不妊治療の体験談ケーススタディ|30代Aさんの体外受精の場合
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妊活お役立ち情報
目次
ご夫婦でタイミング療法を取られている方々から、体外受精についての質問を当サイトやオープンチャットでもよく受けます。
そこで今回は、不妊症看護認定看護師の小松原千暁さんより、妻Aさん(33歳、会社員)と夫Bさん(36歳、会社員)の治療のケーススタディをご紹介します。
タイミング法、人工授精も無理。迷って不妊治療専門施設に転院
Aさんは、妊娠を目指して近くの婦人科に通院し、タイミング療法を半年間、人工授精を1年間トライしました。検査では問題はなかったものの、妊娠には至らず。周囲の友達は結婚後すぐに妊娠している状況で、Aさんは体外受精に進むべきかを相談するために、不妊治療の専門施設へ転院しました。
不妊治療の専門施設では、より詳細な検査を行います。Aさんは夫のBさんとともに検査を受けました。
夫婦で検査をし、サプリや禁煙の指示、体外受精の提案も
Aさんの検査結果は、FSH値やAMH値、ビタミンDの値が良くなく、胞状卵胞が33歳にしては少ないことが判明。現時点では排卵しているものの、これから卵巣機能が低下し、早い段階で閉経する可能性もある結果となりました。
一方、夫のBさんの結果にも気になる点がありました。精子数や精子濃度が、WHOの正常範囲を下回っていたのです。加えて、造精機能の低下や妻の受動喫煙にもつながる喫煙の習慣があります。
これらの検査結果を受け、医師から次のような提案がありました。
・Aさんは妊娠を目指すために、ビタミンDのサプリを早めに開始する
・Bさんはすぐに禁煙をする
・FSH値、AMH値、胞状卵胞の状態から、1年後には卵子の質の低下や個数が激減している可能性があるため、自己卵子があるうちに体外受精の治療を開始したほうが妊娠の可能性は高い
・もし体外受精を受けるなら、刺激周期アンタゴニスト法でできるだけ卵子を取る方法が良い
治療の提案をされた後、不妊症看護認定看護師からの説明は?
医師の提案後、ご夫婦の気持ちが少し落ち着いてから、不妊症看護認定看護師が説明をします。お話するポイントは次の通りです。
・医師からの提案をどのように受け止めたかを聞く
・検査結果の解説
・体外受精の解説動画を視聴してもらい補足で説明
・自己注射の動画を視聴し、実施可能か確認し、自己注射教室の受講を案内
・体外受精実施周期の通院回数や滞在時間、仕事の調整の必要性を案内
・保険適用の対象や手続き等の説明
現時点で体外受精の保険適用は、40歳未満の女性は胚移植6回までです。治療計画を立案し準備を進めていきます。
体外受精への素朴な疑問。体外受精をしないと妊娠できない?
医師から検査結果の説明や提案を受けたものの、わからない点があればぜひ看護師に聞いていただきたいと思います。ここからは、検査結果の説明を再度看護師から聞いた後のやりとりを紹介しましょう。
Aさん:やっぱり体外受精をしないと妊娠できないのでしょうか?
看護師:人工授精は1回の妊娠率6~8%、妊娠した人は4回目までに8割が妊娠していることから、妊娠できないわけではないですが、人工授精を1年間しても妊娠できていないので、人工授精の可能性は低いと思います。今ならAさんのAMH値、FSH値、胞状卵胞の状態から、体外受精を行うことで妊娠率は約28%、胚移植あたり約46%あります。今はこの妊娠率ですが、1年後には卵巣内の卵子がなくなっている可能性や卵子はあるけれど卵巣機能が低下してホルモンの流れが悪くなっている可能性があります。
体外受精と人工授精の妊娠率、流産率、合併率、子育ての体力などを考えると、体外受精は通院回数が増え、自己注射、採卵の静脈麻酔、痛み、治療費の増加などはありますが、少しでも早く体外受精を開始したほうが妊娠にたどり着きやすいでしょう。
Aさん:体外受精って自然じゃないですよね?
看護師:体外受精は精子と卵子を体の外で出会うお手伝いをしますが、実際に受精するかどうかは卵子と精子の力になります。また受精しても成長した胚を子宮に戻すこともお手伝いしますが、その後に着床して妊娠するかも胚の力になります。最終的には妊娠は医療者でも立ち入ることができない部分で、Aさんの卵子とBさんの精子が出会った証の命なんですよ。
Aさん:そうなんですね。自然じゃない気がしていたけれど、最後は自分たちの力で命が宿るんですね。とても安心しました。
でも、卵子が少ないなら2人目は難しい?
Aさん:子どもは2人欲しいって思っていたけど、卵子が少ないのなら諦めないとダメですか?
看護師:体外受精は受精後に胚を1個移植します。グレードの良い胚が他にもあれば凍結保存をします。1回目の胚移植で妊娠できなかったら、凍結している胚を解かして2回目の胚移植をして妊娠を目指します。妊娠した時に凍結している胚が残っていれば、2人目希望の時にその胚が残っていればその胚を解かして胚移植することができます。また採卵した卵子は、それ以降の老化を止めることにもつながります。そのためにも一度の採卵でたくさんの卵子が取れたほうが良いのです。
Aさん:卵子の老化を止めたいです!どんなふうにしたら、たくさん取れるんですか?
看護師:排卵誘発剤という卵胞を育てるお薬を自分で注射して一度に卵子がたくさんとれるように育てます。ペンタイプで動画とパンフレットで勉強してください。注射の方法など分からなくなったり、上手くいかない時などはいつでも相談してください。
Aさん:だから体外受精は注射をするんですね。納得しました!
通院頻度や仕事の調整についてってどうしたらいいの?
Aさん:何回くらいの通院になりますか?
看護師:体外受精は、最低でも約1か月の間に6日間、多かったら8日間の通院です。1回目の治療計画立案時は必ずご夫婦で診察に来てください。そして
・2~3回目は超音波とホルモン検査
・4回目は排卵日
・5回目は胚移植または凍結報告診察
・6回目が妊娠判定
といった流れになります。超音波とホルモン検査日は滞在時間が2~3時間、採卵日は静脈麻酔をかけるので、その後もお休みを推奨します。胚移植は約2時間程度かかるかと思います。
Aさん:仕事の調整が大変そうですね。仕事の調整が難しい時はどうしたらいいですか?
看護師:通院回数が多いので、会社の上司の方へは伝えたほうがよいと思います。また両立でストレスがかかるので、会社の同僚の方など相談できる方がいるほうが良いと思います。調整が難しい日があれば、事前にお知らせください。
Aさん:絶対に会社に行かなきゃならない日があるので、事前に伝えるようにします!
治療費や保険適用範囲とは?
Aさん:体外受精も保険が効くんですよね。それでも費用負担は大きいですよね。
看護師:体外受精の保険適用は女性の年齢によって回数制限があります。Aさんは初めての体外受精が33歳なので、胚移植を6回受けるまで保険適用になります。また高額療養費制度によって、1か月の支払金額が自己負担限度額を超えた分は補助されます。負担額はAさんの所得額によって変わりますが、約6~8万円の方がほとんどです。
Aさん:自己負担額がいくらになるか、調べてみます。何か手続きは必要ですか?
看護師:事前にAさんが加入している保険者にて限度額適用認定書を取得すると、窓口支払い額も自己負担額までになります。事後手続きの場合には3~4か月後に保険者より返金があります。分からないことがあれば、受付から説明しますね。
Aさん:早速、受付の方から詳しく聞いています。
治療計画は夫婦で受けたほうがいい?
Aさん:治療計画は、夫婦で来たほうがいいんですか?
看護師:治療計画は、基本的にはご夫婦で診療を受けていただきます。どうしても都合が合わない時は医師へ相談してください。体外受精は難しい内容もあります。ご夫婦で医師からの提案を一緒に聞いて、疑問が出たら質問をして決めていただいたほうが良いですね。
Aさん:そうですね。私だけでは迷うこともあると思うし、その場で一緒に聞いて決めたほうが後悔しないですね。
看護師:その後の診察はAさんだけで来ることが多いと思いますので、大切なことを決める時はご夫婦で一緒が良いですね。そのほうがAさんも心強いと思います。
Aさん:次の月経が来たら、夫婦で相談に来ます!
夫は禁煙って必要ですか?精子に影響するの??
Bさん:先生に禁煙するように言われたけど、妻の前では吸っていなくてもダメなんですか?
Aさん:うそ!!私の前で吸うこともあるじゃない!禁煙してっていつも言ってるのに!!
看護師:喫煙は、造精機能を低下させる影響が出ます。禁煙することで精子の数が増え、運動率も上がると思います。Bさんの精子はWHO基準より低く、当日の状況では顕微授精になる可能性もあり、その場合は費用も増えます。
もしAさんの前でタバコを吸っていたら、受動喫煙となって、妊娠率の低下や流産率の増加、生まれてくる赤ちゃんへの影響も考えられます。
Bさん:え、そうなんですか?じゃあ、禁煙してみます……。
Aさん:(心の声)看護師さんから説明してもらえて良かったー。
不妊治療中に、男性側ができることは?
Bさん:妻は一生懸命頑張っているんですが、僕は仕事が忙しくて……。他にできることや何かしたほうが良いことはありますか?
看護師:お仕事が忙しいんですね……。最初はできることからで良いのですが、妊活のための運動や食事など、ご夫婦で取り組むことをお勧めします。特に2人でウォーキングをするのはとても良いですよ。向き合うのではなく前を向いているので、普段話さなかったことや話し辛かったことを伝え合い、同じ目線に向かっている実感を持つことができると思います。
Bさん:夜のウォーキングなら一緒にできそうだけどどうかなー?言いにくいことも言えそうだね(笑)
Aさん:うん!一緒だったら頑張れそうだね。やってみようかなー。ケンカにならない程度の話でね(笑)
ご夫婦そろって治療計画立案を聞く
そして、AさんはBさんとともに施設を訪れ、医師から治療計画が示されました。今月を準備周期として、来月に体外受精を行うことに。刺激方法はアンタゴニスト法で、排卵誘発剤は自己注射にて実施します。
自己注射指導の動画視聴と指導を受けること、採卵し一般体外受精後に胚盤胞へ培養し、すべて凍結すること、採卵翌々月に凍結している胚を解かして胚移植することなどの説明を受けました。
ご夫婦は、妊娠に向けて、新たな治療をスタートさせました。
体外受精を考えているおふたりへ
奥様へ
体外受精の治療は難しいので分からないことはどんどん医師や看護師へ質問して、納得してから進んでいきましょう。小さなことでもご夫婦で伝え合い、治療を乗り越えていきましょう。家事などもご主人と協力して、ストレスを減らす努力をしましょう。もし、治療方針や気持ちなどが上手く伝えられない時は医師や看護師へ相談し、一緒に相談する機会を作っていきましょう。
ご主人様へ
体外受精の治療は、奥様への身体的な負担が大きいのでご主人も可能な日は一緒に病院へ行きましょう。通院前後には話をする機会を作って、治療方針など一緒に考え進めていきましょう。奥様のストレスになっている内容などを聞いて頑張っていることを言葉と態度で労いましょう。家事の分担もしておくと、奥様の通院の負担も少なくなるので協力し合いましょう。
体外受精の治療も進んで、もやもやと悩みが出てきた時は、LINEオープンチャット「みんなの妊活」を活用してみてください。妊活にまつわる質問や相談ができる場です。不妊治療や妊活に関するさまざまなプロの方々が悩みや疑問に答えてくれます。
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本日お話をおうかがいした方
不妊症看護認定看護師/生殖医療コーディネーター
小松原 千暁
不妊治療の専門クリニックに勤務して20年、妊活をしている方の母的存在になれるように日々頑張っています。 不妊治療は時間もお金もかけて頑張って通院するのですから、一緒に勉強して自分達の歩く道を自分達で決めてみませんか?
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