ブライダルチェックの血液検査とは?AMH(卵巣年齢)やホルモン、感染症など分かる項目を解説

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2025.06.27

基礎知識

ブライダルチェック③血液の検査(採血)とは?AMHって何?

「ブライダルチェック」について、どのような検査を行うのかご存じですか?実際の検査項目は?どんなものを使って何を検査するの?検査をして何がわかるの?など、ブライダルチェックを検討している方必見の情報を、元胚培養士の塚田寛人さんがお届けします。

今回は、血液の検査(採血)について取り上げていきたいと思います。前回も触れましたが、採血することでわかる項目は多岐にわたります。

血液検査は、体の内側の状態を知るための大切な手がかりになります。妊娠や出産に向けた準備として、自分の健康状態を把握する第一歩です。検査で確認できる主な項目は以下の通りです。


  1. 1,血液型(ABO型・Rh型)
  2. 2,凝固検査
  3. 3,赤血球や白血球、血小板の検査(末梢血液一般検査)
  4. 4,貧血、糖や蛋白、肝機能、腎機能など
  5. 5,ビタミンD
  6. 6,基礎ホルモン(E2、FSH、LH、PRL、P4)
  7. 7,甲状腺機能(TSH、fT3、fT4)
  8. 8,AMH(抗ミュラー管ホルモン)
  9. 9.性感染症(B型肝炎HBs抗原、C型肝炎HCV抗体、梅毒、HIV)
  10. 10,風疹抗体

などです。 これらの検査項目は、妊娠に影響する可能性のある体の状態を把握し、早めに対処するために重要です。それぞれがどのような意味を持ち、なぜブライダルチェックに含まれているのか、詳しく見ていきましょう。

1,血液型

ご自身の血液型をご存じの方が多いと思いますが、実は知らない方も少なくありません。

ブライダルチェックでは、ABO型とRh型の血液型の確認をすることができます。赤ちゃんの血液型が母親と異なることはよくあります。

多くの場合、お母さんと血液型の異なる赤ちゃんを妊娠しても、問題なく妊娠・出産するケースがほとんどですが、まれに、お母さん側でお子さんの赤血球に対する抗体が作られてしまうことがあり、お子さんの赤血球を攻撃してしまう「母児血液型不適合妊娠」という状態になることがあります。

この状態になると、赤ちゃんに溶血性黄疸という症状が現れ、重症化することもあります。

血液型が事前に分かっていれば、治療や予防的な対応をとることができますので、ご自身の血液型をあらかじめ把握しておくことが大切です。

2,凝固検査

凝固検査とは、出血を止める力(血液凝固能)を調べる検査です。

血液凝固能に異常があると、妊娠・分娩の時に大量に出血するリスクが高まります事前に把握しておくことで、自然分娩ではなく帝王切開を選択するなどの適切な対応が可能になります。

3,赤血球や白血球、血小板の検査(末梢血液一般検査)

末梢血液とは、赤血球・白血球・血小板のことです。これらの数値を調べることで、貧血や血液疾患の発見に繋がります。貧血がひどいと、胎児の成長が妨げられたり、妊娠中の方の健康を損ねることにもなりますので、把握しておくと安心です。

4,貧血、糖や蛋白、肝機能、腎機能など

健康状態を見る検査項目です。貧血は、前の項目でお話ししたように、母体や胎児に影響することがあります。

糖は、空腹時の血糖値を測ることで糖尿病の有無やリスクを知ることができます。糖尿病は、不妊症や生理不順の原因の一つでもあり、糖尿病に気づかずに妊娠すると、先天性の胎児奇形や流産の可能性が高まることが知られています。

また、蛋白質量を調べることで、肝機能障害の有無やリスクを評価することができます。肝機能に障害があると、胎児に影響を及ぼしたり、症状が増悪することもあります。肝臓は自覚症状が出にくい臓器として知られていますので、検査をしてはっきりさせることは大切です。

更に、腎障害や腎疾患の有無やリスクを調べることができます。これらは妊娠に影響するため、注意が必要です。健康や将来の妊娠のためにさまざまなサプリメントを飲んでいる方がいらっしゃるかもしれません。サプリメントの服用は、多少なりとも肝臓や腎臓に負担がかかるものなので、肝機能や腎機能に影響していないかを確認しておいても良いかもしれません。

5,ビタミンD

ビタミンDは、骨の成長を促進する作用や、血中カルシウム濃度を調節する役割のある脂溶性ビタミンです。またウイルスや細菌などの感染防御作用としての免疫機能を高める働きも注目されています。

ビタミンDは、卵子の質に影響したり、受精卵が子宮に着床しやすくする作用があると考えられています。ビタミンDと体外受精に関係する論文がいくつか発表されていて、ビタミンD濃度が不足している女性では、妊娠率や出産率が低下する可能性が示唆されています。

6,基礎ホルモン(E2、FSH、LH、PRL、P4)

女性の場合は、E2(エストラジオール)、FSH(卵胞刺激ホルモン)、LH(黄体形成ホルモン)、PRL(プロラクチン)、P4(プロゲステロン)という、5つの女性ホルモン値を基礎ホルモンとして測定します。それぞれのホルモンがどういった働きをしているか見ていきましょう。

E2(エストラジオール)

エストロゲンの一種で、卵巣の中の卵胞(卵子が入っている袋)から分泌されるホルモンです。

子宮内膜を厚くし、頸管粘液の分泌を高めて精子が通りやすいようにする作用 があります。

卵胞の発育に伴って分泌量が増え、排卵前に高い値になります。月経周期では、月経開始からおおよそ10~14日目(卵胞期)にかけて上昇する傾向があります。

FSH(卵胞刺激ホルモン)

脳の脳下垂体前葉から分泌され、 卵巣内にある卵胞(卵子が入った袋)の成長を促進するホルモンです 。卵胞が発育すると、卵胞からE2(エストロゲン)を分泌します。

LH(黄体形成ホルモン)

脳下垂体前葉から分泌されるホルモンで、エストロゲンの分泌が十分になるとそれに反応して分泌量が急上昇します。 この急激な上昇はLHサージと呼ばれ、排卵を引き起こす重要なサインとなります 。

LHサージは、月経開始からおおよそ12~14日目前後に起こることが多く、成熟した卵胞から卵子が放出され排卵します。

また、LHには排卵後に黄体を形成し、P4(プロゲステロン)の分泌を促す働きもあります。

PRL(プロラクチン)

脳の下垂体から、妊娠中や産後に多く分泌されるホルモンで、母乳を作る働きがあります。つまり、出産後に多く分泌されるホルモンです。

無排卵や無月経などの場合、PRLが多く出ていることが原因のひとつとされています。妊娠していないときに分泌が確認できた場合、排卵や月経の異常が把握できる可能性があります。

P4(プロゲステロン)

排卵後に残った黄体(卵胞の壁の一部)から分泌されるホルモンで、子宮内膜(ベッド)に働きかけ、 受精卵が着床しやすいように整えたり、妊娠を維持する働きがあります。


排卵後から増加し、高温期にかけて分泌量がピークを迎えるのが特徴です。一般的には、月経周期の15日目以降(排卵後)から上昇し始めるとされています。

これらの女性ホルモンは、月経周期に伴って分泌量が変化しますので、その分泌量を調べることで排卵障害や着床障害などの疾患を調べたり、不妊症の要因になる月経不順の理由がわかるかもしれません。


※イメージです

7,甲状腺機能(TSH、fT3、fT4)

甲状腺の機能を確認するための血液検査です。

脳下垂体から分泌されるホルモンTSH(甲状腺刺激ホルモン)と、主に甲状腺から分泌されるfT3/fT4(甲状腺ホルモン)を測定することで、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される「甲状腺機能亢進症(バセドウ病)」や、逆に甲状腺ホルモンが不足して起こる「甲状腺機能低下症」などの異常を把握することができます。

甲状腺ホルモンは卵胞の成長にも影響するため、異常がある場合は妊娠前に治療しておくことが推奨されています。

8,AMH(抗ミュラー管ホルモン)

「AMH」という言葉を聞いたことがある方は少なくないと思います。

AMHは、抗ミュラー管ホルモン(Anti-Müllerian Hormone)と呼ばれ、卵巣内にある卵胞から分泌されるホルモンのひとつです。卵胞とは卵子が入っている袋のような構造で、1つの卵胞の中に1つの卵子が含まれています。

女性は、生まれたときに約200万個の卵胞を持っており、その数は出生後も徐々に減少します。

初潮を迎える15歳頃には約30万個にまで減り、さらに毎月の月経周期ごとに100個前後の卵胞が成長し、そのうち1個だけが排卵され、残りは自然に消失していきます。そして、卵胞は 増えることはありません。

つまり、AMHを測定するということは、卵巣に残っている卵子の数を間接的に知ることができ、卵巣年齢や妊孕性の目安として利用されることに繋がるのです。

参考:Age-specific serum anti-MUllerian hormone values for 17,120 women presenting to fertility centers within the United States

上記は、過去に報告された、年齢とAMHの関係性を表したグラフです。

年齢が上がるにつれて、AMHの値が低下していることがわかります。

人によっては、同年代の平均よりもAMHが低いことがわかれば、早めに妊活を始めたり、場合によっては治療を行うこともできるため、早い段階で知っておくことがその後のライフプランを考える1つの指標となりえます。

AMHはあくまでも卵巣の中にどれだけ卵子が残っているかの指標であって、「卵子の質(妊娠のしやすさ)」を表すわけではないことも知っておきましょう。

9,性感染症(B型肝炎HBs抗原、C型肝炎HCV抗体、梅毒、HIV)

性感染症

性的接触を介して感染する病気の総称です。

性感染症は自覚症状が現れにくいため、気づかないうちにパートナーへ感染させてしまうおそれがあり、将来的に不妊や流産の原因になる可能性があります。

性感染症にはいくつか種類がありますが、その中でも血液検査で調べる代表的な項目には、 B型肝炎HBs抗原、C型肝炎HCV抗体、梅毒、HIVになります。

B型肝炎HBs抗原、 C型肝炎HCV抗体

B型肝炎やC型肝炎は、肝臓に損傷を与えるウイルス性の感染症です。慢性化すると、肝硬変や肝臓がんの原因となる可能性があります。

梅毒

梅毒は『梅毒トレポネーマ』という細菌による感染症で、さまざまな合併症を引き起こすことがあります。妊娠中に感染すると、「先天梅毒」といって胎児に感染する可能性があり、早産、死産、新生児死亡、奇形などのリスクがあります。

HIV

ヒト免疫不全ウイルスに感染し、体の免疫力を低下させ、やがてエイズを発症させます。HIVに感染していると、妊娠中に胎児へ感染するリスクがあります。

10,風疹抗体

風疹とは、風疹ウイルスによって引き起こされる感染症です。

感染すると、発熱や発疹が現れます。特に注意すべきなのは、妊娠中に感染すると胎児もウイルスに感染する可能性があり、その結果として先天性風疹症候群(CRS)を引き起こすおそれがあることです。CRSの症状には、難聴・心疾患・白内障・精神や身体の発達の遅れなどが含まれ、重篤な先天性障害を伴うことがあります。

十分な抗体価を持っていれば良いのですが、抗体が不足している場合、妊娠前にワクチンによる予防接種を行うことで、十分な抗体を獲得して、体内でウイルスが増えることを防ぐことが可能です。風疹は飛沫感染するため、パートナーの方も検査を受けることが大切です。

このように、ブライダルチェックにおける血液検査では、妊娠前に知っておくべき体の健康状態を知ることが出来ます。もし何か問題が見つかった場合でも、妊娠を考える前に対処しておくことができるので、妊娠までにかかる時間の節約や胎児への感染リスクを避けることにつながります。

本日お話をおうかがいした方

塚田寛人

大学卒業後、検査会社にて動物の検査業務を担当。その後、医療法人三秀会中央クリニックにて胚培養業務に従事。クリニック開業に伴う、培養室立ち上げにも参画。現在は、高度生殖補助医療(体外受精)や妊活で悩む方へのオンライン相談やのほか、株式会社QOOLキャリア(https://career.qo-ol.jp/)へ協力し、企業に勤める女性へ医療情報を提供するなどのサポートを行っている

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