胚の評価の目的と観察ポイント。受精卵のグレードと妊娠率とは【後編】|浅田レディースクリニックPart5

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2024.09.11

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胚の評価の目的と観察ポイント。受精卵のグレードと妊娠率とは【後編】|浅田レディースクリニックPart5

不妊治療の体外受精で気になるのが、受精卵(胚)の評価やグレードについてです。胚培養士はいつ、どのようなポイントを観察し、評価しているのでしょうか。また受精卵のグレードと妊娠率に関係はあるのでしょうか。浅田レディースクリニックの培養研究部 部長 福永憲隆さんが解説します。

受精卵の評価は、何のためにいつ行う?


体外受精によって得られた受精卵(胚)は、最大7日目まで体外で培養を行います。受精卵を評価する目的は、胚移植や凍結に向けて複数の受精卵を体外で培養するときに、状態の良い受精卵を選択するためです。

施設により違いがありますが、当院では、受精卵の発育を観察、評価するタイミングは、体外受精を行った翌日の培養1日目、3日目、5~7日目です。2、4日目の観察は行いません。

受精卵の発育については、大きく分けると、3日目までは細胞数を増やす分割時期で、4日目は増えた細胞が1つの固まる時期、5日目以降は胚盤胞になる時期ととらえます。そのうえで、観察して評価をしていきます

受精卵の観察、評価について、よくご質問を受けます。当院のブログに「培養室の一日~観察~」として2021年2月のものですが、わかりやすい記事がありますので、ぜひご覧ください。 https://ameblo.jp/ivf-asada/entry-12658639893.html

タイミング別で異なる受精卵の評価ポイント

観察するタイミングによって、受精卵を評価するポイントは異なってきます。具体的にどのような点を観察、評価しているのかについて、タイミング別にみていきましょう。

培養1日目は、前核の数で正常受精しているかを評価


培養1日目は、正常に受精しているかどうかの確認です。受精卵の様子を観察し、前核の数を数えることによって、正常受精卵、異常受精卵、未受精卵、その他受精卵、変性卵に分類します。正常受精卵であれば、前核は2個あります。前核とは2個が一対で、1個が卵子(母)、もう1個が精子(父)の核です。正常でない受精卵としては、前核が3つあるもの、受精前分割のものを異常受精卵、核がないものを未授精卵、1前核のものはその他受精卵、膜が壊れてしまった変性卵があります。

培養3日目は、細胞数と大きさ、フラグメント量で評価


培養3日目は、1つの細胞だった受精卵が成長しながら細胞分裂を繰り返す時期です。細胞数、大きさの均一、フラグメント量の3つのポイントから評価を行います。通常の細胞数は6~9つ、細胞の大きさは均一でフラグメントの量は少ないほど良好とされます。フラグメントとは、細胞分裂をする際に発生する細胞の破片のことです。この3つを総合して良好なものからA~Eの5段階で評価をします。

例えば「8A」と評価された場合、「8」は細胞数、「A」は細胞同士の大きさの均一性が良く、フラグメントが少ないと評価されたものです。細胞の大きさの均一性が悪く、フラグメント多い胚につれ「8B」や「8C」と評価が変化します。

培養5~7日目は、胞胚腔の広がりと孵化の程度で評価


培養5~7日目は、胚盤胞に成長していく時期です。胚盤胞といっても胞胚腔の広がり具合と孵化の程度によって6つのグレードがあります。難しい専門用語が並びますが、1は初期胚盤胞、2は胚盤胞、3は完全胚盤胞、4は拡張胚盤胞、5は孵化中胚盤胞、6は孵化後胚盤胞です。3の完全胚盤胞になると、赤ちゃんになる部分の内部細胞塊(ICM)と胎盤となる栄養外胚葉(TE)をしっかりと認識できる状態になります。


胚盤胞の評価は、この6グレードに加えて、内部細胞塊と栄養外胚葉の状態もそれぞれA~Cの3段階で判断します。例えば「4AB」という評価であれば、4は拡張胚盤胞で、内部細胞塊がA、栄養外胚葉がBを意味し、「3CB」であれば、3は完全胚盤胞で、内部細胞塊の評価がC、栄養外胚葉の評価がBという判断です。

受精卵の評価と妊娠率

最後に、受精卵の評価と妊娠率について、培養3日目と胚盤胞の移植の場合で、それぞれ紹介します。ここでの受精卵の分類は、総合的に3つの大枠でくくり、Good(非常に良い)、Fair(良くも悪くもない)、Poor(明らかに良くない)としています。当院独自のデータですので、すべての施設にこの通りに当てはまるものではありません。おおよその目安として認識していただけたらと思います。


培養3日目の妊娠率は、2013年~2019年に当院で1個の胚移植をした7150症例の集計結果より算出したデータより、Goodが34.3%、Fairが26.7%、Poorが6.4%です。妊娠率は受精卵の評価ごとに、だんだんと下がっていきます。


胚盤胞での妊娠率は、2013年~2019年に当院で胚盤胞1個を移植した1万7266症例の集計結果より算出したデータより、Goodが45.1%、Fairが13.4%、Poorが4.7%です。Goodの妊娠率は高く、Fairの妊娠率の下がり具合が大きいことがわかります。この理由はさまざまありますが、培養3日目は細胞数などで分類できるのに対して、5日目以降は胚盤胞のグレード、内部細胞塊と栄養外胚葉などで差が出てくるので、Goodの妊娠率が高くなると考えられます。

受精卵の評価を理解する上で重要なこと


以上、受精卵の評価、妊娠率などを説明してきましたが、理解する上で重要なことをお伝えしたいと思います。

世界の定説でもありますが、受精卵を形で評価することには、限界があるということです。受精卵が形態的に良くても、赤ちゃんになるかどうかは何とも言えません。また受精卵の評価は、同じ基準を使っていても、施設ごとにばらつきがあります。評価のわずかな違いが、本質的な妊娠率と相関するとは言えません。受精卵の評価は、その瞬間の一時的な見た目なので、時間と写真の撮り方でも変わってしまいます。

現在の受精卵の評価で、受精卵すべての能力を評価できているわけではありません。ぜひ、ひとつの目安という位置づけにとどめておいてください。 2024年現在、受精卵の評価にAIを利用する研究も盛んにおこなわれており一部臨床へ導入されています。AIの利用は人が行うバラツキが無く、発生の初期段階で妊娠の予測や正倍数性の予測をするのなど有用な機能となっています。臨床現場ではAIの発展に期待が集まっています。

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本日お話をおうかがいした方

浅田レディースクリニック

副院長/培養研究部 部長

福永 憲隆氏

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