男性不妊講座#2 精子力を計る!DFI検査|泌尿器科医 岡田弘

ARTICLE

2023.11.21

不妊治療

男性不妊講座#3 最先端!男性不妊治療|泌尿器科医 岡田弘

 

獨協医科大学医療センターの岡田先生に、最先端の男性不妊治療についてお話しいただきました。前回の講義では、精子のDNAの損傷率を見る検査は、DFI検査とお話しました。

男性側の因子を考えるときは、以下の項目を検査します。

  • ●精液検査
  • ●精液の量
  • ●精子の濃度
  • ●運動率
  • ●奇形率
  • ●全精子運動性

一般精液検査で、必ずしも精子の質を反映しているわけではありません。

精子というのは、遺伝情報であるDNAという分子を卵子に渡しているので、DNAがどれぐらい壊れているか、壊れていないかが、とても重要な要因になります。

このことから、DNAをチェックする検査は、とても重要だということが分かります。

DFI検査について

ここでは、以下の項目について解説します。

  • ●DFI検査の概要
  • ●DFI値と妊娠率について

それぞれ、確認していきましょう。

DFI検査の概要

DNAは、二重螺旋構造をした分子です。

二重螺旋構造をしている分子が壊れているかどうかを調べる検査が、DFI検査(DNAフラグメンタインションインデックス・DNAの断片化指数)という検査になります。

DFIの値は、断片化している精子の割合で、値が低い方が良いです。

測定方法は、フローサイトメトリーという特殊な機械を使い、約2万個の精子を検査します。測定間の誤差は、2%以下で、非常に誤差の少ない検査が可能です。

2万個の精子のうち、DNAが壊れた精子には赤い蛍光が出ます。全体のうち、赤い蛍光を発する精子の割合をDNAの断片化指数(DNAフラグメンテーションインデックス)と呼びます。DFIの値は、赤い蛍光を発する精子の割合が少ない方が良いです。

この方の場合だと、DFIの値が11%ですが、正常な場合のDFIの値は、81%です。

緑色は、強く染まる精子の割合(High DNA stainability)で、成熟が不十分な未熟な精子と言われています。現在の不妊治療で注目しているのは、主にDNAの損傷率であるDFI値です。体外受精、顕微授精の結果に大きく作用してくるのがHDSの値です。

DFI値と妊娠率について

DFI値は10%以下が良く、24%(タイミング法・人工授精で子どもできる限界上限値)より高い数値になると、人工授精は難しくなりますが、絶対できないというわけではありませんが人工授精では、子供ができにくいことが分かっています。

DFI値が低い場合(10%以下)は、女性側に原因因子がある可能性が高いので、女性側を積極的に検査したほうが良いです。

DFIの値が10%〜24%の場合は、人工授精かタイミング法で子供ができるケースもあるので、期間を設けて取り組み、積極的にステップアップを考えた方が良いです。

DFIの値が24%以上の場合は、人工授精で子供ができにくいです。回数を1回や2回に限って行い、積極的に顕微授精、体外受精、ARTに移行した方が良いです。

24%以上の場合は、DFI値を下げないと顕微授精、体外受精をしても子供ができません。一般精液検査では、精液の量、精子の濃度や精子の運動率を測定できますが、奇形率等では精子の質などを測ることが、全くできません。

必ず、スクリーニングに入れるべき検査で、検査を基準に治療法を見つけ、治療効果を判定すべきです。この結果が、ステップアップを考えるときの大きな指標になります。

また、受精が起こった場合、精子のどの部分が胚発生に効果があるかを見ていきましょう。

受精卵ができ、0、1、2の値から3、4、5という、後期と初期を見ると、受精の初期は、精子の中のサイドドロー(精子の細胞室内)の様子が効いてきます。

卵子を活性化するような要因(受精卵の分割に必要なセントリオール)が発生しているから、受精の初期現象には、必要になります。

ところが、DNAが壊れていたり、染色体異常があったりする方に関しては、後期の発生に効いてきます。精子が良好胚や胚盤胞に到達するか、胚盤胞のグレードが良くなるかに関しては、DNAの断平化指数が大きく影響します。

DNAの断平化は、後期の発育、胚盤胞の到達への影響が大きいです。DFI値が10%以下などの、値が低いときは、女性因子も積極的に検査しましょう。

DFI値が24%の場合は、タイミング法や人工授精をしても、なかなか子供ができにくいですが、全くできないわけではありません。

DFI値が高い原因は、特定して、適切に対処する必要があります。

DFI値が24%の場合は、積極的に生殖補助医療(ART)に持っていくべきですが、顕微授精、体外受精をしても、良好胚にならない場合が多いです。

精索静脈瘤について

ここでは、以下の項目について解説します。

  • ●精索静脈瘤の概要
  • ●精索静脈瘤の治療法(サプリメント)
  • ●精索静脈瘤の治療法(手術)

それぞれ、確認していきましょう。

精索静脈瘤の概要

DFIが高くなるのに圧倒的に多い疾患は、精索静脈瘤です。

精索静脈瘤は、左側に多く、陰嚢のところに膨れた静脈のコブが見えます。

グレード3などの非常に大きい静脈瘤の場合は、コブができているように見えていて、精巣に向かって精巣から静脈血を運ぶために、静脈がずっと腎臓に向かって伸びています。

左の睾丸から出た静脈は、一旦、左の腎臓脈にいき、心臓に向かって血が返っていきます。

寝てるときは、腎臓も同じ水平になるので血液が流れやすいですが、立ち上がって腹圧をかけると、血液は戻ってくるので逆流します。

静脈の逆流を防止するために、腎臓へ向かって血液を流す、逆流防止弁がついています。

先天的に弁の機能が悪い方は、静脈血が逆流して精巣に向かって血液が戻り、精巣で静脈血を鬱滞する現象が起こるので、温度が上がり、とても痛いです。

精巣の温度が上がると、DNAの質は悪くなり、精巣内の酸素分圧は下がります。精巣に老廃物を含んだ血液が戻ってくると、酸化ストレスが増えてしまい、精子の形成が低下します。精子を作る能力が低下するために、精子の濃度が低くなったり、運動性が悪くなったりと、DNAが断片化した精子の割合が増えてきます。

弁の開放的な異常が理由なので、手術を実施することが一番有効な治療となります。

精索静脈瘤の治療法(サプリメント)

手術以外の治療法は、サプリメントとして使用されていることが多い抗酸化剤です。その中でも特に強力なのが、パートナーズという会社が製造している還元型コエンザイムQ10です。

還元型コエンザイムQ10の方が、普通のコエンザイムQ10と比べて、効力がはるかに強く、ビタミンCとEとDHAとEPAが含まれている全部抗酸化作用のあるサプリです。

一般精液検査は、約6ヶ月で良くなり、精子の運動率も6ヶ月で良くなることがわかっています。還元型コエンザイムQ10の使用前は、DFI値は31%でしたが、16%まで落ち、約10%強のDFI値の低下に期待できます。

クレアチンやマカなど、サプリメントはさまざまな種類がありますが、還元型コエンザイムQ10ほど、強い抗酸化力を持つ物はありません。

使用するのであれば、Q10で還元型を含むものが良いです。コエンザイムQ10は、株式会社カネカが製造方法の特許を持っているので、カネカが供給を行っています。

また、現在では、DFIが還元型コエンザイムQ10で低下しない時に、漢方薬を追加する治療も行われています。使用しているのは、抗酸化作用のある以下の漢方です。

  • ● 補中益気湯
  • ●六味丸八味丸
  • ●八味地黄丸
  • ●牛車腎気丸

還元型コエンザイムQ10を追加して、抗酸化力を強化する狙いがあります。

精索静脈瘤の治療法(手術)

ここでは、精索静脈瘤について、以下の項目について解説します。

  • ●精索静脈瘤の手術方法
  • ●最先端の手術方法(ホークアイサージリー)
  • ●手術後の検査効果

精索静脈瘤の手術方法

精索静脈瘤の手術は、顕微鏡を覗きながら二人一組になり、静脈だけを切断をして動脈を残し、リンパ管を残すという手術をしています。

動脈、リンパ管や静脈は、全て1mm以下の大きさなので、裸眼で見ることは難しく、手術用顕微鏡を見ながら実施します。

手術時間は、約1時間から2時間で、局所麻酔を行って実施します。全身麻酔を行っている病院もあれば、半身麻酔で行っている病院もあります。

現在、手術は保険適応になってますが、自由診療で実施している病院もあるようです。

最先端の手術方法(ホークアイサージリー)

手術方法は、さまざまな科学的進歩により、新しい技術が使われるようになりました。

今までは、対面型の手術顕微鏡を覗きながら手術していましたが、最近では、ホークアイサージリーと呼ばれる、4型3Dのビデオマイクロスコープを使った手術を実施しています。

この方法は、ハイレゾルカメラ、高精細のモニターと3Dのモニターを組み合わせることによって、4型3Dのビデオ画像を見ながら手術を行います。

顕微鏡を覗いている2人は、相手の肩腰のモニターを見ており、モニターを見て3Dのメガネをかけている状態です。

ホークアイサージリーは、ハイパフォーマンス・アキュラシー・ワイドフィールド・キーエフェクティブネス、それぞれの頭文字を取っており、積極的に我々の施設でやっている方法です。

以下が、実際に手術をしている画像です。

3Dのゴーグルをかけて、一本一本の血管がちょうど1mm以下である静脈を結び切断するといった手術をしています。

誰も顕微鏡を覗いておらず、3D画像を見ながら手術を行っています。ホークアイサージリーは、非常に細かい手術が綺麗にでき、動脈やリンパ管を綺麗に残せることによって、中枢部分の副作用を激減でき、手術を実施することで再発がほとんどありません。

手術後の検査効果

手術前後での、正常な患者さん(青)と精索静脈瘤の患者さん(赤)を比較した時の、検査結果は以下のとおりです。

  • ●精液量:あまり変わらない
  • ●精子濃度:精索静脈瘤がない方が高い
  • ●総精子数:精索静脈瘤がない方が多い
  • ●運動率:精索静脈瘤がない方が高い

  • ●前進運動率:索静脈瘤がない方が良い
  • ●精子のスピード:精索静脈瘤ではない方が早い

  • ●DFI値:精索静脈瘤がない方が低い
  • ●ORP酸化還元:精索静脈瘤がない方が低い

手術前は、酸化ストレスを精液が浴びていて、精子のDNA損傷率が上がっているのですが、手術後は、ORP酸化還元で綺麗に下がり、DNAの損傷率は下がってきます。

精索静脈瘤がない人とある人を比較すると、同じようにDFI値などが低下してくることが分かります。

1年間の経過観察をして、自然妊娠した人の割合を見てみると、ORP酸化還元が正常化した人、DFIが正常化した人の方が、妊娠率が高かったというデータがあります。

静脈瘤の患者さんに対して、DFIをずっと確認していたという、とても興味深い話です。精索静脈瘤は、一般精液検査のときに、綺麗なデータが出てこないこともあります。手術前後で精液量は変わらず、精液濃度なども大きな変化がありません。

総精子の運動率も下がらず、スピードの遅い精子の割合は変化してきませんが、スピードの早い精子の割合は少し良くなり、運動精子率が少し増え、DFIが明らかに少し下がっていることが確認できます。

1回目の顕微受精が上手くいかず、胚盤胞の質が悪いため良好胚盤胞にならなかったため、子供ができかったという人達が6例います。手術をして、2回目の顕微受精をしたところ、全6例とも子供ができました。

精索静脈瘤の手術は、とても効果があると予想していましたが、以下の項目は、手術前後であまり変化がありませんでした。

  • ●精液量
  • ●精子濃度
  • ●精子の運動率
  • ●速い精子と遅い精子の割合
  • ●総運動精子数

顕微受精が上手くいかなかった人で、手術後には顕微授精が上手くいったのに、一般的な精液の数値が改善しません。

一般精液検査をしても、精子の改善がどこで起こったかに関しては全くわかりませんが、DFIでは、6例の全てで下がっています。

一般精液検査では全く分からなかった項目が、DFIを測って精子の質を見ることによって、定量的で定性的に解析できるのが証拠です。

まとめ

精子の質を見るときは、DFI検査を実施しましょう。

DFI値を測ることによって、生殖補助医療(ART)へ正確に反映できるので、一般精液検査ではなく、誤差がないスクリーニング検査を用いるべきです。

DFIが上がる原因は、精液の酸化ストレスで、酸化ストレスを消滅させる原因で最も多いのが精索静脈瘤でした。

精索静脈瘤の治療基本は、手術を行うことです。手術と併用して対策をしたい場合は、還元型のコエンザイムQ10という抗酸化サプリメントがおすすめです。

効果が不十分な場合は、補中益気湯などの漢方を追加しましょう。

 この記事の動画はこちらから

 

RELATED ARTICLEおすすめ関連記事

会員限定記事

会員限定の記事です。
ログインしてからご覧ください。会員登録は無料です。

RANKING⼈気記事

KEYWORDタグ一覧人気のタグ

CATEGORY