PGT-Aとは② 卵子の質と年齢の関係
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妊活お役立ち情報
2025.01.10
基礎知識
PGT-Aとは② 卵子の質と年齢の関係
前回の記事では、PGT検査について、それに関連して卵子や精子の質、そして染色体が何故重要なのかお話しました。今回も、PGT-Aについて元胚培養士で、現在は妊活で悩まれている方や不妊治療を受けている方、治療と仕事の両立に悩む方へのサポートを精力的に行っている、株式会社QOOLキャリアの塚田寛人さんが解説します。
体外受精と染色体の関係、ネットでも話題に
体外受精と染色体の関係は、体外受精の保険診療化後、体外受精関連の様々なネット記事が増えてきたことで、徐々に知られてきています。
実際にクリニックに通われていて、何度か採卵しても胚盤胞に育たず、「良い卵子が採れるまで繰り返すしかない」と言われたことがある方や、卵子の質には年齢が関係していると記事で読まれた方も少なくないのではないでしょうか?
私もクリニックで患者様に卵子や精子についてお伝えするときには、必ずと言っていいほど「質」についてお話してきましたし、いただくご質問も「質」に関連するものが半分を越えています。 そしてこのお話をする時に欠かせないのが「年齢との関係性」です。
そこで今回は、卵子の質と年齢について順にみていきましょう。
データで見る年齢と妊娠の関係性
女性の年齢が上がると子どもができにくくなる、というのはよく知られています。ただ、それが何故なのか、というのはまだまだ知られていないと思います。 まずは体外受精の妊娠率や流産率の年間データを見てみましょう。
※引用:日本産科婦人科学会2022年ARTデータブックより
なぜ、ここで体外受精の治療周期数のデータを引用したかと言うと、これは年齢の上昇と治療の結果の関係性を表すと同時に、年齢がいかに妊娠や出産に重要かを表しているからです。
体外受精治療は、年齢が違っていても、細かな部分を除き進め方や方法は変わりません。 採卵→受精→成長させる→移植の流れは変わりません。 つまり、同じ方法で治療をすすめているわけですから、その治療結果の統計データは、妊娠と年齢の関係性を表しているともとれます。
このデータで注目してもらいたいのは、妊娠率と流産率です。
- ・妊娠率
年齢が上がるにつれて、妊娠率が低下しています。
細かく見ると、35歳のあたりから低下する割合が増えているのがおわかりいただけるのではないでしょうか?
また、45歳以降はかなり妊娠が厳しい状況であることがわかります。 - ・流産率
こちらは妊娠率と違い、年齢とともに上昇しているのがわかります。
35歳あたりを境に流産率の割合も高くなってきています。45歳では、流産率が50%を超えているのがわかります。
このデータが表すものとして、女性の年齢が上昇すると妊娠率や流産率に大きな影響を与えるということです。そして、これには卵子の質が関わっていると考えられています。それを理解するには、卵子の成り立ちを理解しなくてはなりません。
では、誕生した後はどうなのでしょうか? 誕生した後、排卵が始まる思春期の頃までにも減少し続けているのです。 その数なんと約30万個です。
思春期が始まると、周期毎に複数の卵胞(卵子を取り囲む袋)が育ち、最終的に卵子が排卵されます。これを排卵と言います。 ここで重要なのは、周期毎に一個だけが育っているわけではなく、複数の卵胞が育っていて、その中の厳選された「1個だけ」が排卵されているということです。
具体的に言うと、毎月約1000個の卵胞が消費され、1個の卵子が排卵されているとお考えいただくのが良いでしょう。 実際に女性が一生のうち、閉経までに排卵する数は400~500個と言われています。
女性の年齢と卵子の年齢
卵子の個数が徐々に減少することがわかったら、次は卵子の年齢、よく使われる言葉で言うと「卵子の質」を見ていきます。
まず「卵子の質」とは何を表しているのでしょうか? 前回のコラムでは、卵子の質は、受精する力や成長する力、そして染色体を表しているとお伝えしました。
質とは何?と聞くと、クリニックによって説明に差異はありますが、どこも共通している部分は「卵子の染色体が正常かどうか」という部分です。
染色体については、前回(前回記事引用)ご説明したので省略し、今回は卵子の質は何故低下するのか?(染色体の損傷は何故増えるのか?)についてお話していきます。
卵子は産まれた時に数が決まっているとお伝えしましたが、これは言い換えると「卵子の数は変わらず、増えることがない」ことを表しています。
動物も含め、身体を構成しているのは細胞です(体細胞)。この細胞は、常に自分と同じ細胞を作り出していることは皆さん理科の授業で聞いたことがあるのではないでしょうか?
これは何故行われているのか簡単に言うと「細胞の劣化、細胞内の染色体の劣化を抑えるため」とお考えください。
細胞は常日頃、様々なダメージを受けています。皮膚であれば光や温度、ケガ…様々なダメージを受けています。勿論、細胞の年齢経過もダメージの要因です。
ダメージを受ければ細胞は劣化しますし、1つ1つの細胞の染色体もダメージを受けます。そのまま…というわけにはいきませんから、細胞分裂を繰り返して新しい細胞を作っています。個人の遺伝情報を継承しているわけですね。
重要なのは、「生きる限り細胞は常にストレスに晒されている」ということです。 これは、卵子にも共通しています。
ただし、大きな違いがあるとすれば、最初に言った「卵子は変わらず、増えることがない」ことです。しかし、ストレスには晒されダメージは与えられる。年齢経過もダメージです。そしてこのダメージは、卵子内の染色体にも影響を与えてきます。 そのため、年齢が卵子の質、そして妊娠に重要と考えられているのです。
また、体外受精治療において、卵子の質が低下する要因として考えられているものには、誘発方法やホルモン剤、BMIも関係していると言われています。
人によっては誘発方法が合わないから、別な誘発方法を行ったら結果が変わったことや、誘発剤を変えてみることで結果が変わったということもあり得ると説明を受けた方もいらっしゃるのではないでしょうか?BMIも重要で、痩せすぎや太りすぎは治療結果を左右することが知られています。
卵子の質を改善することはできる?
これは、とても多い質問で、結論から申し上げると、卵子の質を改善するという方法は未だ報告されていません。現状の技術では難しいと考えられています。
クリニックでの指導では、論文ベースで、サプリメントの指導をされることもあると思いますが、 これは「質を改善するのではなく、質の低下スピードを遅らせる、質の低下を今よりなるべく落とさないようにできるかもしれない」という目的で指導していることが多いと思います。
サプリメントに含まれるPQQやコエンザイムQ10、レスベラトロールといった成分の抗酸化作用に注目したものです。
細胞へかかるストレスは酸化として表されることがあり、この酸化をさせないようにするから抗酸化です。 この酸化が細胞に良くないため、抗酸化成分のサプリメントを飲用してみては?とクリニックによっては指導しています。
では、治療をされている方、妊活をしている方にとって、何をおすすめすべきでしょうか? どのクリニックにおいてもおそらく共通してお伝えしていることは、「生活習慣の改善」です。 具体的に言うと
- ・健康的な食事
- ・適度な運動
- ・質の高い睡眠
です。 健康的な食事を心がける、適度な運動は、BMIの改善にもつながります。
健康的な食事にいたっては、クリニックによっては地中海式食事をおすすめしていることもあります。
過去のヨーロッパでの報告において、体外受精治療を受けた患者さんのうち、地中海式食事をしていたカップルの妊娠率が高かったといった報告もあり、地中海式食事をおすすめしているのだと思います。
また、質の高い睡眠も、身体のホルモンバランスを整える意味で必要です。
そして最後にお伝えしたいのは、これらは個人でも実施可能なこと、ということです。何が不妊の原因か、というのは個人によって違いますし、検査してみないとわからない部分でもあります。
ただ、身体を整えることが必要であるという認識は、不妊治療に携わる医師やスタッフにとって当たり前の認識で、治療を始める前に指導も行っています。また、体外受精治療は、保険診療となったとは言え、検査も技術も高額であることが知られています。
治療する費用を抑えることができるかもしれない、妊娠する確率を少しでも上げられるかもしれないという2つのメリットから、実践されるのはいかがでしょうか?
今回は、卵子の質についてお話をしました。PGTについて知るだけではなく、卵子についても知ってもらうために今回は質についてお話しました。次回はいよいよPGT-Aが実施できる施設や、PGTを行う上で知っておかないといけない胚のリスク、バイオプシーって何?についてお話します。
本日お話をおうかがいした方
塚田寛人
大学卒業後、検査会社にて動物の検査業務を担当。その後、医療法人三秀会中央クリニックにて胚培養業務に従事。クリニック開業に伴う、培養室立ち上げにも参画。現在は、高度生殖補助医療(体外受精)や妊活で悩む方へのオンライン相談やのほか、株式会社QOOLキャリア(https://career.qo-ol.jp/)へ協力し、企業に勤める女性へ医療情報を提供するなどのサポートを行っている。
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