不育症・流産を繰り返す方へ。不育症の原因と不育症治療の今

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2025.11.21

小塙先生監修:不育症・流産を繰り返す方へ。不育症の原因と不育症治療の今

「次の妊娠も、またダメかもしれない…」。流産を繰り返す経験は、身体だけでなく、心にも大きな負担をもたらします。

しかし、公的機関のデータを紐解いていくと、不育症が「不治の病」ではないことを示しています。厚生労働省の研究班の報告によると、検査と治療によって不育症と診断された方の約8割が出産に至っていることがわかっています 112

そこで、今回不育症の原因と、「不育症治療の今」について知り、不育症を正しく理解できるよう、不育症についてお届けします。

1. 不育症を正しく知る:定義、流産との違い、患者数


不育症と聞くと、「不妊症」と混同されることが少なくありません。しかし、この二つは明確に異なります 2

  • 不妊症:妊娠そのものが難しい状態 2

  • 不育症:妊娠はするものの、流産や死産を繰り返して赤ちゃんを迎えることが難しい状態 2

日本不育症学会は、日本産科婦人科学会と合意した新しい定義として、流産あるいは死産が2回以上ある状態を不育症としています 3。この定義では、生児の有無は問わず、流産が連続していなくても不育症に含まれます 3。

日本の不育症患者はどれくらい?

不育症患者の数は、公的な情報源によって異なる推計値が示されています。

  • 推計135万〜50万人
    • 「不育症管理に関する提言2025」では、妊娠経験者における不育症の頻度(5%)をもとに、30万〜50万人と試算されています 3

エコチル調査(Sugiura-Ogasawara M, et al. Am J Reprod Immunol. 2019;81(1):e13072)、国立社会保障・人口問題研究所、人口動態統計、2022年ARTデータブックを参考にして推定できる数値を用いると、不育症の疫学は下記(不育症学会)になります。

  • 不育症(流死産 2回以上):約5%(約 34万〜48.6万人)
  • 年齢分布を考慮すると、35-40歳以上の割合が高くなる
  • 約80%は続発性不育症(過去に出産経験あり)

2. なぜ流産は繰り返されるのか?不育症の主な原因とは?


不育症の原因は多岐にわたりますが、診断で特定できる主な原因は以下の4つに分けられます 4

  • 胎児(胎芽)染色体異常:流産の原因の50%〜80%を占める最も一般的な原因です 5。卵子や精子の形成過程で偶発的に生じるものであり、加齢によってその頻度が上昇することが知られています 5

  • 夫婦の染色体異常:ご夫婦のいずれかが染色体の構造的異常を持つ場合、流産のリスクが高まることがあります 5。しかし、このようなケースでも、約2/3は無治療で出産に至る可能性があります 5

  • 子宮形態異常:子宮の形状に先天的な異常(中隔子宮など)があると、流産のリスク因子となることがあります 5

  • 抗リン脂質抗体症候群(APS):自己免疫疾患の一つで、血管内に血栓ができやすくなり、胎盤の血流障害を引き起こすことで流産につながります 5

  • 内分泌異常(甲状腺機能低下症) : 甲状腺ホルモンは胎盤形成障害や高プロラクチン血症を介した黄体不全を引き起こすことがあります 13, 14

「原因不明」と言われても、諦める必要はありません

これまでの不育症診療では、約70%の患者が「原因不明」と診断されてきました 6。しかし、近年の科学的進展により、この認識は大きく変わっています。

厚生労働省の研究班は、これまで原因不明とされてきた不育症患者の51%が、流産を繰り返す際に胎児の染色体数的異常を反復していることを明らかにしました 6。この事実を差し引くと、真に原因が特定できない症例は全体の約20%にすぎないと結論づけられています 6

3. 不育症治療の現在:原因に応じたアプローチと最新研究


不育症の治療は、特定された原因に基づいて行われます。

  • 子宮形態異常:中隔子宮は手術によって生児獲得率が改善する可能性があります 7

  • 抗リン脂質抗体症候群(APS)診断基準を満たすAPS患者には、低用量アスピリンとヘパリンの自己注射が第一選択の治療法として推奨されています 7。この治療により、約7割の患者が生児を得られると報告されています 8

  • 夫婦の染色体異常遺伝カウンセリングを受けることで、今後の妊娠の見通しを正確に把握し、精神的な支援につながります 7

  • 甲状腺機能低下症甲状腺ホルモンの補充など甲状腺専門医のもとで適 切な治療・管理を行うで良好な結果を得る可能性がある 15。 しかし、甲状腺自己抗体(TPO 抗体)が存在するだけで甲状腺機能が正常な場合に関しては治療の意義は乏しい可能性がある 16

このように、分かっている原因に対しては、きちんと手立てがあるのも事実です。

ライフスタイルの見直しも重要も治療のひとつ

  • 喫煙や飲酒、肥満、運動不足などのライフスタイルは男女ともに反復流産に関連する(ヘビースモーカーの流産率は非喫煙者の約2倍,受動喫煙者の流産率は1.7倍との報告あり)

  • 1 週間に 2~4 回以上の飲酒は流産を増加させるとの報告がある


  • カフェイン摂取 300mg/day 以上(コーヒー1 日 3 杯以上)で流産が 増加するとの報告あり

⇒男女ともにこれらを見直すことで流産率を下げられる可能性があります。

(不育症管理に関する提言2025)

最新研究:新しい抗体の発見が治療法を広げる

  • ネオセルフ抗体
    また、2023年に神戸大学の研究グループによれば、「ネオセルフ抗体」と呼ばれる新しい自己抗体が不育症の原因と関連していることが示唆されました 3
    この抗体は、従来の検査で原因が特定できなかった不育症患者の約20%で唯一陽性であったと報告されており、これまで「原因不明」とされてきた症例の一部に明確な病態がある可能性を示しています 3

    また、このネオセルフ抗体陽性の不育症女性を対象とした観察研究では、低用量アスピリン・ヘパリン療法を実施したグループで生児獲得率が87.2%に上昇したという結果も報告されており、新しい治療の可能性が期待されています 9


  • 慢性子宮内膜炎
    慢性子宮内膜炎は不育症患者の約3割にみられ、炎症により着床能や免疫バランスが障害され流産と関連すると考えられます。抗菌薬治療で改善し妊娠率や出産率が向上する可能性があり、国内外ガイドラインでも治療検討が推奨されていますが、エビデンスはまだ限定的です 17, 3


  • 子宮内細菌叢
    子宮内細菌叢はラクトバチルス優位(≥90%)が妊娠維持に有利とされ、ラクトバチルス低下や他菌増加は着床不全や流産リスク上昇と関連します。背景には慢性炎症や子宮内膜受容能・免疫異常が関与し、抗菌薬やプロバイオティクスによる改善が試みられていますが、エビデンスはまだ限定的です 18, 3。

不育症と向き合うためのサポートはある?


不育症の経験は、心身に大きな影響を及ぼします。厚生労働省の研究によると、流産や不育症を経験した女性は、そうでない女性と比較して離婚率が1.6倍から3.2倍高いことが明らかになっています 6。また、胃炎や心筋梗塞といった他疾患を患いやすいことも示唆されています 6

すぐに利用できる不育症支援は?

不育症で悩む方を支えるために、さまざまな支援の仕組みが整いつつあります。

  • ピアサポート:同じ経験を持つ人が、不育症に向き合う方を支える「ピアサポート」が注目されています。こども家庭庁でも、ピアサポーターを育成する取り組みが始まっています 10


  • 経済的サポート:不妊治療の国の助成制度に加え、近年では不育症治療を支援する独自の助成制度を設ける自治体も増えてきました。地域ごとに内容は異なりますが、「経済的な負担を少しでも減らして前に進んでほしい」という思いから広がっている取り組みです。
    参考:全国自治体の不育症助成金はこちら

 

  • 不育症認定医:医学的に専門性を持つ「不育症認定医」も各地で診療を行っています。原因の特定や最適な治療方針を立てるためには、認定医のサポートを受けることが安心につながります。


    ▼認定医は、こちらから確認できます▼
    http://jpn-rpl.jp/test/%e6%9a%ab%e5%ae%9a%e8%aa%8d%e5%ae%9a%e5%8c%bb/

不育症に向き合う日々は、ときに孤独でとてもつらいものです。だからこそ、専門医や相談窓口、同じ経験を持つ仲間に頼ることは、決して弱さではなく大切な一歩です。支えてくれる存在がいることを、どうか忘れないでください。 そして、苦しい気持ちを抱えているのはあなただけではありません。支えてくれる人や場所を頼りながら、希望に向かって一歩ずつ歩んでいきましょう。

参考文献

  1. 1. Morita K, Ono Y, Takeshita T, et al. Risk Factors and Outcomes of Recurrent Pregnancy Loss in Japan. J Obstet Gynaecol Res. 2019 Oct;45(10):1997-2006.
  2. 2. 不妊症・不育症について | 富谷市ホームページ, https://www.tomiya-city.miyagi.jp/kosodate/syussan/funin-fuiku.html
  3. 3. 不育症管理に関する提言2025 - Fuiku-Labo, http://fuiku.jp/common/teigen001.pdf
  4. 4. 一般のみなさまへ - 生殖医療Q&A(旧 不妊症Q&A):Q19.不育症の原因にはどういうものがありますか? - 一般社団法人日本生殖医学会, http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa19.html
  5. 5. 不育症の定義 - 日本不育症学会, http://jpn-rpl.jp/join/about-rpl/
  6. 6. 難治性不育症に関連する遺伝子の網羅的探索 | 厚生労働科学研究成果 ..., https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/18350
  7. 7. 不育症 | 女性の健康推進室 ヘルスケアラボ|厚生労働省研究班監修, https://w-health.jp/fetation/rpl/
  8. 8. 予防治療に関する研究を基にした 不育症管理に関する提言 2019 1, https://sukoyaka21.cfa.go.jp/wp-content/uploads/2021/10/%E5%B0%82%E9%96%80%E3%88%B0-1%E4%B8%8D%E8%82%B2%E7%97%87%E7%AE%A1%E7%90%86%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%8F%90%E8%A8%802019%EF%BC%88%E5%8C%BB%E7%99%82%E5%BE%93%E4%BA%8B%E8%80%85%E5%90%91%E3%81%91%EF%BC%89.pdf
  9. 9. KAKEN — 研究課題をさがす | ネオ・セルフ抗体による不妊症、子宮内膜症の病態解明と治療法の確立 (KAKENHI-PROJECT-23K08888), https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23K08888/
  10. 10. 不妊症・不育症ピアサポーター育成研修等事業|こども家庭庁, https://www.cfa.go.jp/policies/boshihoken/funin/peer-supporter
  11. 11. 妊娠高血圧症候群、胎児発育不全などの妊娠中の異常に ..., https://www.kobe-u.ac.jp/ja/news/article/2023_07_06_02/
  12. 12. 別紙2, https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001474387.pdf
  13. 13. Adu-Gyamfi EA, Wang YX, Ding YB. The interplay between thyroid hormones and the placenta: a comprehensive review†. Biol Reprod. 2020 Feb 12;102(1):8-17.
  14. 14. Unuane D, Velkeniers B. Impact of thyroid disease on fertility and assisted conception. Best Pract Res Clin Endocrinol Metab. 2020 Jul;34(4):101378. doi: 10.1016/j.beem.2020.101378.
  15. 15. ESHRE Guideline Group on RPL; Bender Atik R, Christiansen OB, Elson J, Kolte AM, Lewis S, Middeldorp S, Nelen W, Peramo B, Quenby S, Vermeulen N, Goddijn M. ESHRE guideline: recurrent pregnancy loss. Hum Reprod Open. 2018 Apr 6;2018(2):hoy004.
  16. 16. van Dijk MM, Vissenberg R, Fliers E, van der Post JAM, van der Hoorn MP, de Weerd S, Kuchenbecker WK, Hoek A, Sikkema JM, Verhoeve HR, Broeze KA, de Koning CH, Verpoest W, Christiansen OB, Koks C, de Bruin JP, Papatsonis DNM, Torrance H, van Wely M, Bisschop PH, Goddijn M. Levothyroxine in euthyroid thyroid peroxidase antibody positive women with recurrent pregnancy loss (T4LIFE trial): a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet Diabetes Endocrinol. 2022 May;10(5):322-329.
  17. 17. Cicinelli E. Reprod Sci. 2014;21(5):640-647.
  18. 18. Vomstein K. J Reprod Immunol. 2024;163:104251.
  19. 19. 厚生労働省「不育症患者数推計(日本での推定数)」, https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000697873.pdf

記事監修

小塙医院

理事長

小塙 理人先生

2013年に東京都立大塚病院で初期研修を開始後、慶應義塾大学病院や国立病院機構埼玉病院、済生会宇都宮病院で産婦人科後期研修を修了。2018年より慶應義塾大学病院 生殖生理研究室に所属し、2019年から医療法人小塙医院理事、2023年に理事長に就任。小塙医院つくばARTクリニックでも経験を積み、不妊症・不育症を含む生殖医療の専門性を深めている。
【資格・認定】
日本産科婦人科学会 専門医(2018)
JATEC インストラクター(2019)
日本性感染症学会 認定医(2021)
母体保護法指定医(2022)
IVIRMA Online Course Specialization in Assisted Reproduction 修了(2024)
日本不育症学会 認定医(2025)

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