あなたの冷えは、どのタイプ?2つの症例のご紹介
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妊活お役立ち情報
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妊活中に、体質を改善するために漢方を活用したいと考える人もいるでしょう。特に多くの人が気になるのが「冷え」。しかし冷えといっても、個々の体質や状況によって原因が異なり、自身に合わない漢方を用いることで逆効果になることもあるようです。妊活や女性のヘルスケアの漢方処方を専門とする薬剤師で国際中医専門員の住吉忍さんが、症例とともに解説します。
「冷え」といっても人によって違いがある
漢方医学では、「冷え」といっても人それぞれ違いがあり、対応も異なります。つまりインターネットで「冷えに良い」と書かれている漢方薬が、必ずしも自身に合うとは限りません。
今回は、妊活中に同じ「冷え」に悩む方でも、状況や原因によって選択する漢方が違うという点を知っていただくために、2つの症例を紹介したいと思います。漢方処方の現場では、どのような点を考慮して選択しているのか、少しでも参考になれば幸いです。
症例1:手足の冷えに悩む妊活中の32歳女性
症例1は、手足の冷えに悩む妊活中の32歳女性です。身長は162cm、体重は43㎏のやせ型。既往歴はありませんが、健康診断で「慢性胃炎」の指摘を受けました。詳しい情報は次の通りです。
〇32歳女性、保育士
【主訴】妊活中、手足の冷え
【月経】月経周期は28日、月経痛は軽いが、鎮痛剤で対応
【背景】
・保育士として働き、忙しい業務に追われ、慢性的な疲労感を抱えている
・保育園での冬場の活動では、特に手足の冷えを強く感じる
・月経は順調だが、PMSが強く、月経前に落ち込むことが多い
・食事は不規則で、冷たい飲み物や甘い物を好む傾向がある
・休日は家で休んでいることが多く、運動習慣はない
・採卵数は4~5個。受精はするが胚盤胞に至らない
【舌診】膨張なし、淡色、白苔
漢方の専門家が着目した点:慢性疲労・手足の冷え・PMS
着目したのは、慢性的な疲労感を抱えて、手足が冷え、PMSが強く落ち込むことが多いという点です。フルタイムで働き、シフトもあるため、帰宅が遅くなるときは簡単なもので済ませるなど食事が不規則になりやすい点も気になりました。慢性的な胃炎を考慮すると、栄養を摂取・吸収しにくい状態にあると見立てます。
また、冷えが気になるので温かい物を好まれるかと思いましたが、冷たい飲み物や甘い物が好きということ。平熱について伺うと、36.6度で低いわけではありません。ただしBBT(基礎体温)のがたつきが多いとのことでした。年齢的に採卵では卵も数が採れていますし、体調を整えれば胚盤胞に至ることも十分考えられます。
妊活時の漢方の基本として知っておいていただきたいのは、妊娠するための漢方というよりも、体調の状態を上げて治療への反応を上げていくことを目指すものということです。
「気血両虚」「肝気鬱血」の弁証・処方
漢方でいうところの「体質」タイプとして、症例1の方の場合は、「気血両虚」で「肝気鬱血」と見立てました。主な原因として、エネルギーの「気」、血液や栄養の「血」が不足し、「肝」が鬱滞していることが考えられます。仕事などの不規則な生活やストレスが、肝気の鬱滞を招き、胃腸への負担にもなり、悪循環を起こしている状態にあるのです。
そこで、冷えを軽減するために「半夏厚朴湯」の漢方を処方し、食事指導を行いました。肝気の鬱滞を解消しつつ、ストレスによる精神的な不調にも対応するものです。ストレス自体をなくすことはできませんが、体に不調が出てしまうことを防ぐ処方です。
2か月後の経過として、手足の冷えが軽減し、PMSも緩和しました。ストレスによって緊張感が高い状態だったのですが、それも改善。以前よりも食欲が出るようになったといいます。目に見えての変化としては、基礎体温がはっきりして、低温期と高温期がわかるようになった点です。
基礎体温が整ったからすぐに妊娠につながるとは限りませんが、体調の目安になり、妊活が進めやすくなったそうです。
症例2:胃の冷えや食後の腹痛に悩む妊活中の35歳女性
続いて症例2は、慢性的な胃の冷え、さらに食後の腹痛や下痢に悩む妊活中の35歳女性です。胃だけでなく、手足も冷たい冷え性でした。詳しい情報は次の通りです。
〇35歳女性、事務職(デスクワーク)
【主訴】妊活中、胃の冷え、食後の腹痛、下痢
【月経】月経不順。月経周期が長く、不正出血あり
【背景】
・半年前から慢性的な胃の冷えと不快感が気になる
・特に冷たい飲食物を摂取した後に症状が悪化
・最近では温かい食事を摂った場合も食後1~2時間以内に腹痛が生じ、下痢を伴うことが多い
・疲労が溜まると、さらに症状が悪化し、夜間も腹痛で眠れないことがある
・冷えると腹痛だけでなく、頭痛も出やすい
・口の渇きはあまりなく、温かい飲み物を好む
【舌診】
淡白で湿潤、白苔が多い
漢方の専門家が着目した点:慢性的な胃の冷え
着目したのは、慢性的な胃の冷え。特に冷たい飲食物を摂取した後に症状が悪化する点です。また下痢を伴い、疲労が溜まるとさらに症状が悪化。夜間も腹痛で眠れない、また冷えると腹痛以外に頭痛も出やすいという点です。
月経不順で周期が長く、不正出血がある点も気になりました。BBTは、低温期が36.0度前後、高温期が36.6前後。体温は低めです。また、半年前からの不調ということで何かあったのかを伺うと、仕事が忙しくなり始めたとのことでした。
「陽虚」で「寒湿停滞」の弁証・処方
着目したのは、慢性的な胃の冷え。特に冷たい飲食物を摂取した後体質タイプは、「陽虚」で「寒湿停滞」と判断しました。冷え性、手足の冷たさ、淡白な色の舌などから、体を温める力(陽気)が不足。また白苔や湿潤な舌、下痢、腹痛といった症状から、水分代謝の滞りから冷えとなり、この冷えによって、消化機能が低下している状態にあるのです。
前述の症例1の方の場合は、ストレスが原因の冷えなので、それを解消するアプローチでしたが、症例2の方の場合は、熱を生み出すアプローチが必要になります。余分な冷えを取り除き、血流を促進し、胃腸の機能低下を改善し、痛みを抑えていくものです。
そこで、陽気を補い、寒邪を散らし、痛みを和らげるための処方として「当帰四逆加呉茱萸生姜湯」を処方しました。冷えによる血流障害や末梢循環不良を改善し、特に胃腸の冷えからくる症状に適応します。
2週間後の経過として、食後の腹痛と下痢が軽減。冷たい飲み物を避けるよう指導した結果、胃の不快感も少し改善しました。1か月後になると、下痢がほとんどなくなり、食後の腹痛も大幅に改善。季節も温かくなってきたこともあり、冷え性が和らぎ、手足が少し暖かくなりました。
2か月後、自覚症状はほぼ消失し、月経不順も改善傾向が見られました。食事内容の見直しと引き続き冷え対策を行うよう指導。すると、5か月後、人工授精で妊娠に至りました。基礎体温に関しては、以前は35度台になることもあったが、それもなくなっていたそうです。
同じ冷えでも人によって漢方の処方は異なる
以上、2つの症例を紹介しました。冷えといっても原因はさまざまで、個々の状態によって、漢方の処方や改善するためのアプローチが異なります。
ここに挙げた2つの漢方も、それぞれの方の状態に合わせたものなので、すべての人に適応するものではありません。そのことをぜひ知っておいていただきたいと思います。
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本日お話をおうかがいした方
ウィメンズ漢方 薬剤師/国際中医専門員
住吉 忍
相談薬局で生まれ育ち、薬剤師となる。自身も不妊治療を経験し、妊活、女性のヘルスケアを専門に対応するため、ウィメンズ漢方(https://ninkatsu-ayumi.com/facility/1330/)創業。複数の不妊治療専門クリニックの漢方外来を担当し、西洋医学の不妊治療に適した漢方処方の提案を得意としています。
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