多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の症状や治療方法を知ろう|不妊症看護認定看護師 小松原千暁
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妊活お役立ち情報
2023.11.21
基礎知識
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の症状や治療方法を知ろう|不妊症看護認定看護師 小松原千暁
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の症状や治療方法を知ろう!
今回は、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)について、以下の4項目に沿って、解説させて頂きます。
1.多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)ってどんな病気?
2.どんな自覚症状がある?
3.PCOSの診断基準
4.検査と治療内容
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)ってどんな病気?
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは、ホルモン分泌の異常が原因で、卵巣中の卵胞の大きさや数にバラつきが出てしまい、卵胞が発育するのに時間がかかり、上手く排卵できなくなる疾患です。
若い女性の排卵障害では多くみられる疾患で、生殖年齢の女性の5~8%に発症すると言われていて、遺伝的な糖代謝の異常によって、起こる場合もあります。
通常の卵巣表面は、皮が薄いため卵胞が大きくなればここから排卵できますが、多嚢胞性卵巣症候群では、皮が硬く厚いため、卵胞が飛び出しにくく排卵しづらくなります。
正常な卵巣の排卵経過
正常な卵巣の排卵経過を確認しましょう。
- 月経が始まる
- FSH(卵巣刺激ホルモン)が脳の下垂体視床下部から下垂体にいって、卵巣で卵胞が育つ
- 卵胞が育つとエストロゲン(卵胞ホルモン)が出て子宮内膜が厚くなる
- FSH(卵巣刺激ホルモン)が卵胞を育つように刺激をして、卵巣の中でAFC(胞状卵胞)ができる
- 卵胞の1つ(主席卵胞)が大きくなり、その他の閉鎖卵胞は、途中までは大きくなろうとするが小さくなっていき、最終的には卵巣に吸収される
- 卵胞ホルモンが分泌されて、主席卵胞が大きくなってくると、LHサージが起こる
- 最終的には、卵胞の1個が成熟して排卵し、黄体ホルモンを分泌する
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の排卵経過
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の排卵経過を確認しましょう。
PCOSでは、ホルモンが上手く流れず、FSH(卵巣刺激ホルモン)、LH(黄体化ホルモン)などが、通常と違った分泌を行います。
FSHホルモン(卵巣刺激ホルモン)は『卵を育てなさい』と命令するホルモンで、もともと分泌されずらいという特徴があり、LH(黄体化ホルモン)の方が分泌量が多いです。
通常なら、卵胞が成熟したタイミングで、LHサージという波が起きますが、PCOSでは、LH(黄体化ホルモン)が月経の初期から過剰に分泌するため、卵胞が大きくなっても、LHサージの波が起きにくく、排卵できないことがあります。
また、通常はエストロゲンが分泌されますが、PCOSでは、ステロイドのホルモンが変化して、アンドロゲン(男性ホルモン)が過剰分泌しているような状態になります。
卵巣の中では、卵胞がたくさんあり、FSHホルモン、LHホルモンがたくさん分泌しているので、主席卵胞がでにくい状態になります。
また、LHの分泌が多いため、サージ(成熟から排卵をして、黄体ホルモンを分泌すること)が起こりにくいので、以下のような状態になります。
●排卵するタイミングの波が起きにくい
● 一個だけの成熟卵が排卵しにくい
●排卵できない
インスリン抵抗性
多嚢胞性卵巣症候群の方は、インスリン抵抗性があると言われています。
正常な時、甘いものを食べたら血糖値が上がり、膵臓でインスリンを産生して、筋肉や肝臓で取り込み、血糖値を下げます。糖尿病の場合は、インスリンが産生されなかったり、分泌が上手くいかなかったりするため、血糖値が下がらず、高血糖となるわけです。
耐糖能異常といって、糖に対して耐性ができてしまう場合、肝臓でインスリン抵抗性があるので、抗インスリン血症になります。
卵巣・副腎でアンドロゲンがたくさん産生されて亢進するので、LH分泌が亢進し、もともとLHが高い状態になります。卵巣では、LHサージが起きにくくなり、排卵障害が起こるのです。
PCOSの50~80%ぐらいの方が、インスリン抵抗性があると言われています。
肥満例(BMI)が 25以上の方は、生活習慣病の予防のため、2~6ヶ月間で5~10キロの減量を実施しなければいけません。一気に落とすのではなくて、少しずつ体重を落としていきましょう。
PCOSの方は、2.5%(1年あたり)が2型糖尿病を発症するという報告があります。
PCOSの方が妊娠した時に、以下の項目に該当したときは、糖尿病のスクリーニング検査が推奨されているので、実施するようにしましょう。
●肥満
●40歳以上
●糖尿病
●妊娠糖尿病の既往がある
●糖尿病の家族歴がある
インスリン抵抗があることが分かったら、定期的に健康診断を受診して、普段の食生活に気をつけることが必要です。
どんな自覚症状がある?
ホルモンの流れの異常によって、以下のような、さまざまな症状が発生します。
無月経(LHサージが起きず、排卵しにくい)
●希発月経(28~30日サイクルではなく、数ヶ月に1回の月経)
●無排卵周期(生理は来ているがしっかり排卵してない)
このような症状が出た場合、不正出血を起こしたり、妊活を頑張っても妊娠しないなどのケースがみられます。
また、アンドロゲン(男性ホルモン)がたくさん分泌され、女性ホルモンの消費が少なくなるので、以下のような男性化兆候がみられることもあります。
●毛深くなる
●にきびがたくさん出来る
●声が低くなる
●肥満傾向になる
PCOSの診断基準
PCOSは、日本産科婦人科学会ガイドライン2007年を診断基準としており、以下の3項目を全て満たす場合に診断されます。
1. 月経異常:無月経、希発月経、無排卵周期(3〜4ヶ月に1回)のいずれか
2.多嚢胞性卵巣:超音波断層検査で両卵巣に2~9mmの小卵胞が10個以上存在
3. 血中男性ホルモンが高い、または、LH基礎値が高い、かつ、FSH基礎値が正常
FSH(卵巣刺激ホルモン)とLH(黄体化ホルモン)を比べた時、通常であれば、FSHの分泌量が多く、LHの方が低いです。低い値からFSHを追い越し、サージが起きて初めて排卵となります。
POCSの場合、FSHよりもLHの方が高値になっている状況なので、サージ起きにくく、排卵しづらくなります。
たくさんの卵胞があるため、AMHは高値になりますが、ガイドラインの中には診断基準として含まれていません。
PCOSの検査方法や治療法を解説!
ここでは、PCOSの具体的な検査方法や治療法について解説していきます。
インスリン抵抗性検査には『HOMA』という方法があり、異常があった場合は、耐糖能異常治療が必要になります。
また、妊活をする時は、外科的治療や排卵誘発剤の内服薬や注射を行ったりする場合があります。ART(生殖補助医療)の刺激周期か無刺激周期かで、治療方法が変わってきます。
それぞれの、検査方法や治療法について、確認していきましょう。
内服治療とは
内服治療ではまず、インスリン抵抗性検査である『HOMA』という検査を実施します。
この検査では、肝臓のインスリン抵抗性を測定し、以下の計算方法をもとに、正常かどうかを判断していきます。
【早朝空腹時の血中インスリンの値×血糖値÷405】
上記の計算方法での、判断方法は以下のとおりです。
● 正常:1.6以下
●インスリン抵抗性あり:2.5以上
インスリン抵抗性ありの場合、耐糖能異常治療が必要になり、メトフォルミンを内服をしていきます。メトフォルミンは、インスリンの抵抗性を改善することで、血液中のインスリン値を低下させ、卵巣のアンドロゲン産生を低下させる効果があります。
内服開始時には、慣れるまで下痢症状や低血糖が起こりやすいです。
最初は、1日に計4回(朝・昼・晩・寝る前)の服用を行いますが、症状が強いときは、1日計3回にするなど、コントロールしながら服用していきましょう。
メトフォルミンの内服薬を名前で言うと、グリコラン錠やメトグルコとなっていて、糖尿病用薬と記載があります。糖尿病の薬のように、血糖値を直接下げるというわけではなく、インスリンを活発にさせる内服薬です。
外科的治療とは
外科的治療には、腹腔鏡下卵巣多孔術という手術方法があります。
PCOSの場合は、卵巣の表面にある白膜が厚くて排卵しにくいので、手術をすることによって、白膜を薄くし排卵を促します。
手術方法は、腹腔鏡(お腹に3〜4箇所の穴を開ける)でレーザーを行い、白膜にレーザーあてて表面を焼き、穴を開けて、表面を薄くするという内容です。
排卵回復率は70~80%と言われており、 通常であれば1~2年の持続期間があります。
外科的治療は、自然妊娠や人工授精、体外受精に進む前に、自然排卵を試みるという意味でも、約20年前にとても頻繁に実施されていました。
しかし、表面を焼くことによって、正常な細胞も焼いてしまうので控えた方が良いという意見や、体外受精の際に針を刺して、卵胞液を抜いていく方法では、妊娠率も高いということから、あまり実施しなくなっています。
ただし、腹腔鏡手術をを積極的にやっている施設であったり、PCOSの症状が強い方(卵胞が多い方)は、腹腔鏡下卵巣多孔術をする場合があります。
排卵誘発剤(内服薬)について
一般治療では、排卵誘発剤を使用して卵胞を発育させ、タイミング療法又は人工授精を行い、内服薬として『クミッド』と『フェマーラ』を服用します。
それぞれの効果は、以下のとおりです。
●クミッド:FSHとLHの分泌を促す
●フェマーラ:FSHの分泌を促す
月経が始まったら、HCG製剤やLHと同じ作用のある、クミッドとフェマーラを飲み、卵巣を発育させます。卵胞が大きくなり、最終的に1個が成熟したら、排卵を促すHCG製剤を注射をしていきます。
例えば、クミッドとフェマーラを飲んで、卵胞が1個か2個ぐらいに成熟する場合なら良いですが、左右の卵巣で卵胞が4個以上育つ場合は、卵胞が育つのを途中まで観察し、その周期は避妊するようにしてください。
卵胞が多くあって受精した場合、三つ子、四つ子といった多胎妊娠になる可能性があるからです。
多治妊娠は、母子ともに大変なので、最近では、タイミング人工授精を中断して、コントロールするようになっています。
不妊治療が始まった当初は、フェマーラが無く、クミッドを多く使う傾向にありました。その時は、多治妊娠をするケースが多かったです。
排卵誘発剤(注射)について
前述では、一般治療で内服薬を使用する治療法を解説しましたが、注射だけを使用する治療法(低用量長期漸増法や隔日投与法など)もあります。
LHホルモンは、元々たくさん分泌されているので、FSH製剤で卵胞を育てていき、最後にHCGで排卵を成熟して促すという治療法です。
隔日投与法は、75単位のとても少ない量を隔日ごとに打ち、経過を見ていきます。卵胞が大きくなったら、HCG製剤を打ち、最終的に一個が成熟したら排卵を促します。
低用量長期漸増法は、注射を毎日打つ方法で、75単位の少ない量から始め、卵胞が大きくなってきたら単位数を少しづつ上げて、125単位まで注射をしていきます。
この方法よって、卵胞が1個がだけ育ってきて、体の中から出ているようなホルモンの使い方をするので、FSHホルモンが少しずつ分泌されます。最終的に1個が成熟したら、排卵を促すHCG製剤を打ちます。
急に違う卵胞が大きくなって、1個ではなく4個や5個大きくなってしまう、卵巣過剰刺激症候群では、卵胞がたくさん出来てしまいます。その場合は、多胎妊娠を防ぐために、卵子と精子が受精しないように、避妊をする指導をしていきます。
【ART:刺激周期】における治療法は?
ARTの刺激周期というのは、月経周期の位置から、月経周期が毎日あります。
排卵誘発剤を使っていく方法では、LHホルモンが少し混ざっていて、刺激用の注射をして、卵胞を育てていきます。
刺激によって、多数の卵胞が発育してしまう場合は、どこかで発育のブレーキをかける必要があるので、以下のような方法を行います。
- ●PPOS法(プロゲスチン併用法):排卵抑制剤の黄体ホルモンを使用する
- ●アンタゴニスト法:排卵抑制剤のセトロタイドやガニレストを使用する
卵巣の中で、最初は小さかった卵胞が徐々に大きくなっていき、出来過ぎてしまう場合があり、注射などの刺激によって、多数の卵胞が発育し、卵巣過剰刺激症候群になるケースがあります。
このような症状があれば、全胚凍結といって、胚移植をせずに採卵を行って、一旦凍結させます。採卵日を0日目として、5日目に胚盤胞になったものを凍結し、胚移植のタイミングで溶かして使用します。
【ART:無刺激】における治療法は?
多嚢胞性卵巣の方に、無刺激かつ排卵誘発剤なども使用しないのが、IVM法(未熟卵体外受精法)という治療法です。 IVM法は、刺激を行わないため、卵巣は全く腫れることがありません。
通常は、1個の卵胞が20ミリ前後になった成熟卵を採卵しますが、約5~8mmの小さな卵胞を超音波で拡大しながら、採卵していきます。
小さな卵胞を成熟させるために、特別な培養液に入れて成熟を促し、成熟卵になったら顕微授精を行って、3日目また5日目まで培養して凍結させます。
採卵をした後に培養液につけて、成熟卵になったら、これが-1日目、この日に成熟卵になったら0日目となります。
顕微授精を行って、たくさん卵胞が採れており、状態が良ければ5日目で凍結します。あまり良い状態じゃなければ、3日目で凍結することもあります。
その後、次の周期または、更に次の週期間に、凍結したものを溶かして胚移植を実施していきます。
お疲れ様でした。ご覧いただき、ありがとうございました。お二人が、自分達らしい選択ができて、選択の先に素晴らしい人生があることを願っております。
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プロフィール
小松原 千暁
不妊症看護認定看護師/生殖医療コーディネーター
不妊治療の専門クリニックに勤務して20年、妊活をしている方の母的存在になれるように日々頑張っています。不妊治療は時間もお金もかけて頑張って通院するのですから、一緒に勉強して自分達の歩く道を自分達で決めてみませんか?
◾️東尾理子主催「妊活研究会」
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