子宮内フローラについて#1 妊娠率・生児獲得率に関係する“子宮内フローラ”とは?

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2024.05.08

不妊治療

子宮内フローラについて#1 妊娠率・生児獲得率に関係する“子宮内フローラ”とは?

今、注目されている子宮内フローラ。最近の研究では、子宮の中には菌がいて、その菌が妊娠率や生児獲得率に関係していることが分かってきています。今回は、子宮内フローラ検査を提供するVarinos株式会社CEOの桜庭喜行さんが、最新情報と検査現場の経験知より、子宮内フローラについてお話します。

子宮内フローラとは何?


Varinos子宮内フローラ

子宮内フローラをテーマに、検査を提供する側から、子宮内の菌環境と妊娠、出産の関係などについてお話をしていきたいと思います。

フローラとは、お花畑の意味です。腸内フローラという言葉を聞いたことがあるかと思いますが、菌がたくさん集まっている様子をお花畑に例えてフローラと呼びます。つまり子宮内フローラとは、子宮の中の多種多様な菌の集まりのことです。

菌といっても、一般的には、悪玉菌、善玉菌、日和見菌などがあります。名前の通り、悪玉菌というのは悪さをする菌、善玉菌はいてもらうと良い仕事をしてくれる菌、そして日和見菌は、悪玉にも善玉にもなれる、多いほうの味方をする菌です。こういった菌が集まって、子宮の中の環境を作り、菌の割合で環境が変わっていきます。

子宮内の菌環境が妊娠率や生児獲得率に影響がある

PGT-A(着床前ゲノム検査)で染色体異常がない胚(受精卵)を探すことはできますが、異常がない胚を体外受精で移植しても、妊娠率は60~70%で100%にはなりません。裏を返せば30~40%は、胚ではなく子宮のほうに何らかの原因があると考えられていたのですが、以前はそのことを調べる方法がありませんでした。

それが、ゲノム解析技術が進んだことで、大きく変わりました。2015年にアメリカの研究グループが、ずっと無菌だと考えられていた子宮内にもフローラが存在することを発見したのです。さらに2016年にスペインのチームが子宮内の菌環境が妊娠率や生児獲得率に影響するという研究を発表したことで、子宮内フローラが注目されるようになったのです。

そのような研究成果を受け、当社では、もし子宮内の菌環境が検査で分かったら、不妊に悩む方に役立つのではないかという思いで、2017年に独自開発し、世界で初めて子宮内フローラ検査を実用化しました。

ラクトバチルスが多いと妊娠率も生児獲得率も高い

子宮内フローラで重要なのは「ラクトバチルス」という乳酸菌です。この菌がどのようなものかは後述しますが、まずは世界中にインパクトを与えたスペインの報告データを紹介します。

Varinos研究成果

体外受精を実施している不妊治療患者35人を対象に、ラクトバチルスが90%以上いる群(多い群)と90%未満の群(少ない群)の2つの群に分けて調べたところ、妊娠率では多い群が70.6%に対し、少ない群が33.3%、生児獲得率では多い群が58.8%に対し、少ない群が6.7%に。妊娠率は2.1倍、生児獲得率は8.7倍も違う結果になりました。 ラクトバチルスの存在比の違いによる妊娠・出産への影響に関する論文(Evidence that the endometrial microbiota has an effect on implantation success or failure)は、英語ですがネット上でも読むことができます。

ラクトバチルスが悪玉菌の増殖を抑える

ラクトバチルスには、悪玉菌の増殖を抑える働きがあります。ラクトバチルスが作る乳酸によって子宮内や腟内が酸性になり、悪玉菌が育ちにくい環境になるのです。つまりラクトバチルスが多いほど悪玉菌は少なくなります。

反対にラクトバチルスが少ないと、悪玉菌が増えやすくなると言われています。子宮内に悪玉菌が増えると、悪玉菌をやっつけようと免疫機能が活性化します。一見良いことのように思うかもしれませんが、活性化した免疫は、同時に大切な胚も「異物」として攻撃、排除するように働いてしまうのです。そのため子宮の中には悪い菌がいないほうが良いということになります。

子宮内だけではなく、腟内も同様です。健常な女性の腟内では、ラクトバチルスが75〜90%いるとされ、雑菌の侵入を防いでいると言われています。しかし何かしらの要因でラクトバチルス以外の悪玉菌が増えてしまうと、流産や早産のリスクファクターのひとつと考えられている細菌性腟症を引き起こしてしまいます。ラクトバチルスは、雑菌や病原体から守るバリアのような役割をする大切な菌です。

妊娠や出産にとって悪い菌とは

続いて、妊娠や出産にとって悪いとされる菌についても紹介しましょう。

Varinos妊娠に悪い菌

【流産や早産に関わる菌】
・ウレアプラズマ
・マイコプラズマ

【細菌性腟症に関わる菌】
・ガードネレラ
・プレボテーラ
・ストレプトコッカス
・アトポピウム

子宮内フローラと流産や早産の関係については、ごく最近の研究で分かってきたことがたくさんあります。不妊治療にかかわらず女性の健康のために、悪玉菌を減らしてラクトバチルスを増やすといった子宮内フローラを整える重要性が示唆され始めています。

子宮内フローラを自身で把握するのは不可能


Varinos子宮内フローラ検査

実は子宮内フローラを調べる検査というのは、世界で数社しか実用化されていません。それだけ難しい技術を要する検査でもあります。そして、すべて同じ内容ではなく検査会社によって違います。ここからは当社の検査ということで紹介していきます。

子宮内フローラを調べる検査とはどんな検査?

子宮内フローラ検査は、ゲノム解析技術を応用して子宮の中の菌を調べる検査です。細長いスポイトのような器具を使い、医師が子宮の中の粘液(子宮内腔液)を採取します。子宮内膜の組織を削り取る必要がない検査ですので、痛みには個人差はありますが、軽減にはつながっていると思います。

また1度の検査で、バクテリアと言われる細菌であれば、ほぼすべての菌を見ることができ、善玉菌と悪玉菌を把握することができます。当社の子宮内フローラ検査では、判定不能率は2%未満と大変低いこともご評価いただいております。

子宮内フローラが分かるまでの流れ

医療機関で子宮の中から採取された子宮内腔液を当社のラボに運び、ゲノム解析で細菌を検出します。

ゲノムとは「遺伝情報のすべて」の意味です。人間だけではなく、動物や植物、昆虫などすべての生物が遺伝情報(DNA)を持っています。細菌も同じです。菌のゲノム情報を解析し、子宮内にどんな種類の菌がいて、どの菌がどのくらいいるのかも分かります。

その結果を検査報告書として医療機関に戻す流れになっています。受け取った医師は検査報告書に記載されている菌環境に応じ、必要と判断した場合は治療を行います。

どのような人が調べる必要がある?


Varinos対象

子宮内フローラ検査は、これから妊娠を望むすべての方、不妊治療を受けても妊娠しない方、良好胚を移植しても妊娠しない方、流産や早産の経験がある方や繰り返している方などに受けていただきたいと思っています。

現在、子宮内フローラ検査は北海道から沖縄まで、国内の350を超える施設で導入していただいています。検体数も累計3万件以上となっています(2023年9月末時点)。

次回は、子宮内フローラの検査結果が悪くても改善できるのかについてお伝えします。
>>子宮内フローラの検査結果が悪くても菌環境は改善できる!こちら

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