男性不妊講座#2 精子力を計る!DFI検査|泌尿器科医 岡田弘
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妊活お役立ち情報
DFI検査について
今回は、精子力を計る!DFI検査について解説いたします。
不妊症の検査について
男性不妊の診療は特別なことをしているわけでなく、内科の先生と同じで、患者さんに問診・視診・触診を行って、臨床検査や画像診断を行います。
不妊症の原因を特定し、原因に合わせた治療を行っていくという流れなので、一般の診療と大きくは変わりません。
何が違うのかと言うと、女性と同じく、健康な男性をスクリーニング(疾病にかかっている可能性のある人を検査などでふるい分けること)して、病気を持っているかを確認するという点です。
原因が明らかな物の例としては、以下のとおりです。
●パイプカットしたために、無精子になって精子が出ない
● 糖尿病(DM)による射精障害
●末梢神経障害の末期状態で射精障害がある
●うまくセックスができない
通常は、何らかのスクリーニングをして、原因を突き止めることが、男性不妊診療の第一歩となります。
ストラテジーとして、問診や触診を行って、臨床検査を行いますが、各検査では、以下のような項目を調べます。
●問診:年齢、職業、お子さんができてない期間、精機能、病歴、生活習慣、配偶者の情報
●臨床検査:精液検査、画像検査、血液検査、尿検査、染色体検査、遺伝子検査
● 一般精液検査:精液量、精子濃度、1ccあたり精子が何匹いるか、精子全体のうち何%動いてるか
画像診断(超音波の検査)では、腫瘍がないか、静脈瘤がないかなどを検査して、骨盤に特殊な構造異常がある場合は、MRI検査を行うこともあります。
また、詳しい検査で、精子がどれぐらいのスピードで動き、泳いでいるか、精子の形態がどうかなどを検査していきます。
不妊症の原因が、ホルモンの異常となっているケースでは、以下のような4種類の内分泌検査を行います。
● 下垂体ホルモン(LH、FSH)
● 男性ホルモン(テストステロン)
● 乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)
検査で無精子だと診断された人は、染色体の検査や遺伝子検査を行うこともあります。
精液検査について
不妊症の外来を経験されている方はよく分かると思いますが、精液検査は、とても重要です。
精液検査は「男性不妊診療の最重要項目」というのが一般的な認識ですが、注意点があります。
精液検査では、さまざま項目を測定できますが、顕微鏡で観察できるのは、精液の量などです。精子の運動率は、目で測定できないので、コンピューター制御の機械で解析を実施します。
どれくらいのスピードで進むか、直進運動してる精子がどれくらいいるか、頭がどういう風に振りながら泳いでるか、尻尾はどのくらいビートを打つか、何回くらいしっぽを振るかなどの項目を解析できます。
以下に、WHOが2021年に改定した精液所見に対する下限基準値を記載します。
一部では、精子の運動解析を行って、精子の質を見ていこうという流れもあります。
精液検査について
男性不妊の治療方針の決定は、基本的に精液検査が入っており、精子があるかどうかで分けています。
精子があった場合は、精液の量をチェックします。精液の量が正常であれば、stationroadをチェックして、無精子であれば、違うストラテジー(ふるい分け)を実施しなければいけません。
精子がなかった場合は、精子濃度によってさまざまな分類がされていき、色々な診断がされた後に、ソリューション治療(病院施設や疾患に合わせた治療)が行われます。
一般精液検査の正確性
精液検査が不妊治療の全てを決めているのは大きな問題があります。
「一般精液検査は正しいものかどうか」という点です。
一般精液検査の欠点は、どのようなものがあるのでしょうか?
一般精液検査の欠点
2010年にWHOが発表した第5版のデータが最もメジャーでしたが、2021年に第6版が改訂され、第5版に載っている図表が第6版でも使われていました。(下図)
5人の被験者を540日間にわたって検査しており、縦軸が精子の総精子数、横軸が精子1cc辺りの濃度を表し、トータルの精子数を示しています。
期間中、各数値がどのように変動するかを見たところ、精子濃度に至っては、2億5000万、5000万、2000万、0という、個人によって大きな差が出るという結果がでました。
精液検査は、検体を採る時期から日数があったり、採った後の射精の程度により、検査結果が大きく違ってきます。
100万の精子濃度と、1000万の精子濃度では、区別がついてるようで、ついていません。一般精液検査にはブレがあるのが現状です。
精液検査の具体的方法
精液検査は、時代遅れの検査法で利便性がありません。
精液検査では、グリッドがあって、計算盤の上に精子が乗っている絵を見せてくれます。マスの中に、精子が何匹居るか数えられて、全体でどれくらいの運動率があるかを教えられます。動いてない精子を数えて、何%が動いてるかを目で測定します。
検査に良く使われるものが、マックラ―計算盤という物で、別の言い方では「血球計算盤」と言われています。
今から約100年前に、血液の赤血球や白血球の数を測定していた道具を、精子に当てはめて改良した物を、イスラエルのマックラー先生が作りました。(下写真)
実際、時代遅れと言われているのは、血球計算盤が元になっているのが理由です。
世界中で使われていたのが、私が医者になった頃(40年前か50年位前の医学部学生)で、血球の数を測定する実習を受けたことがあります。
血球計算盤には溝が掘ってあり、厚さが0.1mmになるようになっていて、その上に、試料が乗るようになっています。
余った試料が横に流れ出すと、単位面積や深さが決まっているグリッドが引いてあるので、単位体積あたりで精子を数えられるわけです。
顕微鏡で見ながらでも、血球や精子の数を数えています。
決まった体積の中で、1ccの中で全部測れば1ccの数になるので、100μの中にあれば10倍したものが1ccの中の精子の数になります。
血球数を数えてるので、試料を作る時は必ずカバースリップをかけ、検体を入れておく必要がありますが、大きな誤差になり、測定差が数10%から100%と、100万と1億が区別がつかない場合があります。
【検査結果】誤差の減少
計算盤の測定は、トレーニングを受けた人達が、各施設の決めた方法に基づいて、測定を行います。
この方法の場合は、A施設とB施設の測定結果であると、厳密に言えば、比較ができません。
例えば、お医者さんに「貧血です」と言われ、データを持って違う病院に行っても信用されます。
私が医者になった頃は、A施設とB施設の測定結果が合わなかったので、信用できず、測定をもう一度やり直しました。
測定方法の誤差が無くなり、検査結果を信用できるようになったのは、フローサイトメトリーという方法が誕生してからです。
この方法は、体積内にある物体を、全て数えるという技術です。
フローサイトメトリーが実施できることにより、単位体積の値から100μ測れば、誤差が1/10になり、ボリュームの全数を測るという方法が可能になりました。
また、A施設とB施設の血球数の濃度比較ができるようになり、どの国でも同じようなデータが出てくるようになったため、血液検査の中で、血球計算盤が使われなくなりました。
現在も血球計算盤は残っていますが、数を数えるためだけに残っており、臨床で残っているのは精液検査だけなので、100年以上同じことをしているわけではありません。(下写真。血球計算盤)
正確な検査の必要性
「私が行くクリニックは機械だから検査結果は絶対正確だよ」という方がいますが、あまり信じられません。
測定に誤差がでる原因は、計算盤なので、計算盤に乗ってる試料を機械や目で測定しても結果は同じです。
測定機械には、オスマス、カーサ、SQA、メンズフックという種類がありますが、どれも誤差が生じます。
体外受精や顕微授精などの高度な医療を利用するとき、必要な検査は、結果に誤差がない検査方法です。
成績で相関する検査が必要なので、一般精液検査だけ見てても仕方がなく、精子の質を測って、誤差がない検査が必要になってきます。
DFI検査の登場
精子のDNAが断片化し、精子指数、精子のDNAがどれくらい壊れてるかという割合を測れる、DFI検査(精子DNA断片化指数検査)という測定方法が登場してきました。
この方法は、新しい方法ではなく、30年以上前から行われています。
精子の頭には、DNAという遺伝情報の源になる分子が入っているので、二重螺旋状態が壊れてると、蛍光色素で染めれば、色が変わって光ることがわかりました。
その光を、フローサイトメトリーで読み取ると約2万の精子を測定することになります。
人間だけでは測定できないので、CSフローという流れている所にレーザーを当てて、励起光を測定することになります。
精子の頭の二重螺旋構造が壊れてるものは、赤色の蛍光が出て、壊れていないものは青色の蛍光が出て、精子が未熟なものは、緑色の蛍光が出ます。
DNAが損傷している精子の割合は、DFI(DNAフラグメンテーションインデックス)と呼ばれており、値が低い方が良く、フローサイトメトリーを使うことで正確に測れるようになりました。
約10年程、DFIを行っていますが、この測定方法は、誤差が2%しかないという点で優れています。仮に、トレーニングを受けたAさんとBさんという人がいれば、誤差は約2%です。
一般精液検査の計算盤を使った検査では、数10%から数100%と誤差があります。
DFIは、検査結果に差がないので、A施設とB施設の結果も比べられます。
また、特定の人の治療経過を見ていくのに、DFIはとても向いており、誤差が出る一般精液検査をして治療効果を見ても、何も分からないのは当然です。
DFIの理想値
DFIの理想は、10%以下ぐらいで、この値以下であれば、積極的にタイミング療法や人工授精した方が良いです。
DFIが24%以下の場合は、精子の力を使って、タイミング法または人工授精で子供ができて欲しい限界値です。期間を限って、タイミング療法や人工授精を行ってみて、出来るだけ早くステップアップを考える必要があります。
DFIが24%以上は、ほとんど人工授精では子供ができないので、早い段階で積極的に、顕微授精や体外受精にステップアップすることがおすすめです。
このように、DFI検査を使うことができるので、スクリーニング検査には、必ず入るべき検査であると思います。
一般精液検査では、精子の質は測れないので、まずスクリーニング検査を行います。
治療効果を見るときは、普通の精液検査で治療効果が反映されてこないというのが、ステップアップを考える理論的な根拠です。
DNAの精子が壊れている場合、受精はしますが良好胚(良好な受精)になりません。これは、Late paternal effects(後期の男性側の良い因子)と呼ばれています。
精子のDNA断片化が多いと、受精や発生後期に障害がおこる、胚盤胞到達が悪くなります。
胚のエレキュター胚盤胞の質が悪く、早期流産が起こりやすくなることが分かっています。
精子の数は多く、運動性が良好と言われても、精子の質が悪いと良好胚になりません。
DFI値を下げるための治療
DFI値が下がるような治療を行う必要があるというのは、現在の考え方です。
精索静脈瘤
つばきウィメンズクリニックという場所で、精索静脈瘤の手術を受けた患者を確認してみましょう。
一般精液検査では、精液量、精子濃度、総運動性精質は、手術前後で精子の割合があまり変化しないで、少し早い精子の割合が増え、総運動性精子が少し増えてきています。(下図)
DFI検査が、DNAの損傷率を急に下げることまで分かったのですが、もっと面白いのは、静脈瘤の手術をした時も、元々はICIをして子供ができなくて、静脈瘤の手術後に子供ができた人だけを見てみるとどうなっているかと言うと、一般精液検査では何も分からないという点です。
実際、子供ができたのに、この人たちはもともとの精子が悪く、手術前は顕微授精で子供できなくて、手術後に顕微授精で子供ができました。
改善した部分を探ってみると、この方々は、一般精液検査では何も改善していませんが、DFIだけは綺麗に下がっています。
治療効果を如実に反映してくるのは、DFIしかないのです。
一般精液検査を見ていても、何もわからないことになるので、現在、様々なクリニックで行われてる検査を中心とした切り口です。
そろそろ一般精液検査が、終焉を迎えて、考え方が変わると期待しています。
IUI人工授精
もう一つは、IUI人工授精です。
子宮内人工授精をした人のDFI値の関係をみると、6回連続でIUIをして、子供が出来ない方が青で、赤は6回以内に子供できた人です。
かなりの差がありますが、34%以上だと、誰も子供ができていません。
DFIの値が34%以上の方は、子宮の人工授精をしても無駄なので、早くステップアップするか、DFI値を下げるという努力をする必要があります。
子供ができなかった35例はすべて、顕微授精や体外受精を行っていきます。
全員、子供ができたわけでなく、できた人とできない人ではDFIの値が違います。
子供ができている人は、できてない人と比べて、DNAの損傷率(DNAの断片化指数)が低いです。
DFIは値が低くないと、顕微授精や体外受精で子供ができるということに繋がってこない
ということが分かりました。
まとめ
一般精液検査を、機械で数値が出されたと鵜呑みにするのではなく、あくまで参考値ということを理解しましょう。
一般精液検査は、誤差がすごく大きいので、検査結果見せられて一喜一憂せず、DFI検査を積極的に取り入れたクリニックに相談しましょう。
もう少し、DFIのことについて知りたい方は、「精子の質改善ラボ」というサイトがあるので、ここを参考にしてください。
QRコードを作って貼りましたので、是非ともご活用いただければと思います。
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