【薬剤師解説】柴胡加竜骨牡蛎湯の男性不妊への適用と注意点
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妊活お役立ち情報
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妊活を進めるなかで、「パートナーである男性側にできることはないだろうか」と考える方は少なくありません。
特に、日々の生活でストレスを感じることが多く、「もしかして、それが不妊の原因になっているのかもしれない…」と、どうすれば良いか分からずにお悩みではありませんか?
今回は、ストレスが関わる男性不妊に用いられることがある漢方薬、「柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」について、詳しく見ていきましょう。
柴胡加竜骨牡蛎湯とは、どんな漢方薬?

柴胡加竜骨牡蛎湯は、心と体のバランスを整えることを得意とする漢方薬です。
漢方では、精神的なストレスや緊張が続くと、エネルギーの巡り(「気」の流れ)が滞り、心だけでなく身体にも不調が現れると考えられています。この処方は、そうした滞りを解消し、高ぶった神経を鎮めることで、心身を穏やかな状態へと導いていきます。
含まれている「竜骨」や「牡蛎」といった生薬には、精神を安定させる働きがあるといわれています。
なぜ「ストレスによる男性不妊」に用いられるの?

病院で検査をしても、はっきりとした身体的な異常が見つからない。それにもかかわらず、精子の状態が思わしくなかったり、性機能の低下が見られたりすることがあります。
このような場合、背景に「ストレス」が隠れている可能性が考えられます。
過度なストレスは、自律神経やホルモン分泌のバランスを乱す一因となり、結果として精子が作られる過程や、性機能に影響を及ぼすことがあるのです。
柴胡加竜骨牡蛎湯は、この精神的なストレスにアプローチすることで、心と体の緊張を和らげ、男性の生殖機能が本来の働きを取り戻すのをサポートする目的で用いられます。
どんな人に向いている?漢方的な視点から

では、具体的にどのような方にこの漢方薬は向いているのでしょうか。漢方の考え方も交えながら、少し詳しく見ていきましょう。もし、パートナーやご自身に当てはまる項目があれば、参考にしてみてください。
イライラや気の滞りを感じる(肝気鬱結:かんきうっけつ)
漢方では、ストレスによって気の巡りが悪くなり、イライラしやすくなる状態を「肝気鬱結」と呼びます。思い通りにいかないことへの焦りや怒りが、精神的な不調として現れている状態です。
心と生殖機能の乱れ(心腎不交:しんじんふこう)
精神的な不安や緊張が、生殖機能(漢方では「腎」が深く関わります)に悪影響を及ぼしている状態です。頭では分かっていても、心の乱れが身体、特に性機能の低下に直結してしまっていると考えます。
【より具体的に】男性不妊における適用ケース

もう少し具体的に、どのような状態に応用されるのかを見ていきましょう。
- 自律神経の乱れからくる性機能障害
ストレスが原因で自律神経が乱れ、それが直接的に性機能障害につながっているケースです。この場合、めまいや動悸だけでなく、しつこい頭痛や、眠りが浅いといった睡眠障害も伴うことが多くなります。 - ストレスによるホルモンバランスの乱れ
ストレスは、脳からの指令でコントロールされているホルモンの分泌バランスにも影響を与えます。柴胡加竜骨牡蛎湯は、こうしたホルモンバランスの乱れを整える助けとなる場合にも用いられます。 - 心因性の性機能障害
そして、これまでも触れてきたように、特に心因性(精神的なものが原因)のインポテンツ(ED)や射精障害に対して、適用となることが多くなります。
有効性に関する研究報告は?
では、実際にどのくらいの効果が期待できるのでしょうか。動画の中では、いくつかの研究報告も紹介されています。
富山大学での研究報告
38名の男性を対象とした研究で、柴胡加竜骨牡蛎湯を服用した結果、精液所見(精子の数や運動率など)に有意な改善が見られたと報告されています。
酸化ストレスの減少報告
また、別の臨床報告では、この漢方薬の服用によって、精子にダメージを与えるとされる「酸化ストレス」が減少し、精子の濃度や運動率が改善したという結果も出ています。
ただし、知っておきたい点として、これらはあくまで限定的な報告であり、現時点では「誰にでも同じ効果がある」と断言できるような、質の高い大規模な研究(RCTなど)の結果はまだ少ないのが現状です。
体質に合えば改善が期待できる、という一つの可能性として捉えるのが良いでしょう。
注意が必要なケースは?

一方で、この処方が適さない場合もあり、特に注意が必要です。柴胡加竜骨牡蛎湯は、比較的体力のある「実証(じっしょう)」タイプ向けの処方のため、エネルギーが不足している「虚証(きょしょう)」と呼ばれる体質の方には、基本的には用いません。
もし体質に合わない方が服用すると、胃腸の調子を崩したり、かえって倦怠感や脱力感が現れてしまったりすることがあります。もう少し詳しく、注意が必要な体質を見ていきましょう。
消化器系が弱い、または根本的なエネルギーが不足している方(脾虚・腎陽虚)
漢方でいう「脾」(消化機能)が弱っていたり、「腎陽」(体を温めるエネルギー)が不足していたりする方が用いると、その状態を悪化させてしまう可能性があります。
不安感がイライラよりも強い方(心血虚など)
この漢方薬は、高ぶった神経を鎮めるのが得意ですが、不安や不眠の原因が「エネルギーや栄養の不足(漢方でいう血虚・陰虚)」にある場合、逆効果になることがあります。
特に、イライラよりもくよくよするような不安感が強い場合は、かえって症状を強めてしまう可能性があるため、注意が必要です。
虚証タイプの方の動悸・めまい
本来は動悸やめまいを鎮める処方ですが、体力が著しく落ちている「虚証」の方が服用すると、逆に症状が強く出てしまうことも報告されています。
まとめ:大切なのは、専門家へ相談すること

柴胡加竜骨牡蛎湯は、ストレスによる男性不妊の悩みに対して、有効な選択肢の一つとなる可能性があります。
しかし、最も重要なのは「自分の体質に合っているか」という点です。もし試してみたいと感じた場合は、自己判断で購入するのではなく、まずは漢方に詳しい医師や薬剤師に相談することをおすすめします。
安心して妊活を進めていくためにも、ぜひ専門家の力を頼ってみてください。
この記事の動画はこちらから
本日お話をおうかがいした方
ウィメンズ漢方 薬剤師/国際中医専門員
住吉忍
相談薬局で生まれ育ち、薬剤師となる。自身も不妊治療を経験し、妊活、女性のヘルスケアを専門に対応するため、ウィメンズ漢方(https://ninkatsu-ayumi.com/facility/1330/)創業。複数の不妊治療専門クリニックの漢方外来を担当し、西洋医学の不妊治療に適した漢方処方の提案を得意としています。

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