かかりつけ医としての産婦人科を目指す|つばきウイメンズクリニック【後編】
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妊活お役立ち情報
2024.07.12
不妊治療
かかりつけ医としての産婦人科を目指す|つばきウイメンズクリニック【後編】
不妊治療を経験した東尾理子が、妊活に役立つアイテムや医療施設などの取り組みについて、関係者にさまざまな角度から質問を投げかけ深掘りしていく連載です。
今回は、愛媛県松山市にある「つばきウイメンズクリニック」の鍋田基生院長との対談を前後編2回でお届けします。後編は、体外受精について保険診療での進め方や年代別の妊娠率、クリニックの取り組みなどを伺いました。
>>かかりつけ医としての産婦人科を目指す|つばきウイメンズクリニック【前編】はこちら
保険診療での体外受精の治療の進め方
東尾:前編では、自費での体外受精の場合、初期胚を1個凍結して、さらに胚グレードがCCでも可能な限り全部を凍結保存するといったお話を伺いました。保険診療での体外受精の場合、自費とは治療の進め方は変わってくるのでしょうか?
鍋田:そうですね。保険診療では、移植の回数が決まっていて治療開始時の年齢が40歳未満なら6回まで、40歳以上43歳未満なら3回までと制限がありますから、その枠内でなんとかしないといけない。まして卵子凍結や貯卵もできない。保存した胚はすべて移植しないといけない。したがって保険診療の場合は、自費とは違ってグレードの高い胚を保存するようにしています。
東尾:なるほど。保険診療の場合は、1回の移植での妊娠率を高くするというところにこだわって、グレードの良い胚を移植するということですね。胚グレードの目安はあるのですか?
鍋田:当院のデータでいえば、胚グレードAAやBAなら臨床妊娠率が5割はあるわけです。計算上、2~3回の移植で妊娠するだろうと見込めます。ですが、胚グレードがCCだと臨床妊娠率が2割程度なので、妊娠のためには5~6回の移植をしなくてはいけない計算になります。もうそれだけで保険適用枠を使ってしまうわけです。だから保険の枠内で移植するとなると、最低でも4割の臨床妊娠率がある胚グレードBB以上のもので進めたいんです。
東尾:仮に保険適用枠での移植が最後の1回となった時は、どのように進めるのでしょうか?
鍋田:保険枠での移植があと1回になったときは、患者さんのAMHの値によりますが、当院ではOHSS(卵巣過剰刺激症候群)にならないよう加減しながら、排卵誘発剤の注射を積極的に用いて採卵では採れるだけ採ります。保険枠最後の移植で妊娠すれば良いですが、次に自費で移植する時のために凍結保存します。補助金などを活用して、何個保存しても0円、かかって数万円です。体外受精は採卵して保存するのに一番お金がかかるんです。移植だけだったら薬代などを含めて、当院だと自費で1回15万円程度です。でも、できればそうはなりたくない。保険適用での移植が最後の1回になる前に、とにかく早く妊娠させてあげたいという思いでやっています。
移植時の年齢別の妊娠率。鍋田院長が感じる43歳と45歳の壁
東尾:つばきウイメンズクリニックでは不妊治療の初診の年齢制限はあるのですか?
鍋田:特に年齢制限はないです。50代の方も来られますが、きわめて難しいことはご説明いたします。それでも、ご本人たちに覚悟と強い希望があれば、ぼくたちは持っている技術を惜しみなく使って治療します。ただそれには途方もない時間と労力とお金を使うことになります。見返りを保証されるものではないということは、45歳以上の方には治療に入る前にしっかりと説明します。
東尾:やはり40代に入ると体外受精でも妊娠は厳しいのでしょうか?
鍋田:45歳未満までは、努力でなんとか、うまくいったらいける可能性はありますが、ぼく自身は43歳の壁と45歳の壁を感じています。例えば、当院の「移植時の年齢妊娠数・妊娠率のデータ(2022年)」でいうと、1回妊娠して胎嚢が見えるまでに到達できるのが、40~42歳では約2割です。それが43歳になると10.3%と一気に半分程度になります。44歳では9.8%。数字上では、1回の妊娠のためには10回は移植しないといけないわけです。これが45歳になると妊娠率は数パーセントに落ちます。
東尾:40代になると10個も胚盤胞はできないですよね。
鍋田:難しいですね。でも40、41歳だったら採れる人もいます。もちろん10%といっても必ずしも10回目で当たりがくるわけではないから、最初から妊娠できる人もいるわけです。ただし45歳になると、そんなに簡単にはいかないですね。たまに妊娠する人はいますが、流産することもあります。だから45歳以上の患者さんには、外来で時間をかけて説明をします。それでもご本人たちがやると決めたら、ぼくはやるからには成功したい、常にベストを出したい気持ちでいるので、お任せいただけたらと思います。
採卵時の麻酔方法や目標とする採卵数について
東尾:採卵の時に怖がる患者さんもいらっしゃると思いますが、つばきウイメンズクリニックでは麻酔にも対応してくださるのですね。
鍋田:当院では4点ブロックという局所麻酔があります。もちろん静脈麻酔もあるのですが、完全に眠らせるわけではなく半覚醒ぐらいです。ご本人には記憶はないのですが、静脈麻酔だと採卵時に痛そうにしている方が多いんですよね。 4点ブロックだと、患者さんは痛がらないです。局所麻酔は自費でも保険でもできますし、回復も早いメリットがあります。7~8割くらいは、採卵時に4点ブロックをやっています。静脈麻酔を希望する人は、痛みよりも、怖いという心理的な部分が大きいのかなと思っています。それをカバーするために採卵にかかる時間なども考慮して、静脈麻酔をプラスした両方の麻酔をします。
東尾:採卵でいうと、鍋田先生は今までに最高で何個の卵子を採ったことがありますか?それから患者さんによって差はあると思うのですが、1回の採卵で何個くらいの卵子を採るのか、目指す数はあるのでしょうか?
鍋田:開院した頃に、卵子を50個ちょっと採ったことがあります。胚盤胞が30個できて当時は全部凍結保存していました。その方は、3人産みましたね。今は採卵では15個採るのが目標ですね。採れない方もいらっしゃるのですが、当院の平均では9個ほど。10個は採りたいですね。
ぶれない治療方針で、どのドクターでも安心。全員でひとりの患者を診る体制
東尾:現在、つばきウイメンズクリニックには、先生は何人いらっしゃるのですか?
鍋田:ぼくをいれて5人です。通常は、第1診察室と第2診察室、内診に1人ずついます。第1診察室にいるのは常にぼくです。第2診察の先生は、曜日と午前午後で変わりますが、治療の計画をするのが、ぼくと第2診察室の先生になります。第2診察室で判断に迷う患者さんがいたら、ぼくのところにカルテが回ってきます。
東尾:鍋田先生ではない、他の先生に診ていただいても、治療方針は統一されていているということで良いでしょうか?
鍋田:そうです。基本の治療方針は統一されているので、ぼくじゃなくて、つばきウイメンズクリニック全体として患者さんを診ているイメージになります。カルテを見てこれはすぐに違うと思ったら、ドクターミーティングで共有したり指摘したりしています。担当というよりも、ひとりの患者さんを、いろんな先生がまんべんなく診ているという形です。
不妊治療はタイミング療法ではなく人工授精からスタート
東尾:最初の不妊症の基本検査で異常がなければ、みなさんタイミング療法から始めるのでしょうか?
鍋田:当院ではタイミング療法からではなく、人工授精から開始します。例えば、年末年始とか祝日でクリニックが開いていない、患者さんのいろんな都合で人工授精ができない場合、今回はタイミング療法でというケースもあります。しかし、当院の方針としてはタイミング療法を何回かやってだめだから人工授精に進むということはしません。人工授精でスタートして、4回くらい粘っても妊娠に至らなかった場合に体外受精に進みます。当院では開業以来、人工授精で600人くらいの方が妊娠しています。
東尾:人工授精から開始して体外受精にステップアップするんですね。ちなみに体外受精の時の通院数はどのくらいですか?保険診療も自費も同じですか?
鍋田:保険診療も自費も通院数はほぼ変わらないですね。3回の通院で採卵できるように心掛けています。ただ排卵誘発剤の自己注射でいうと、保険診療はペン型なので2本でも3本でも持って帰れるのですが、自費診療だとペン型は高額になります。 ペン型のものでないと、そんなにたくさん持って帰るわけにはいかず、その分、自費だと通院が多くなることがあります。一方で、保険診療の場合は、グレードの良い胚しか保存しないので、1回目の採卵で受精卵を凍結できなかった場合、2回、3回と採卵することもあるので、そこで通院回数が増えることもあります。ただ、みなさんお仕事を調整して、中には有休を取って通院する方もいらっしゃるので、追加の通院はできるだけ減らすようにやっています。
「妊娠する」という患者さん自身の強い意思とやる気が大事
東尾:ここまでお話を聞いていると、鍋田先生はノンストップで働いている印象ですね。
鍋田:実は、ぼくの休日はないんですよ。年に1回とか夏休みに家族と合わせてお休みを取りますけれど、当院は分娩もやっているので、基本的にぼくはずっと院内にいます。開業した当初は頑張らないといけないと思って、休まずにやってきたのですが、9年目に入った今でもこのスタイルのままです。
東尾:先生の熱意が伝わってきますね。最後につばきウイメンズクリニックで不妊治療を考えている方にメッセージをいただけたらと思います。
鍋田:ぼくがすべての患者さんに言うのは、とにかく妊娠するんだというご自身の強い意志がないと妊娠しませんよ、ということです。進学塾だと思って、とにかく勉強してくださいと。ぼくたちは、妊娠する仕方を教える、こうやればうまくいくという提案もする。 治療自体においては、ぼくたちは専門家として良いと思ったことをすべてお伝えします。なるべく希望は伺いますが、ここはぼくたちの領分なので、ぜひ任せて欲しいところです。だけど患者さんのやる気がなければ妊娠できません。
最後にやるのは、あなたです。
編集後記
鍋田先生に初めてお会いしたのは、愛媛で開催された研究会でのことでした。多くの先生方が集まる研究会の主催をされており、その際に、鍋田先生は、誰にでも腰が低く丁寧に接する先生だという印象を持ちました。もちろん、私たちにもとっても親切に接してくださり、慣れない愛媛での研究会参加も不安なく過ごせました。その後も、様々な場所でお会いする機会がありましたが、鍋田先生のご人望には、他の人には真似できない特別な魅力があり、一目を置くようになりました。失礼ながら、その私の見立てが確信に変わったのは、つばきウイメンズクリニックに取材に伺った時でした。先生のお話から、医療は当たり前であり、それ以上にホスピタリティを追求されていることが感じられ、スタッフの皆さんも温かく迎えてくださり、チーム全体で患者様を支えている姿に感銘を受けました。先生の人柄とご人望はまさにここにありました。休みなく走り続ける先生に少し心配しつつ・・・その内なるエネルギーを患者様に還元してくださっていることに感謝しております。(取材担当:森)
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本日お話をおうかがいした方
つばきウイメンズクリニック
理事長・院長
鍋田基生(なべた もとお)
2015年10月開院。一般産婦人科診療だけでなく、不妊治療、無痛分娩、ウイメンズヘルスケアを中心とした診療を行っている。
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