精子を選択する方法と言えばわかりやすいかなと思います。
DNA損傷のない精子の頭部にはヒアルロン酸が結合し、DNA損傷のある精子の頭部には結合しないといった性質があります。
PICSIとは、この性質を利用し、ヒアルロン酸の多く含まれた特殊な培養液を使い、DNA損傷のないと思われる精子を選択し顕微授精に用いる方法です。 ヒアルロン酸に結合した精子は、頭が重くなり、動きが鈍くなることで判断することができます。
このように、不妊治療の現場では、DNA損傷の少ない精子を選ぶための技術が用いられています。共通して言えるのは、精子内のDNAは目で見て判断できるものではないということです。
そのため、様々なデータを集計した統計データや、精子の性質を利用し、DNA損傷がないと考えられる精子が選ばれています。 ただ、先ほども申し上げた通り、これは100%確実にわかるものではないということです。
良い精子とは、「DNAの損傷のない精子」であることは変わりませんが、その精子を狙って確実に、というのは体外受精治療においても まだできません。
顕微授精技術でもDNA損傷のない精子を確実に選ぶ、 というのは難しいのです。不妊治療技術には、複数の精子を卵子にふりかけ、精子と卵子の力で受精させる体外受精といった方法もありますが、これは顕微授精とは違い、それぞれのポテンシャルを信じて受精を頑張ってもらうという方法ですから、どの精子が卵子に入ったかは誰にもわかりません。
自然妊娠ではそれ以上に、どんな精子が卵子と受精して子どもになるかは誰にもわかりませんから、治療であれ、自然妊娠であれ、そこの部分の本質はほぼ同じです。
一方で、DNA損傷している精子と受精したからダメなのかというとそうではありません。仮に精子にDNA損傷があっても、受精後に卵子の力によって損傷が修復されることもあります。
それは結果的に、健康なお子さんが生まれることにも繋がります。 つまり、精子のDNA損傷があったから必ず妊娠しない、流産するという結果につながるわけではありませんから、気にしすぎることも良くないと思います。
ただ、喫煙、過度な飲酒や不規則な生活などの生活要因が、精液検査の結果や精子に良くないといった報告もあるように、生活習慣は重要です。生活の改善とは言わないまでも、自分の身体について理解をし、質の高い生活(適度な運動、質の高い睡眠、健康的な食事など)をお心がけいただく必要はあるのかもしれません。
わからないことなどありましたら、医師や医療者にご相談いただくのが良いと思います。
本日お話をおうかがいした方
塚田寛人
大学卒業後、検査会社にて動物の検査業務を担当。その後、医療法人三秀会中央クリニックにて胚培養業務に従事。クリニック開業に伴う、培養室立ち上げにも参画。現在は、高度生殖補助医療(体外受精)や妊活で悩む方へのオンライン相談やのほか、株式会社QOOLキャリア(https://career.qo-ol.jp/)へ協力し、企業に勤める女性へ医療情報を提供するなどのサポートを行っている。
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