「冷える陽虚」「だるい腎虚」体質に。~八味地黄丸と妊活~

ARTICLE

2025.03.26

東洋医学

「冷える陽虚」「だるい腎虚」体質に。~八味地黄丸と妊活~

 妊活中に、体質を改善するために漢方を活用したいと考える人もいるでしょう。しかし、自分の体質に合っていない漢方を用いると、逆効果になることもあるようです。そこで「妊活に良い」と聞く「八味地黄丸(はちみじおうがん)」について、薬剤師で国際中医専門員の住吉忍さんが解説します。どんな体質タイプの人に向き、どのような効果が期待される漢方なのでしょうか?

 

妊活に良い漢方=自分に良い漢方とは限らない


まず前提として、漢方は、一人ひとりの「体質」に合わせて処方されるものです。体質は、人それぞれ異なるため、同じ薬でも効果の出方が異なります。つまり、一般的に「妊活に良い漢方」と言われているものが、必ずしもご自身の体質に合った漢方だとは言えないのです。体質に合っていなければ、残念ながら効果は期待できません。

 

体質については、中医学では、身体を作る基本的な要素「気」「血」「水」と、身体を活動させる臓腑「五臓六腑」の状態から判断します。例えば、エネルギーの気が滞っている「気滞(きたい)」、血が不足している「血虚(けっきょ)」、水分が巡らず滞っている「水滞(すいたい)」などです。

 

妊活で漢方を活用したい場合は、ご自身の体質を正しく見極め、体質に合った漢方を選ぶことが重要です。

 

 

妊活中に使える漢方『八味地黄丸』とは?

 

八味地黄丸とは、「陽虚(ようきょ)」や「腎虚(じんきょ)」の体質の方に処方される漢方です。中医学では、陽虚とは熱を生み出すエネルギーが不足している状態、腎虚とは生殖能力を司る腎の働きが落ちている状態をいいます。

 

生薬は、地黄(じおう)、山茱萸(さんしゅゆ)、山薬(さんやく)、沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)、牡丹皮(ぼたんぴ)、桂皮(けいひ)、附子(ぶし)を使用。腎の働きを高める補腎陽作用、体を温めて冷えを和らげる温補作用が期待されています。

 

 

妊活では、年齢が高めで冷えの症状を持っている方などに用いられる漢方です。また年齢に伴う腎の働きの変化をできるだけ抑えていくことを目的に使われます。

 

八味地黄丸が妊活に効果的な体質タイプ:陽虚と腎虚の特徴

 

八味地黄丸が適している体質は、「陽虚」と「腎虚」タイプです。具体的にそれぞれの体質の特徴を見ていきましょう。

陽虚の特徴

・手足が冷えやすく、寒さに弱い

・顔色が青白く、活力がない

・下半身が冷えやすい

・疲れやすく、倦怠感が強い

・動くとすぐに息切れしやすい

・尿が近く、量が多い(頻尿、夜間頻尿)

・むくみやすい

・胃腸が弱く、冷たい飲食物で下痢しやすい

 

腎虚の特徴

・加齢や疲労による身体機能の低下

・腰や膝に力が入らない、痛みやだるさがある

・耳鳴りや難聴、めまいがある

・尿量が減少し、残尿感がある

・夜間の頻尿が気になる

・性機能の低下(性欲減退、勃起不全など)

・胃が弱く、骨折しやすい

・物忘れがひどい、集中力の低下

 

これらの特徴をすべて持っているからといって、必ずしも該当するとは限りません。他の体質である可能性もありますので、専門家に相談して確認することが大切です。

 

また八味地黄丸は、極端に胃腸が弱い方の服用には注意が必要といわれます。生薬の地黄が、胃腸に負担がかかる成分であることが理由ですが、最近の地黄は胃腸への負担が減っているとされています。なんとなく胃がもたれるなと感じる場合は、食前の服用を食後に変えてみるなど工夫してみてください。

 

妊活中に八味地黄丸が合わない場合のリスクとは?


体質が陽虚や腎虚ではない場合、八味地黄丸は逆効果
になります。つまり、冷え症や腎の働きが落ちているタイプでないと、服用でマイナスに働き、体調を崩してしまうことがあります。

 

例えば、熱がこもっている「血熱」、乾きがある「陰虚」タイプの方が服用すると、のぼせや乾燥感、胃腸不調が現れることもあります。ご自身の体調に合った漢方を選ぶのが重要です。

妊活をサポートする漢方は、専門家に相談を


一度は漢方を取り入れようかなと思ったら、専門家による漢方相談を利用しましょう。自己判断ではなく、専門家に相談して、ご自身の体質タイプを考慮したうえで適切な漢方を選ぶことが推奨されます。

 

そして漢方の専門家のなかにも、それぞれ専門分野があるので、ご自身の状態にあった専門家を選びましょう。妊活中の方であれば、多くの場合は西洋医学の治療を受けながら漢方を併用するケースになると思います。


妊活や不妊治療などの分野を専門としている方を選ぶほうが、西洋医学の知識もあり、適切なアドバイスまたは治療を受けることができます。

 

治療内容をはじめ、FSH(卵胞刺激ホルモン)やAMH(アンチミューラリアンホルモン)などの値、検査で気になった項目があればその状況なども説明できるようにしておくと、ご自身の体質タイプに合った漢方を選びやすくなるでしょう。

 

SNS上には、不確かな情報も多く、八味地黄丸についても適切ではない発信を見かけることがあります。「これが妊活に良い」と書いてあっても、「良い人もいるけれど、すべての人に適しているのではない」と冷静にとらえていただきたいです。

 

情報に振り回されないように、専門家の相談なども活用し、正しい知識を持って妊活を進めていきましょう。

この記事の動画はこちらから

本日お話をおうかがいした方

ウィメンズ漢方 薬剤師/国際中医専門員

住吉 忍

相談薬局で生まれ育ち、薬剤師となる。自身も不妊治療を経験し、妊活、女性のヘルスケアを専門に対応するため、ウィメンズ漢方(https://ninkatsu-ayumi.com/facility/1330/)創業。複数の不妊治療専門クリニックの漢方外来を担当し、西洋医学の不妊治療に適した漢方処方の提案を得意としています。

RELATED ARTICLEおすすめ関連記事

テーマ:

RANKING⼈気記事

KEYWORDキーワード検索

ALL TAGSタグ一覧人気のタグ

CATEGORY

会員限定記事

会員限定の記事です。
ログインしてからご覧ください。会員登録は無料です。