ザイモート(ZyMōt)とは?精子を選ぶ新しい方法をやさしく解説

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2026.11.02

ザイモート(ZyMōt)とは?精子を選ぶ新しい方法をやさしく解説

この記事でわかること

  • ザイモートがどんな器具で、どうやって精子を選んでいるのか
  • なぜ「精子の質」が体外受精の結果に関わるのか
  • これまでの方法(密度勾配遠心法)と何が違うのか
  • 費用はどのくらいで、どこで受けられるのか

体外受精や顕微授精を検討していると、クリニックのホームページなどで「膜構造を用いた生理学的精子選択術」という名前を目にすることがあります。「いったい何のこと?」と思う方も少なくありません。この技術に使われる器具の1つが、「ザイモート」と呼ばれるものです。この記事では、はじめて知る方にもわかるように、ひとつずつ整理して説明します。

ザイモートとは、元気な精子だけを選び出す小さな器具

ザイモート(ZyMōt® Multi スパームセパレーター)は、体外受精や顕微授精のときに「治療に使う精子を選ぶ」ために使う、使い捨てのプラスチック製の器具です。手のひらにのるくらいの小さなケースで、中は上下2つの部屋に分かれています。
ZyMōt® Multi スパームセパレーター(左:3mL/右:850µL)


その仕切りになっているのが、8マイクロメートル(µm=1ミリメートルの1000分の1)というごく小さな穴がたくさん開いた膜です。この膜を「微孔性フィルター」と呼びます。

下の部屋に精液を入れると、前に進む力が強い精子だけが自分の力でこの膜を泳ぎ抜けて、上の部屋へ上がってきます4。動きの弱い精子や、頭が折れていたり尾が欠けていたりする精子、精子以外の不純物は膜を通り抜けられず1、下の部屋に残ります。

つまりザイモートは、「精子が自分の力で関門を突破できるかどうか」で選別する器具です。人の手で選び分けるのではなく、精子自身に泳いでもらう、というのが基本の考え方です。

ザイモートの3つの特徴

  1. 遠心分離機(高速で回転させる機械)を使わない
  2. 比重差を用いて精子を選別する密度勾配液を使わない
  3. 短い時間で処理が終わる

ザイモートには容量違いの2つのサイズがあります。違いは主に、一度に処理できる精液の量です。一般的な採精で使われるのは850µLのタイプで、顕微授精(ICSI)や体外受精(IVF)で用いられています。

そもそも「精子調整」とは何をしているのか

体外受精や顕微授精では、採取した精液をそのまま使うわけではありません。精液の中には、元気な精子のほかに、動きの弱い精子、形の整っていない精子、精子以外の細胞や不純物も混ざっています。そこから治療に使える精子を取り出す作業を「精子調整」といいます。

これまで広く行われてきた方法

従来の精子調整方法(遠心分離機を使う)

現在、多くの施設では密度勾配遠心法とスイムアップ法を組み合わせた方法が使われています。どちらも長年の実績がある、確立された方法です。

  • 密度勾配遠心法:比重の異なる液を層にして、その上に精液を重ね、遠心分離機で回します。重い(=成熟した)精子が下に集まる性質を利用します。
  • スイムアップ法:精子の上に培養液を置き、自分の力で泳ぎ上がってきた精子を回収します。

指摘されている課題

一方で、処理の工程が長くなること、また遠心分離の過程で「活性酸素」が発生し、最終的には精子のDNAに影響を与える可能性も報告されています1。

また、従来の方法で調整したあとの精子の中に、動きの弱い精子や形の整っていない精子が含まれることもあります2,3。

精子に見られる主な4つの状態



精子調整で「何を避けたいのか」を知ると、ザイモートの役割がわかりやすくなります。精子に見られる主な状態は、運動性が低い/精子数が少ない/形態異常/DNA断片化の4つです。


このうち「DNA断片化」は、精子の中の遺伝情報(DNA)に傷がついている状態のことで、見た目では判断できないのが特徴です。顕微鏡で見て形が整っていても、DNAに傷がついていることがあります。

なぜ「精子の質」が大切なのか

精子は受精のときだけ関わって終わり、というものではありません。受精卵が育っていく過程にも、精子由来の情報が関わっていると考えられています。

受精卵から胚盤胞までの成長過程

媒精が完了し、培養を始めてから1日目に受精卵となり、2日目に4分割、3日目に8分割、4日目に桑実胚、5日目に胚盤胞へと育っていきます。

育ちはじめの段階では、主に卵子に由来する情報が中心となります。ところが3日目あたりから「胚性ゲノムの活性化」が始まり、精子に由来するDNAの情報も重要な役割を果たすとされています。受精卵が自分自身の設計図を読みはじめ、そこに父親由来の情報も加わってくる、とイメージするとわかりやすいかもしれません。

精子の質が胚発生へ及ぼす影響(図:Sakkas 2015を基に作成)

正常な精子と卵子が受精すれば、胚盤胞まで育ち、出産へとつながっていきます。一方、精子側に問題がある場合、受精後の胚発育や妊娠経過にも影響する可能性があることが報告されています10。

なお、精子が前に進む力(前進運動性)とDNA断片化率には関連があるという報告があります7。ザイモートが「前へ進む力」で精子を選ぶのは、この考え方にもとづいています。

ザイモートのしくみを4ステップで


ZyMōt® Multi スパームセパレーターによる精子回収方法

デバイスの中は、上の「回収チャンバー」と下の「精液チャンバー」に分かれ、その間を微孔性フィルターが仕切っています。手順は大きく4つです。


回収の4ステップ

ステップ1 精液を注入する

精液を、デバイスの注入口から入れます。精液は下の精液チャンバーに流れ込みます。

ステップ2 精子が膜を泳ぎ抜ける

前へ進む力の強い精子が、8µmの微孔性フィルターを通り抜けて、上の回収チャンバーへ上がっていきます。動きの弱い精子や形の整っていない精子、不純物は下に残ります。

ステップ3 上がってきた精子を回収する

上の回収チャンバーにたまった精子を、精子回収口から取り出します。ここまでにかかる時間は、およそ30分です(条件や施設によって異なります)。

ステップ4 医師の判断で治療に使う

回収した精子は、医師の評価・判断にもとづいて、顕微授精(ICSI)、体外受精(IVF)、人工授精(IUI)などに使われます4,7-9。

実際の操作の様子は、メーカーによる解説動画でも確認できます(YouTube)。

なぜ通り抜ける膜のサイズは「8µm」なの?

穴の大きさは、小さければ小さいほど厳しく選べる、というものではありません。

穴が小さすぎると、通過できる精子の数そのものが減ってしまいます。逆に穴が大きすぎれば、頭部の大きい精子や形態異常の精子まで通り抜けてしまい、選別の意味が薄れます。

3µm・5µm・8µmの3種類を比べた研究では、8µmのときに、形の整った精子や成熟した精子の割合が最も高くなったと報告されています4。8µmという数字は、「関門として機能しつつ、良好な精子はきちんと通れる」ちょうどよいサイズとして選ばれているわけです。

この孔径では、運動性が高く形の整った精子を効率よく回収でき、DNAの断片化や活性酸素レベルも低いと報告されています3-5。

これまでの方法との違い

  密度勾配遠心法(従来) ザイモート
精子の選別方法 精子の重さ(比重) 前へ進む力(前進運動性)
遠心分離機 使う 使わない
密度勾配液 使う 使わない
処理時間 スイムアップ法で約30分+遠心の工程(※1) 約30分(※1)
主な用途 体外受精・顕微授精で広く用いられている精子調整法 マイクロ流体技術を用いた精子調整法のひとつ
費用 通常の治療費に含まれる 先進医療として別途(後述)

※1 条件や施設によって異なります。

期待できること、まだわかっていないこと

期待されている点

  • 遠心分離を行わないため、遠心分離による精子DNAの損傷を低下させる可能性が報告されています6。
  • 前へ進む力の強い精子を回収することを目的としています。
  • 形態的に良好な精子を回収することが期待できます。

注意しておきたい点

ザイモートは、精子のDNAの状態を検査したり、保証したりする器具ではありません。あくまで「前へ進む力のある精子を集める」ための器具です。

また、ザイモートを使えば必ず妊娠率が上がる、というものでもありません。

どの方法が適しているかは、精子の状態やこれまでの治療経過によって変わります。最終的には担当医の判断になります。

どんなときに検討されるのか

ザイモートを使うかどうかは、精子の状態やこれまでの治療経過をふまえて、担当医が判断します。適応の考え方は施設によって異なるため、ここでは一般的な例として紹介します。

たとえば、次のような場合に検討されることがあります。

  • 精子のDNA断片化率が高いことがわかっている場合
  • 男性側に不妊の原因がある場合
  • 流産をくり返している場合

一方、精子の数や運動する力が十分でないときは、膜を泳ぎ抜ける精子を確保できないため、使用が難しいことがあります。精巣から直接採取した精子(TESE・micro-TESEによる精子)も同様です。

実際に受けられるかどうかは施設ごとの基準にもよります。気になる場合は、通っている施設で相談してみてください。

先進医療としての位置づけと費用

日本では、「膜構造を用いた生理学的精子選択術」という先進医療が行われており、ザイモートはその実施に使用されるデバイスの一つです。

先進医療の実施施設として承認された施設では、保険適用の治療周期と組み合わせて受けることができます。保険適用外の自費診療でも実施できます。

費用は数万円程度が目安となります(医療機関により異なります)。先進医療の部分は公的医療保険の対象外となるため、別途自己負担となります。

2026年8月末時点で、国内の約190施設で導入されています。実施施設は厚生労働省の「先進医療を実施している医療機関の一覧」(22 膜構造を用いた生理学的精子選択術の項目)で確認できます。実際の導入状況については、各施設にお問い合わせください。

よくある質問

Q. ザイモートを使えば必ず妊娠できますか?

A. いいえ。ザイモートは治療に使う精子を選ぶための器具で、妊娠を保証するものではありません。妊娠には卵子の状態や子宮内膜の状態など、多くの要因が関わります。

Q. 痛みや体への負担はありますか?

A. ありません。精子を採取したあとの、培養室での処理に使う器具です。体の中に入れるものではないため、負担が増えることはありません。

Q. 処理にはどのくらい時間がかかりますか?

A. およそ30分です。条件や施設によって異なりますが、従来の方法より短時間で済むとされています。

Q. 精子が少ない場合でも使えますか?

A. 精子の数や運動する力が十分でない場合は、使用が難しいことがあります。担当医にご相談ください。

Q. 保険は使えますか?

A. 先進医療の実施施設であれば、保険適用の治療周期と併用できます。ただし、ザイモートを使う部分の費用は自己負担になります。

Q. どこの病院でも受けられますか?

A. いいえ、先進医療の実施施設に限られます。2026年8月末時点で全国約190施設が導入しています。対象施設は厚生労働省の一覧(22 膜構造を用いた生理学的精子選択術の項目)で確認できます。実際の導入状況については、各施設にお問い合わせください。

Q. 自分から希望することはできますか?

A. 担当医に相談することはできます。ただし、精子の状態や治療方針によっては適さない場合もあるため、最終的には医師の判断になります。

Q. 従来の方法と、どちらを選べばよいですか?

A. どちらが優れているかを一律に決めることはできません。精子の状態やこれまでの治療経過をふまえて、担当医とご相談ください。

Q. ザイモート以外に同じような器具はありますか?

A. 類似の原理を用いた製品や技術も利用されています。どれを使うかは施設によって異なりますので、通っている施設にご確認ください。

まとめ

  • ザイモートは、8µmの膜を自分の力で泳ぎ抜けた精子だけを回収する器具です。
  • 遠心分離機も密度勾配液も使わず、短時間で処理できるのが特徴です。
  • 精子の質は、受精だけでなくその後の胚の育ちにも関わると考えられています。
  • 日本では「膜構造を用いた生理学的精子選択術」という先進医療で使われるデバイスの一つです。
  • 必ず妊娠率が上がるというものではなく、適しているかどうかは担当医が判断します。

気になる場合は、まず通っている施設で実施しているかどうか、そして自分のケースに適しているかどうかを、担当医に確認するところから始めてみてください。

図版出典:クーパーサージカル・ジャパン(株)資料より転載
取材協力:クーパーサージカル・ジャパン株式会社

参考文献

※番号は本文中の上付き数字に対応しています。

  1. Wen ZN. et al. (2025) Int J Gen Med. 2025 Apr 29;18:2355-2366.
  2. Horta F. et al. (2020) Human Reproduction. 2020 Feb 28.
  3. Bastuba M. et al. (2020) Fertility and Sterility. 113(4), p.e44.
  4. Asghar W. et al. (2014) Advanced Healthcare Materials. 3(10), pp.1671-1679.
  5. Broussard A. et al. (2019) Fertility and Sterility. 111(4), p.e15.
  6. Jackson R.E. et al. (2010) Fertility and Sterility. 94(7), pp.2626-2630.
  7. Kocur O.M. et al. (2023) Andrology. 11(8), pp.1605-1612.
  8. Gode F. et al. (2019) Fertil Steril. 112(5):842-848.e1.
  9. Parrella A. et al. (2019) J Assist Reprod Genet. 2019;36(10):2057-2066.
  10. Sakkas D. et al. (2015) Human Reproduction Update. 2015 Nov-Dec;21(6):711-2.

記事監修

クーパーサージカル・ジャパン株式会社

米国CooperSurgicalの日本法人として2012年に設立。不妊治療関連製品や婦人科系手術用製品の輸入・販売、遺伝子検査サービスの提供などを通じて、国内の生殖医療の現場を支えています。本記事で紹介したザイモート(ZyMōt® Multi スパームセパレーター)も、同社が取り扱う製品のひとつです。

所在地:神奈川県横浜市中区日本大通11 横浜情報文化センター4F
公式サイト:https://coopersurgicalfertility-jp.com/

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