体外受精の胚培養。培養で使われるインキュベーター とは?【前編】|浅田レディースクリニックPart4
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2024.09.04
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体外受精の胚培養。培養で使われるインキュベーター とは?【前編】|浅田レディースクリニックPart4
不妊治療の体外受精。受精卵(胚)が子宮に移植されるまでに、卵子と精子がどのような場所で受精し、培養されていくのでしょうか。普段はあまり接する機会がない培養室や受精卵の培養機器、そして培養された受精卵の成長プロセスについて、浅田レディースクリニックの培養研究部の福永憲隆さんが解説します。
培養室の壁をガラス張りに。直接見ることができる
突然ですが「培養室」というと、みなさんはどのようなイメージを持つでしょうか?培養室は体外受精の治療をされている患者さんの精子や卵子、受精卵をお預かりしている部屋ですが、この質問をすると「建物のどこにあるかわからない」とか「薄暗い地下室にあるイメージ」などと言われることが多いです。もしかしたら、その部屋で働いている胚培養士についても、患者さんにとっては謎が多い存在なのかもしれません。
当院では、不妊治療において、見えないことやわからないことによる患者さんの不安を解消するために、「見えないことを、見えるようにする」取り組みをしています。例えば、当院の品川クリニックでは、これまで見ることがなかった培養室を直接見ることができる「木漏れ日テラス」を開放しています。
培養室の中と外との壁をなくすくらいの思いで、壁はガラス張りです。光は受精卵にとって影響を及ぼしますが、特殊なフィルムをガラスの表裏に張ることで影響を無くすことが出来ました。外からの光が培養室まで直接降り注ぎ、働く胚培養士にとっても居心地が良い空間となりました。
培養機器「タイムラプスインキュベーター」 を開発。受精卵をしっかりと観察できる
培養室では、胚培養士が、採卵・採精後の卵子と精子を受精させて最終的に母体に移植するまでの間、受精卵のお世話をします。その際に受精卵を培養する機器として、当院では「Time Lapse(タイムラプス)インキュベーター」を使っています。この培養機器は、当院がメーカーと共同開発した日本製のものです。私たち以外のクリニックでも使えるように、一般販売しています。
インキュベーターといっても、あまりなじみがないかもしれません。どのようなものか簡単に言うと、内部は子宮の中と同じ体内の環境に設定されていて、お皿(培養dish)を入れる個別培養のスペースが9か所ある培養装置です。高さ3センチ、縦横各5センチを容積としたスペースで、個別に仕切られているため他の患者さんと同居することはありません。当院では1台のインキュベーターで最大9人の患者さんの受精卵を培養することができます。
タイムラプスとは、一定間隔で撮影した写真をつなぎ合わせて動画を作成できる撮影方法のことです。タイムラプスインキュベーターは、受精卵観察用のカメラを搭載し、10分ごとに受精卵の様子を断層で撮り続けてくれます。これによって受精卵の発育をしっかりと観察できるようになりました。
培養機器「タイムラプスインキュベーター」 を開発。受精卵をしっかりと観察できる
そもそも、タイムラプスインキュベーターによって何が変わったのかということをお話する前に、これまでの培養と受精卵の観察がどのように行われていたかについて説明したいと思います。
これまでも受精卵はインキュベーターの中で培養していましたが、観察するためにはいったんインキュベーターの扉を開けて、受精卵をお皿ごと取り出し、顕微鏡の上にのせる必要がありました。
つまり、何が問題だったかというと、インキュベーターの中はお母さんの子宮の中と同じ環境に設定された「体内」なのですが、観察するために取り出されて顕微鏡にのっている間は「体外」の環境になるわけです。
私たち胚培養士は、受精卵をインキュベーターから出す時間をできるだけ短くするように、観察を簡略化したり観察しない日を設定したりするなど工夫をしていましたが、観察の工程はゼロにはできません。
施設の基準によって異なりますが、培養は、短くて2~3日、長いと5~7日は続きます。その間、観察は少なくとも2回程度、多ければ毎日行われるのです。どうしても受精卵はインキュベーター内を体内と考えたとき「体内」と「体外」を行ったり来たりすることになります。
タイムラプスインキュベーターの登場で、観察のたびに受精卵を外に出す必要がなくなりました。体内環境に設定されたインキュベーターに入ったままの状態で、受精卵をPCモニター上で観察できるようになったからです。
受精現象から受精卵が胚盤胞になるまで
では、タイムラプスインキュベーターで撮影した画像を使って、実際に受精卵がどのように育っていくかを説明してきましょう。
受精卵は、培養3日目までは細胞が分割し、細胞数を増やしながら発育が進んでいきます。培養4日目になると、分割した細胞がひとつの塊になっていきます。これを「桑実胚」と呼びます。
培養5日目になると、今度は塊の内側から空間が広がっていき「胚盤胞」になり始めます。どんどん外側に向かって大きくなっていき、内側にぴょこんと飛び出した部分が見え始めます。これは胎児になる細胞部分です。外側につながっているのは、胎盤になる細胞部分になります。
ただし受精卵の中には、発育停止胚という途中で発育が止まってしまうものもあります。良好な胚のように培養2日目ぐらいまでは同じように成長していっても、培養3日目から4日目に違いがでてきます。発育が止まってしまったのは、遺伝子の発現がうまくいかなかったためです。
私たち胚培養士は、受精卵を観察し、形や見た目の違いを数や言葉に置き換えていきます。「胚の評価」や「グレード」とも言いますが、このことについては次回にお伝えします。
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本日お話をおうかがいした方
浅田レディースクリニック
副院長/培養研究部 部長
福永 憲隆氏
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