PGT-Aとは① そもそもPGT、卵子や精子の染色体って何?

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2024.12.20

不妊治療

PGT-Aとは① そもそもPGT、卵子や精子の染色体って何?

体外受精を実施しているクリニックに来られる患者さんの中には、採卵や移植を繰り返し、何度良好なグレードと言われる胚を移植しても、妊娠されない方がいます。今回は、PGT-Aについて元胚培養士で、現在は妊活で悩まれている方や不妊治療を受けている方、治療と仕事の両立に悩む方へのサポートを精力的に行っている、株式会社QOOLキャリアの塚田寛人さんが解説します。

例えばこんなご経験はありませんか?


・採卵を繰り返して、EMMAALICE検査や子宮内フローラ検査をし、SEET法や2段階移植法も利用し、それでも妊娠しない。
・不育症の検査も行い、治療をして移植に臨んだがやはり妊娠しない。
・胚が中々胚盤胞まで育たない、グレードが低い、育って移植しても妊娠しない。
・医師からおそらく胚の質(染色体)だろうと言われている。
・PGT-Aという技術があるんだけど…と医師から言われたことがある。

 

そういった時、医師から「PGT-Aをやってみないか」といったお話をされることがあります。 そもそもPGT-Aとは、移植を繰り返しても着床しない、流産してしまう場合のうち、胚の染色体が原因と考えられる場合に、胚の一部分の細胞を物理的に取り出し、その細胞の染色体を検査して、最終的に染色体に問題がないと考えられる胚を見つける方法です。

 

クリニックでもこういった説明を受けた方もいるのではないでしょうか? そして実際話を聞いてみて、技術について聞いてみて、費用について聞いてみて、驚かれる方も少なくないのではないでしょうか?

実際にPGTを行った方や、説明を受けた方から「技術内容を聞いて驚いた」「胚の一部を取り出して検査する…胚は大丈夫なの?」 とった声をいただくこともあります。

なので、まずはPGTとはどういった検査なのか、PGT-Aとは何か、そしてどういった方法で検査をするのかなのか について順を追ってみていきましょう。

そもそも染色体って何?なんで卵子や精子の質が重要なの?


卵子や精子の質、とよくネットでも話題になっています。そもそも質とは何を表しているのでしょうか?

一般的に医師が用いている質とは、精子と卵子が受精するために必要な能力や、その後成長する能力のことを言います。具体的に言うと、卵子の見た目や成長具合、そして卵子や精子の持つ染色体(DNAの集まり)とお考えください。特に染色体は重要です。

PGTについて理解をするには、この染色体、DNA、そして遺伝子について知っておくと良いでしょう。

簡単に言うと染色体というのは、DNAによって構築されています。 そしてそのDNAの特定の部分、生物の特徴や性質(目の色や髪色、血液型…etcなど)を決定するための情報のことを遺伝子と言います。


ヒトの身体は、この染色体が23セット(対と呼びます)、合計46本で構成されています。
そのうち、22セット44本を常染色体と呼び、これらは身体を構築する情報を含んでいます。

 

そして1セット2本を性染色体と呼び、性別を決定する遺伝子を表しています。いわゆる、X染色体、Y染色体と呼ばれるもので、2本がXXであれば女性、XYであれば男性、となるわけです。皆さんの身体を構築する1個1個の細胞は、基本的にこの23セット46本を持っています。

 

しかし例外があります。それが卵子と精子なのです。受精する際、卵子と精子は普通の細胞と違い、23本を持ち寄ります。簡単に言うと、合わさることで46本になるわけです。

 

そして、この時すでに、卵子精子どちらかの持ち寄る染色体の数が多かったり、少なかったりすることがあります。47本だったり、45本だったり…そうなると染色体の異常となるわけです。これを「異数性」と呼び、胚であれば「異数性のある胚」と言われます。これらは、着床しない、もしくは着床しても流産する可能性があると考えられています。

 

つまり、持ち寄る卵子と精子がすでに染色体の本数が多かったりするだけで異常になるわけですから、卵子、精子の質(染色体)が重要と考えられているのです。

 

更に、少し難しいお話をします。染色体異常についてもっと深堀すると、本数の異常だけではない場合もあります。例えば、そもそもカップルどちらかの遺伝子の一部分が入れ替わっていたり、特定の染色体が他の染色体とくっついていたり…といったことがあります染色体転座)。

そういった場合、生活に支障が出るのでは?とご不安になる方もいらっしゃるかと思いますが、染色体が足りていなかったり、多かったりといったことがなければ、健康に問題を及ぼすことはありません。

ですが、これらの方の精子や卵子には、一部分の染色体が増えていたり、減っていたり、といった異常があることがあり、これを「染色体の構造異常」と呼びます。そしてそれらが合わさった胚は結果的に染色体異常となる可能性もあるわけです。

染色体の異常は、着床しない、流産する可能性があることが知られているため、 こういったケースが繰り返される場合は、胚の染色体を調べよう、PGT検査をしようとなるわけです。 特に流産は、患者さんにとって非常につらい経験です。 PGTは流産のリスクのない胚を移植することを目的とした、胚の染色体検査法です。

PGTとは何?PGT-Aとどう違うの?


まず、先に言いたいことは、PGT-AとはPGTの中の1つです。 実際は、
・PGT-SR
・PGT-M
・PGT-A
といったものがあります。
どれも胚の染色体を調べる検査ではありますが、少し目的や内容が違います。

・PGT-SR
着床前染色体構造異常検査」のことです。

適応:カップルのどちらかが染色体構造の異常をお持ちの方、かつ染色体の部分的な過剰や欠失、構造に何らかの異常がみられる胚が造られるだろうと予想される方。染色体構造異常のお子さんをご出産経験、もしくはご妊娠経験がある場合に適応となります。
カップルどちらかに異常があった場合は、胚の染色体の「形」に異常が起こり、流産が繰り返されることがあります。

そういった場合に、胚の染色体を検査し、形に問題のない、流産の可能性が少ないと考えられる胚を移植することで流産を避ける、または予防することを目的としています。

・PGT-M
重篤な遺伝性疾患を対象とした着床前遺伝学的検査」のことです。

適応:以下のような重篤な遺伝性疾患を持つお子さんを出生する可能性があるカップルを対象です。

・Duchenne型筋ジストロフィー
・筋強直性ジストロフィー
・副腎白質ジストロフィー 等

※「重篤な遺伝性疾患とみなされる疾患のリストを作成して公開することは、特定の遺伝特性を有する胚を排除するという社会的な認識を促進する危険性がある」と日本産科婦人科学会に記載があるため、リストの掲載はいたしません。(参考:第52回日本産科婦人科学会評議員会)

成人に達するまでに亡くなる可能性がある、もしくは日常生活が困難となる危険性のある胚を移植しないことを目的としています。実施可能施設内において、遺伝カウンセリングを受け、今までのご出産歴などを鑑み、第三者機関での検査や再度の遺伝カウンセリング、日本産科婦人科学会での承認などを経て実施されます。

・PGT-A
着床前胚染色体異数性検査」のことです。

適応:流産を2回以上された不育症と診断されたカップル(自然妊娠後の流産も適応)と、体外受精治療において、2回以上の胚移植で不成功だった不妊症を診断されたカップルを対象としています。

胚に染色体異常があると、妊娠しない、もしくは妊娠しても流産する可能性が知られています。何度か移植しても妊娠しない場合は、胚の染色体異常による妊娠不成立も考えられますし、複数の流産や死産経験も、胚の染色体異常が考えられます。

これらの可能性をなるべく排除し、染色体異常のない胚の移植を目的とした検査方法です。


PGT-Aを実施していないクリニックもあり、値段も施設によって異なりますので、詳しくはクリニックにご確認ください。

体外受精技術がヒトで応用されるようになり、30年以上が経過しています。技術も医師や基礎研究者、クリニックで働かれているスタッフの皆様の、治療や研究のおかげで日々進歩しています。

しかし、未だ、染色体異常のある胚を発生させない方法はありません。そのため、PGT検査を用いて、染色体数の正常な胚を選択し移植する方法が用いられています。

本記事では、卵子や精子が受精の時に持ち寄る染色体が、何故重要なのかをご説明いたしました。次回の記事では、卵子の質は何故落ちるのか、何故年齢が関係するのかについてご説明いたします。

本日お話をおうかがいした方

塚田寛人

大学卒業後、検査会社にて動物の検査業務を担当。その後、医療法人三秀会中央クリニックにて胚培養業務に従事。クリニック開業に伴う、培養室立ち上げにも参画。現在は、高度生殖補助医療(体外受精)や妊活で悩む方へのオンライン相談やのほか、株式会社QOOLキャリア(https://career.qo-ol.jp/)へ協力し、企業に勤める女性へ医療情報を提供するなどのサポートを行っている。

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