AID(ドナー精子を用いた人工授精)とは?│ 無精子でも諦めない!ドナー精子で実現する家族の形
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妊活お役立ち情報
2024.11.22
不妊治療
AID(ドナー精子を用いた人工授精)とは?│ 無精子でも諦めない!ドナー精子で実現する家族の形
精液の中に精子がいない状態のことを「無精子症」と言います。ダイヤモンドユカイさんが無精子症であることをカミングアウトし「タネナシ」という著書が話題になったことはご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
実は、男性の約100人に1人が無精子症であるとされています。無精子症と診断され、その後の検査や治療でも精子が確認されなかった場合、精子提供を通じて妊娠・出産を目指すという選択肢を検討するご夫婦もいらっしゃいます。ここでは、その精子提供を用いたAIDについて詳しく解説していきます。
無精子症と診断され治療を用いても自分の精子がいない場合や、同性婚の方が子どもを望む場合に行われる、第三者精子(ドナー精子)を用いた人工授精法をAID(Artificial Insemination by Donor、非配偶者間人工授精)といいます。
AIDを必要とする方
- 1,無精子症の方
無精子症は「閉塞性無精子症」と「非閉塞性無精子症」に分類されます。
・閉塞性無精子症
精巣内で精子は作られているものの、精子の通り道である精管がない、もしくはつまっている状態。精管吻合術といった精管をつなぐ治療やTESEという外科的手術によって精子を取り出すことが可能。
・非閉塞性無精子症
遺伝的要因などのために、精巣内で精子をつくることができない状態。 TESEやMD-TESEといった外科的手術で精子を取り出すことができる場合もあるが、30~40%程度。
非閉塞性無精子症かつ精子をTESEやMD-TESEで取り出すことができない場合など、医療技術を用いても妊娠する可能性がないと医師に判断された場合にAIDを行うことができます。 - 2,性別不合の方
心の性が男性、身体の性が女性の方(FTM:female to male)が、戸籍上の性別を変更し、女性と婚姻関係になった上で、子どもを望んだ場合にAIDを行うことができます。
AIDの日本国内の現状と妊娠率
日本では、70年以上前からAIDが行われてきました。当初は、無精子症による不妊症と診断されたご夫婦に実施されていましたが、現在では性別不合のご夫婦もその対象となっています。
しかし、AIDに用いられるドナー精子の取り扱いは、日本産科婦人科学会の見解(日本産科婦人科学会雑誌第76巻第8号)に基づいて実施されることが必要かつ、日本産科婦人科学会に施設登録を行った医療機関でのみ実施することが可能です。現在(2024年)、16施設で行われています。
AID件数の推移グラフを見ていきましょう。患者総数とAID周期総数は左縦軸の数字、妊娠数と出生児数は右縦軸の数字で表されます。
AIDを必要とする患者さんは年間500~1000組で、そのうち妊娠されるのが100~200人、出産までいくのが70~100人程度です。AIDの妊娠率は一般的な人工授精法と変わらず5~10%程度であることがわかります。
ドナー精子利用を取り巻く問題
ドナー精子の利用には、まだまだ課題が多いのが実情です。
- 1,出自を知る権利
日本の生殖補助医療では、産まれた子供には自分がどのように産まれたのかを知る権利があるとされています。AIDも技術的にはその例に漏れないのですが、ドナー精子を提供する場合は血液型のみが開示され、基本は「匿名」であるため、子どもにとっての出自を知る権利を保障できないことが懸念されています。 - 2,法律の遅延
不妊治療が保険診療化されたことで、生殖補助医療(体外受精など)が国に認められた医療とされたと同時に、関連する法律の制定もされています。しかし、まだドナー精子に関連する法律は設立されておらず、日本産婦人科学会が定める会告のみが指針です。会告には法的拘束力はないため、SNSやネットの普及から精子や卵子の売買を匂わす文言があっても、取り締まることができません。そういった取引をされた細胞は、安全性も担保されていませんし、感染症などのリスクもあります。 - 3,ドナー精子不足
精子ドナーの認知度がまだ低いことや、実施施設の少なさから、使用されるドナー精子が不足しています。また、出自を知る権利が保障されているため、将来的に提供側の匿名性が守られるのかが不安であることも要因の1つです。 - 4,実施施設の少なさ
現在、AIDの実施できるのは日本国内で16施設です。47都道府県のうち8都道府県にしかAIDを実施できません。居住地によっては通院すること自体が困難なケースも少なくありません。 - 5,D-IVF利用の賛否
現在、日本産科婦人科学会では、精子提供による医療は人工授精(AID)にのみ限定されています。そのため、通常は人工授精を何度行っても妊娠できない場合は体外受精へのステップアップを推奨とされますが、ドナー精子の場合は体外受精(D-IVF)をすることができません。AID自体も通常の人工授精よりも高額なため、繰り返す以外の選択肢がない以上、リスクを承知で海外にてD-IVFを受ける方もいます。
精子提供をされる方々の想い
精子提供を行う方々に話を聞くと、「周囲や家族が不妊で悩んでいるのを見て、そういった方々を一人でも救いたい」「お子様が持てるハードルを下げたい」「不妊症を抱えるカップルを救いたい」と様々ですが、皆さま「不妊で苦しむ方々を助けたい」という共通の想いをもち志願されています。
AIDを行いたい!どうしたら?施設は?
日本国内でAIDを受けるには、日本産科婦人科学会でAIDを行ってもよいと許可された施設に問い合わせる必要があります。現在、登録されている施設は、下記の16施設です。
- 宮城県 京野アートクリニック仙台
- 千葉県 学校法人東京歯科大学 東京歯科大学市川総合病院★24年11月現在提供中止中
- 東京都 京野アートクリニック高輪
- 東京都 慶應義塾大学病院
- 東京都 オーク銀座レディースクリニック
- 東京都 医療法人社団 暁慶会 はらメディカルクリニック
- 東京都 クリニック飯塚
- 新潟県 新潟医療生活協同組合 木戸病院
- 新潟県 医療法人社団 源川産婦人科クリニック
- 大阪府 医療法人オーク会 オーク住吉産婦人科
- 大阪府 医療法人リプロダクションクリニック リプロダクションクリニック大阪
- 大阪府 医療法人西恵会 西川婦人科内科クリニック
- 大阪府 医療法人イワサクリニック セント・マリー不妊センター
- 兵庫県 英ウイメンズセントラルファティリティクリニック
- 福岡県 セントマザー産婦人科医院
- 鹿児島県 竹内レディースクリニック
登録施設によってドナー精子の集め方は様々です。ウェブ上で募集をしているクリニック、患者様ご自身で見つけてもらうクリニックなどです。ただ共通して言えるのは、カウンセリングや検査を十分に行った上で安全性のある精子のみAIDに利用することを心がけている点です。
人工授精において一番気を付けなければならないことは「感染症」です。登録施設で利用されるドナー精子は、医療機関での感染症検査を行い問題がないと判断された精子です。
また、提供する男性の遺伝性疾患の有無によっては、子に疾患が遺伝するリスクもあるため、施設によってはドナーの健康状況の所見、医療機関での健診結果を一定期間確認しています。
AIDに興味がある方は、ご自身でご連絡いただく、もしくは現在通われているクリニックの医師に確認していただくのが良いでしょう。
本日お話をおうかがいした方
塚田寛人
大学卒業後、検査会社にて動物の検査業務を担当。その後、医療法人三秀会中央クリニックにて胚培養業務に従事。クリニック開業に伴う、培養室立ち上げにも参画。現在は、高度生殖補助医療(体外受精)や妊活で悩む方へのオンライン相談や、妊活製品や不妊治療記事の監修など多角的に活動している。
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