かかりつけ医としての産婦人科を目指す|つばきウイメンズクリニック【前編】
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妊活お役立ち情報
2024.07.05
不妊治療
かかりつけ医としての産婦人科を目指す|つばきウイメンズクリニック【前編】
不妊治療を経験した東尾理子が、妊活に役立つアイテムや医療施設などの取り組みについて、関係者にさまざまな角度から質問を投げかけ深掘りしていく連載です。
今回は、愛媛県松山市にある「つばきウイメンズクリニック」の鍋田基生院長との対談を前後編の2回でお届けします。
前編は、クリニックの理念や管理胚培養士の資格も持つ院長の培養への想い、胚グレード別の妊娠率などについて伺いました。
初潮から更年期まで。女性のライフステージに寄り添う医療が充実
東尾:つばきウイメンズクリニックは、玄関から入ると右は産婦人科、左は不妊治療専門に分かれているのですね。敷地がとても広くて驚きました。地域に根ざした医療を提供しているとお聞きしましたが、特長を教えてください。
鍋田基生院長(以下、鍋田):当院の理念でいうと、地域に根ざした専門性の高い「かかりつけの産婦人科」クリニックを目指しています。ぼく自身、かかりつけ産婦人科医になりたかったんです。かかりつけ医というと、子どもの頃から通っている歯医者さんとか、内科、耳鼻科、整形外科もあると思うのですが、産婦人科ってないですよね。 初診の20代後半~30代の患者さんに「今までかかったことがある産婦人科はありますか?」と聞くと、「初めてです」といった答えが多いんです。「高校生の時や大学生の時はどうしたの?行ってなかったの?」と思うんですよ。
東尾:確かに。日本ではあまり行かないですね。私は、大学がアメリカだったので、かかりつけの産婦人科ドクターがいるのは当たり前の環境でしたが、帰国後は妊活までパタッと行かなくなってしまいました。日本でも若い頃から通える、かかりつけの産婦人科クリニックは必要ですよね。
小学生の性教育から、アスリート外来、更年期障害まで幅広く対応
鍋田:かかりつけなので、当院では思春期医療もあるんです。またアスリート外来もあって学校で部活をやっている女子に、月経調整などをしています。小学校には女性の医師が性教育に伺うこともあります。不妊治療も分娩もやっていますから、当院で顕微授精した子が当院の産科で産まれるんです。それから更年期の外来もあります。更年期障害、骨粗しょう症、頻尿や尿漏れなども対応しています。
家族で長く通っていただけるクリニックを目指しています。
東尾:それは心強い。初潮、思春期、妊活や出産期、更年期と女性のライフステージに合わせた医療サポートが充実しているんですね。
きちんとした医療を提供するのは当たり前。「心地よい診療」を。
東尾:しかもクリニックの雰囲気がモダンな感じですよね。温かみがあって、病院じゃないみたいで、すごく落ち着きます。
鍋田:当院の理念では、上質なホスピタリティによる「心地よい診療」も目指しています。患者さんには落ち着く空間で受診していただきたいと思っています。このクリニックを作る際にデザイナーさんに、その部分は強くお願いしました。とにかく落ち着く空間にして欲しいと。建物の周囲に木も植えたりしてね。当院の1階は外来で、2階は病室ですが、病室のすべての窓から木が見えるように、ぼくが病室の窓から見て確認しながら植えてもらったんですよ。
東尾:病室の窓から緑が見えると心が和みますよね。落ち着いた空間は鍋田先生のこだわりなんですね。
鍋田:ハード面だけではなく、職員のサービスや対応も徹底しています。例えば患者さんが廊下を歩いていたら、会釈だけではなく、ちゃんと口に出して「こんにちは」など声がけをするようにしています。そこは、ぼく自身、職員に対してけっこう口うるさく言っているところですね。
東尾:確かに病院に行った時に、看護師さんや先生方がひと声かけてくださるだけで、全然違います。安心しますよね。
鍋田:単にきちっとした医療を提供するだけでは、だめなんです。それは当たり前のことです。その上で気遣いとか配慮とかができる、患者さんにとって心地よい診療を提供することが大切だと思っています。地域に根ざした専門性の高い「かかりつけの産婦人科」クリニックとして、上質なホスピタリティによる「心地よい診療」を提供することは、ぼくが開院する時に決めたコンセプトです。
これからも職員一同、患者さんに寄り添った医療を提供していきたいと思っています。
院長は管理胚培養士。培養室長は院長が育てた胚培養士
東尾:つばきウイメンズクリニックでの不妊治療についてお話を進めていきたいのですが、その前に鍋田先生は、日本には34人しかいない管理胚培養士の資格を持っていらっしゃるそうですね。
鍋田:そうです。ぼくは「半医、半培養」をしていたんですよ。元々大学病院でずっとやっていたんですが、ぼくが勤めていた大学病院には、胚培養士がいなかったんです。最初は外来も、精子調整も、採卵も、体外受精も、媒精も顕微も、胚凍結も、全部自分でやっていたんですよ。昔は全部やる先生が多かったと思います。今は分業ですけどね。当院の培養室長は、私が初めて育てた胚培養士です。
東尾:鍋田先生が胚培養士の方を育てたのですか?
鍋田:大学病院に勤めていた時に、全部自分でやっていくのはもう無理だとなって、当時の上司にかけ合ったんです。新卒の技師の方を採用してくださいと。大学を卒業してすぐの人を雇ってくれました。愛媛県には胚培養士を募集しても、そんなたくさんの胚培養士はいませんし、誰も来てくれなかったですから。
東尾:自分で胚培養士を育てるしかなかったんですね。
鍋田:そうです。自分が培養をやりながら、ちょっとずつ教えていきましたね。彼女はとても優秀で1年かからずにひと通りでできるようになりました。ぼくが大学病院で全部やっていた時は、年間100~200件の採卵で一杯いっぱいでした。今は、年間1000件くらい、去年が1100件の採卵です。
体外受精では、培養が一番大事だと思っています。
説明会でも患者さんにも言っていますけれど、7割が培養の力です。
東尾:培養の力とは、具体的にはどのようなものなのでしょうか?
鍋田:胚培養士の技術はもちろん、培養室の環境ですね。どんなに立派な培養室を作っても、ちゃんとメンテナンスできなかったら厳しいです。例えばホコリがあったり、整理整頓ができていなかったりなど。今は受精卵を取り出す必要がないタイムラプスインキュベーターを使っていますが、培養室は整理整頓が鉄則で、掃除するまでが培養です。当院では培養室の管理は徹底しています。
胚グレードごとの臨床妊娠率。年齢によっても変わる?
東尾:その培養の力で育てられた胚盤胞ですが、グレードで妊娠率も変わってきますよね。
内細胞塊(ICM)と栄養外胚葉(TE)の細胞数や状態から各A~Cで評価されるのが一般的ですが、胚グレードが最も高いAAと最も低いCCでは、やはり妊娠率は大きく変わってくるのでしょうか?
鍋田:当院の「胚グレード毎の臨床妊娠率」のデータによると、胚グレードがCCで19.0%、2割は妊娠しています。ACでも25.7%。BCで30.5%、CBで35.0%です。これがBBになると42.9%と4割は超えてきて、さらにBAなら55.3%、AAなら55.4%と妊娠率は5割を超えます。
東尾:年齢での違いはありますか?
鍋田:こちらは、すべての年代でのデータなのですが、うちの患者さんの平均年齢が39歳ちょっとですので、それぐらいを目安に考えてもらったら良いと思います。それから通常は5日目の胚盤胞を移植したり凍結保存したりしますが、6~7日目のものも凍結保存することがあります。以前、7日目の胚グレードCCを妊娠させたことがあります。元気な子が産まれて学会発表しました。
自費診療の胚の凍結は、可能な限りすべて凍結を
東尾:それはすごいですね。つばきウイメンズクリニックでは、何個くらいの胚を凍結保存するものなのでしょうか?まず自費診療の場合はどうですか?
鍋田:自費診療の場合は、可能な限りすべて凍結保存します。胚グレードがCCでも、です。例えば、10個くらい卵子が採れたら、3日目までは比較的快調に育つんですよ。初期胚ですね。当院ではこの3日目の初期胚で一番良い1個を、凍結保存します。全滅っていやじゃないですか。自費だと、採卵から保存するのに50万円くらいはかかってしまうんですよ。胚が1個もないなんて、あり得ないでしょう。移植しない限り妊娠はしないんです。明らかに難しいものは無理ですが、妊娠の可能性があるものであれば、初期胚で一番良いものを必ず1個だけ保存します。
東尾:初期胚を1個凍結保存した後はどのように進めていくのですか?
鍋田:残りはすべて胚盤胞です。初期胚の妊娠率は、15~20%が限界なので効率が悪いんです。なので、先に1個だけ凍結保存した初期胚は万が一、胚盤胞に1個もならなかった時の保険としてとっておきます。採ったからには、移植しないことには妊娠できないですよね。ぼくも、患者さんも満足しないですよ。お互い辛いですからね。
愛媛県では不妊治療の患者さん負担額がほぼ無料の地域も
東尾:続いて保険診療での体外受精についてお伺いします。43歳まででしたら保険診療が適用されることになりましたが、自費診療と違う点はありますか?鍋田先生はどのように感じられていますか?
鍋田:やはり一番違うと感じるのは、患者さんにかかる費用ですよね。地域によってはほとんど払う必要がないんですよ。例えば、現状の愛媛県でいえば、松山市も充実しているのですが、今治市や八幡浜市などは自己負担額の3割を行政が助成します。先進医療だと上限の金額はありますが、患者さんはほぼ無料で治療を受けられるということです。
東尾:ほぼ無料で不妊治療が受けられる地域があるとは。それは助かりますね。
鍋田:さらに患者さん自身が医療保険に入っていている場合、先進医療の給付も受けられることがあるので、無料どころか人によってはプラスになる可能性もあります。保険診療が適用されることで、患者さんが負担する費用が抑えられるようになった点は、私自身も良かったと感じています。 ただし、保険診療には移植の回数制限があり、卵子凍結や貯卵もできない、凍結保存した胚はすべて移植しないといけないといった枠があります。治療する側としては保険適用の枠内で何とかする必要があります。
東尾:先ほどお聞きした自費での進め方とは異なる点があるのでしょうか?
保険診療の場合はどのような治療の進め方になるのかは、後編で伺っていきたいと思います。
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本日お話をおうかがいした方
つばきウイメンズクリニック
理事長・院長
鍋田基生(なべた もとお)
2015年10月開院。一般産婦人科診療だけでなく、不妊治療、無痛分娩、ウイメンズヘルスケアを中心とした診療を行っている。
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