「妊娠適齢期」って知っていますか?なるべく早く妊活を始めたいワケを生殖医療専門医が解説!
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妊活お役立ち情報
2023.11.21
基礎知識
「妊娠適齢期」って知っていますか?なるべく早く妊活を始めたいワケを生殖医療専門医が解説!
「妊娠するならできるだけ若いほうがいい」という話を聞くことがありますが、いったい何歳ぐらいが理想的なのでしょうか。また、「できるだけ若いほうがいい」といわれる根拠はどんなところにあるのでしょうか。1979年から41年間にわたって不妊治療に携わった経験から、「妊娠適齢期」を知る必要性を強く感じているという産婦人科医の齊藤英和先生にお話をお伺いしました。
妊娠&出産の適齢期を知る必要性
妊娠適齢期という言葉は、私が不妊治療を始めた頃にはあまり使われていませんでした。それはなぜでしょうか。その理由と、妊娠適齢期についての知識がある・ない、がどのような影響を及ぼすかについてお伝えしていきます。
約45年前にはあまり使われていなかった「妊娠適齢期」
厚生労働省の「人口動態調査」資料によると、1975年~2019年の間にいろいろなことが変化しました。まずは結婚年齢です。女性の初婚年齢は、1975年当時、24.7歳が平均でしたが、2019年には29.6歳と高齢化しています。男性も同じで1975年当時は27歳でしたが、2019年では31歳と4年ほど遅くなっています。
それにともなって出産も遅くなっていて1975年当時は25.7歳が初産の平均年齢でしたが、2019年には30.7歳に。医学的にいうと20代が妊娠しやすい年代、いわゆる「妊娠適齢期」とされていますが、1975年当時は多くの女性がちょうど適齢期にあたる20代で初産を経験していたため、あえて妊娠適齢期という言葉を使う必要はありませんでした。
今は30歳を過ぎて初産の方が多くなっています。そういった方が2人目、3人目を欲しいと思った場合、より高齢になるため、不妊治療を行う人が増えているのです。そういった現象からも「妊娠適齢期」があることを前もって知っておく必要があると考えています。
ちなみに下記のグラフによると、日本は世界の中でも第一子出産時の母親の年齢が高いことがわかりましたが、世界的にも初産の出産年齢が高齢化している傾向にあります。
妊娠に関する知識が乏しい日本
なぜ日本では妊娠しやすい「適齢期」ではなく、高齢での妊娠が増えているのかという原因を調べてみたところ、「妊娠のしやすさ」についての知識が少ないゆえに高齢化している部分があるということがわかっています。
加齢や体重増加、タバコ、性感染症などが「妊娠」にどのような影響を与えるかの知識の有無を国別に集計したデータ(出典/Human Reproduction 28:385~397,2013)によると日本はトルコに次いで知識が乏しい、世界全体からみるときわめて知識が低い国ということがわかったのです。こういった状況をみても「妊娠適齢期」を知る必要があるということがわかります。
卵子の数は胎児の頃がピーク。それ以降は減る一方
また、妊娠を考える上で重要な卵子ですが、初産が30歳を超えてきたということは、かなり卵子の数も減ってしまっている状況で妊娠をめざすことになります。
卵子数の変化を表したグラフ(出典:Baker TG,Proc.Roy.Soc.Biol158:417,1963.Block E,Acta Anat. 14:108,1952)をみると、卵子の数は女性が母親のおなかにいる頃に作り始められ、在胎5カ月頃でピークに。
そして生まれる頃までにぐんと減ります。生理がくる頃にはさらに減って、どんどん減っていきます。卵の数が少なければそれだけ妊娠する可能性も低くなるため、卵の在庫がすこしでも多い時期に妊活をすることが大切なのです。
若ければリーズナブルな治療で妊娠に至ることが多い
不妊治療でも年齢が若いと、タイミング法など一般不妊治療で妊娠にいたるケースが多いことがわかっています。
これまでに支払った不妊治療費の総額を年齢別に出したデータ(出典:【NPO法人Fine】プレスリリース「どうする?教えて!病院選びのポイントアンケート2020」)では、24~29歳だと半分以上の方が不妊治療費50万円以下で妊娠にいたっていました。
そして年齢があがるにつれて治療にかける金額も上昇。40歳~44歳だと、全体の約30%の人が治療費に300万円以上かけて高価な治療を受けていることがわかります。
また、私が勤務する梅ケ丘産婦人科がおこなった「治療別妊娠の割合」(出典:2019年~2020年、妊娠数1945)をみると、やはり30歳未満だと半分の方がタイミング指導で妊娠しています。年齢があがるごとにタイミング法で妊娠する方が減少。40歳以上だとタイミング法での妊娠は20.4%と少なく、その代わり高価な治療費の体外受精で妊娠した方が62.8%と増えているのがわかります。
こういった理由から「妊娠適齢期」を知っておくことで、治療にかかるお金をできるだけおさえながら妊娠をめざせるということがわかります。
そもそも妊娠適齢期とは?
女性の結婚年齢と生涯不妊率の関係を表したグラフ(出典:Menken J et al:Science233(4771):1389-94,1986)をみると、20~24歳で結婚した方の不妊率は5%ですが、40~44歳で結婚した方だと不妊率が64%にのぼることがわかります。すなわち結婚が遅いと子どもを授かれない可能性が高くなるということがわかります。
また年齢別にみる排卵と妊娠の確率というグラフ(出典/Human Reproductionvol.17 №5 pp.1399-1403,2002)をみると、もっとも妊娠しやすい日にセックスをした場合、女性が19~26歳だと50%以上の妊娠率ですが、高齢になればなるほど妊娠率が下がってくることがわかります。女性は20代後半から下がり始め、男性は40代から妊娠する力が低下してきます。
妊娠年齢が上がったのはどうして?要因の1つ「男女雇用機会均等法」
年齢別出生率のグラフをみると、1930年~1970年代ごろまでは23~25歳で子どもを産む人が多かったのですが、1990年以降、そのピークがどんどん高齢になっていきます。
その大きな理由の1つとして1985年に施行された男女雇用機会均等法です。女性が社会に出て働くことが求められたため、23~25歳の妊娠適齢期に子どもを産む人が少なくなり、自分のキャリアが安定する20代後半~30代に結婚。その後に妊娠するため、妊娠の高齢化がすすんだといわれています。
高齢になると不妊になりやすい2つの大きな理由
さきほどの話にもでましたが、妊娠するために不可欠な卵子。
母親のおなかにいる時に数が一番多く、その後は減る一方。要するに年齢が進むにつれて、卵の在庫も減り、妊娠しにくくなっていきます。でも卵の在庫がどのくらい残っているかは自分ではわからないですよね。今は、血液を採取し、どのくらい卵が残っているかをAMHというホルモン値から予測できるようになりました。
卵子の数は個人差があり、20代後半なのに40代並の卵子しか残っていない方もいれば、40代でも30代ぐらいの卵子数の人もいます。気になる人は一度測定してみるといいでしょう。
また、不妊原因にもなる子宮内膜症も高齢になるほど増えるトラブルです。子宮内膜は、月1回生理の時に剥がれ落ち、体外に血と一緒に排出されます。
しかし、一部の子宮内膜は卵管を通っておなかのほうへいき、おなかの中のいろいろな組織にくっつきます。そのくっついた組織で子宮内膜細胞が増殖。その部分が月経の度に出血するので、血が溜まる、組織同士が癒着するなどのトラブルがみられます。年齢を重ねるほど生理の回数は多く、それだけ内膜がおなかに流れている回数が増えるので、高齢の人ほど内膜症を発症する可能性が高いといえます。
また、かつては1人の女性がくり返し妊娠をしていたこともあり、内膜症があっても出産の度にキレイにリセットされていたと考えられます。でも現在は1人の女性の妊娠・出産回数が少ないため、内膜症を発症しても、リセットされる機会がなく、長年増殖させてしまうのです。
今は内膜症を発症した場合、ピルを服用して内膜症を治療することができます。子宮内膜症と診断されていなくても生理痛がいつも重い、経血量が多い等の場合は、早めに主治医に相談してみるといいでしょう。
妊娠した後も高齢の場合は慎重なケアが必要です
どの年代の妊婦さんにも少なからずリスクはありますが、高齢で妊娠した場合は、特に妊娠後も慎重な観察やケアが必要になります。
まずは流産率をみてみましょう。女性が25歳から30歳前半ぐらいの流産率が一番低くなっているので、流産率から考えるとこの時期が妊娠適齢期にあたります。年齢が高くになるにつれて流産率も高くなります。
日本は世界中からみてもきわめて安全にお産のできる国ではありますが、やはり「年齢も壁」というものがあります。
周産期の赤ちゃんの死亡率をみても出産件数1000に対して20代の親から生まれた子どもは3.5~3.9と最も低い数値になっており、母親が高齢になるにつれて死亡するリスクも高くなっていきます。
同じように周産期の妊産婦の死亡率も20代が少なく、30歳を過ぎた頃から徐々に高くなっていきます。
妊娠中の経過も同様で、赤ちゃんの発育に成長に悪影響を与える可能性がある妊娠高血圧症候群や、通常よりも胎盤が低い位置についてしまう前置胎盤20代が最も少なく、年齢があがるにともない発生頻度も増えます。特に妊娠高血圧症候群は、40代以降急激に発症頻度が増えるので、要注意です。
生まれてきた赤ちゃんと母体年齢との関係性
生まれてくる赤ちゃんの染色体異常リスクと母体年齢にも関連があります。21番目の染色体に変異がある赤ちゃんが生まれる確率は母親が20歳だと1667人に1人の割合ですが、30歳だと952人に1人、40歳だと106人に1人の割合となります。
健康リスクを考えた場合の妊娠適齢期
また、健康面のことを考えてもできるだけ若い時期に妊娠、出産するのがのぞましいといえます。
たとえばガンですが、女性のガンで多いのが乳がんと子宮ガンで、妊娠して子どもを育てるのにとても大切な臓器にかかわるガンになります。この2つも30代から罹患率が高くなっていきます。
待望の妊娠をしてもその後にがんにかかっていることがわかり、妊娠を中断して治療を優先しないといけない場合もあります。そういったリスクを減らすために、がん検診は必ず受けるようにするとともに、できるだけ早く妊娠、出産できるように体づくりをすることが大切です。
男性の加齢と妊娠の関係
近年、男性の加齢も女性の妊娠に影響を及ぼすことがわかってきました。
グラフをみると、男性が20代の場合は約6カ月で女性が妊娠していますが、30代だと10カ月かかっていることがわかります。このことから男性が若いと早く妊娠に至ることがわかります。
また、男性が高齢化するにともない流産率や、先天性異常の子どもが生まれる確率も上昇することがわかっています。
また精子についてですが運動率などはさほど年齢と関係がありませんでしたが、40歳を超えると遺伝子の断片化が増えます。
さらに、遺伝子の突然変異は1歳加齢するごとに2個増えるので、20歳の男性と比べると40歳の男性はかなりの数の突然変異が起こる可能性が高いといえます。
男性も女性と同じように1日でも早く妊娠できるように心がけることが大切です。
まとめ
ヒトの生殖能力は年齢とともに発達し、ピークに達したあとは老化していくものです。そして生殖能力のピークは男女ともに20代ということをおぼえておきましょう。
ただ、日本ではこのような知識を学ぶ機会が無かったため、「避妊をやめればいつでも妊娠できる」と考えている人もいるでしょう。
でもすぐに妊娠できるとは限らないので、「子どもが欲しいな」と思ったら、今日から妊活を。女性だけでなく男性も一緒にまずは妊娠・出産などに関する正しい医学的知識を学ぶことから始めてみてください。
「今、30代だから妊活するのには遅いのかな」と思った方もいるかもしれません。確かにピークは過ぎましたが、まだ妊娠できる力は充分に残っていると思うので、できるだけ早く妊活をはじめてみてください。
まとめ/赤ちゃんが欲しい編集部
https://akahoshi.net/
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プロフィール
齊藤英和
【資格・役職】
医学博士 日本産科婦人科学会産婦人科専門医
日本生殖医学会生殖医療専門医
近畿大学先端技術総合研究所・客員教授
昭和大学医学部・客員教授
東京都不妊・不育等医療費助成事業実施に係る専門医師
神奈川県地方創生推進会議 副座長
【経歴】
昭和54年 山形大学医学部卒業 産婦人科助手
昭和56年~57年 南カリフォルニア大学research fellow
昭和57年~ 山形大学医学部 産婦人科助手→講師→助教授
平成14年3月~ 国立成育医療研究センター不妊診療科長
平成25年11月~ 国立成育医療研究センター周産期母子診療センター副センター長 兼 不妊診療科長
平成31年4月~ 梅ヶ丘産婦人科ARTセンター長
■東尾理子主催「妊活研究会」
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