シリーズ 精子提供│第2回:「出自を知る権利」を守る。厳格なドナー登録と志望動機
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妊活お役立ち情報
今回は第2回として、精子提供において現在世界的に最も重要視されている「子どもの出自を知る権利」と、それに賛同し、厳しい審査を経て協力する「ドナー(精子提供者)」の実態について、お伝えしていきます。
※本記事は、プライベートケアクリニック東京で非匿名精子バンクを運営する伊藤様に監修いただいています。
「匿名提供」が抱えていた問題と、出自を知る権利

日本の精子提供(AID)は、70年以上にわたり「ドナーは匿名であること」が一般的とされてきました。かつては、提供を受けて生まれたという事実を子どもには告げず、秘密にしたまま育てることが親としての愛情だという考え方が主流だったためです。
しかし、時代が進むにつれ、この「完全匿名制」が持つ大きな問題点が浮き彫りになってきました。
生まれた子どもたちの中には、血液型の不一致や病気の治療などをきっかけに、偶発的に精子提供の事実を知り、大きな衝撃を受ける人が現れ始めました。さらに、「自分の遺伝的なルーツ(半分の由来)が誰なのか分からない」という事実は、子どもたちのアイデンティティ形成に深い影を落とし、身元が分からないことで深く苦しむ人々がいることが問題視されるようになったのです。
自分がどこから来たのか、遺伝的な親はどんな人なのかを知ることは、人間としての基本的な権利です。現在では世界的に、この「子どもの出自を知る権利」を保障すべきだという潮流が確固たるものとなっています。そのため、これからの精子提供においては、将来子どもが望んだ際に「身元を開示できる(非匿名の)ドナー」の存在が不可欠となっています。
登録完了まで3回の来院。厳格なスクリーニングの現実

しかし、「将来、子どもに身元が開示される可能性がある」という条件は、ドナー候補者にとって決して低いハードルではありません。だからこそ、身元開示に同意するドナーの登録には、非常に多大な時間と専門的な評価が投じられています。
プライベートケアクリニック東京では、ドナー候補者が正式登録に至るまでに少なくとも3回来院し、「合計2〜3時間の関わり」を持つ仕組みが設けられています。
そのプロセスは単なる面接に留まりません。始めに書類選考と精液検査を受け、合格した候補者は医師の問診と感染症検査を受けます。その後、スタッフとの面談でドナー登録の意義や責任、ご家族への影響などにつき説明を受けます。提供に対する候補者の考えを確認した後、外部の精神科医または公認心理師による30〜40分のオンライン心理カウンセリングが実施されます。
ここでは、精子提供の動機や、子どもの福祉に対する考え方、将来への覚悟などが専門的な視点から深く問われます。その後、改めてスタッフとの面談を行い、最終的な意思確認へと進みます。
この厳格なスクリーニングを経た結果はどうなっているのでしょうか。応募者のうち書類選考(2024年11月以降開始)を合格するのは約56%(346名中195名)。精液検査の合格率は約47%、さらにそこから問診・面談・心理評価を経た結果、最終的な合格者はわずか約21%(381名中81名)にとどまっています。
高い倫理観と覚悟がなければ登録に至らない、極めて厳格な仕組みが運用されていることが、この数字から読み取れます。
ドナー候補者たちのリアルな声と、深い共感

では、このような厳しいプロセスを経てでも「精子提供に協力したい」と申し出るドナーの方々は、一体どのような想いを抱いているのでしょうか。
登録者の平均年齢は34歳。その志望動機を見ると、「不妊に悩む人を助けたい」という善意はもちろんのこと、「子どもの出自を知る権利の保障に賛同・共感する」という声が非常に多く見受けられます。ドナーの方々の実際の声を引用してご紹介します。
「以前から精子バンクへの登録は考えていましたが、ドナーの匿名により子供が自分の親を知ることが出来ないという事に疑問を持っていました。子供が精子提供者について知りたいという気持ち以外にも様々な理由で提供者の事を知りたい、連絡を取りたいといった事情があった際に、匿名では協力したくても出来なかった為、今回非匿名でのドナー登録を重視しているこちらの精子バンクへ登録しました。」
「非匿名でのドナー登録という取り組みに興味関心がわいた。将来自分の由来が分からないまま過ごすことによって生きづらさを抱えながら生きていくことはある種の虚無感を感じることになるのではと思い、私の参加によってもしかしてそういった悩みが少しでも解消されるのであれば嬉しいなと思い申し込みました。
また、自分の血が繋がった自分とは全く違う環境で育っていく人がどんな人間になっていくのかにも興味がわいた。将来的にその人が困るような状況になれば、可能な範囲で助力することも含め、長いスパンで関心を持ち続けていきたいと考えた。」
「こちらのクリニックのドナー登録は全員が非匿名ということでなので生まれてきた子供全員が平等にルーツを知ることができて良いと思ったので。」
ドナーの方々は、単に「子どもが欲しい夫婦を助けたい」という一時的な感情だけでなく、生まれてくる子どもの将来の悩みや生きづらさにまで深く想像を巡らせ、その権利を守るという理念に心から共感してくださっています。
まとめ

出自を知る権利の保障は、精子提供において決して避けては通れない最重要課題です。そして、その重い責任を共に背負い、厳格な審査をクリアしてくださる非匿名ドナーの方々の高い倫理観があって初めて、この新しい「やさしい仕組み」は成り立っています。
しかし、ドナーの存在だけでは十分ではありません。生まれてくる子どもが自分のルーツを肯定的に受け入れていくためには、ご夫婦自身が子どもに真実を伝えていく準備が必要です。
次回、第3回では「妊娠はゴールではない。時間をかけた継続的カウンセリングの必要性」と題し、治療前から出産後まで長く続く伴走支援の実態についてお話しします。
【出典・参考文献】
- 大野和基 著『私の半分はどこから来たのか AID(非配偶者間人工授精)で生まれた子の苦悩』朝日新聞出版(2022年)
- 非配偶者間人工授精で生まれた人の自助グループ・長沖暁子 編著『AIDで生まれるということ 精子提供で生まれた子どもたちの声』萬書房(2014年)
- 無精子症のご夫婦の自助グループ・すまいる親の会HP
- オルタナティブ・ファミリー――さまざまな形の家族と、親子にとって本当に大切なこと スーザン・ゴロンボク(著), 石渡 悠起子(翻訳), 伊藤ひろみ(監修)
記事監修
プライベートケアクリニック東京 【東京院】
日本不妊カウンセリング学会認定 不妊カウンセラー
伊藤 ひろみ
夫の無精子症により英国で非匿名ドナーから精子提供を受け、二児を出産。2019年にデンマークの精子バンク、クリオス・インターナショナルの日本事業担当ディレクターとして日本事業を立ち上げ、500名超の女性が国内で精子提供を受けることを支援した。2024年5月、プライベートケアクリニック東京にて日本初の非匿名ドナーのみを募る精子バンクを開設し、日々の運営にあたる。NPO法人日本不妊カウンセリング学会認定 不妊カウンセラー。

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