不妊治療のケーススタディ|30代Cさんの人工受精の場合
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妊活お役立ち情報
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妊活中のご夫婦から、質問が多い「体外受精」。不妊症看護認定看護師の小松原千暁さんが、妻Cさん(39歳、会社員)と夫Dさん(34歳、自営業)の治療の道のりから、解説していきます。
婦人科受診で卵管閉塞と診断され不妊治療専門の施設へ
Cさんは、結婚6年目。あと半年で40歳になる時期に、婦人科で子宮卵管造営検査を受け、両方の卵管閉塞と診断されました。不妊治療施設を受診。紹介状には年齢のことがあり、FT(卵管鏡下卵管形成術)よりも、体外受精を推奨していると伝えたとの記載がありました。
涙ながらにCさんは次のように話します。
「結婚してからも仕事が忙しかったので、子どもを考える余裕がなくて、いつかできるかなって思っていたんです。40歳になったら妊娠しづらくなるって聞いて、あと半年で40歳だからあわてて受診しました。そうしたら卵管が詰まっていたんです。ショックでした……。しかもタイミングじゃなくて顕微授精って言われて……」
FSHが高め。薬を使っても発育する個数が少ない可能性も!?
Cさんの検査結果は、FSHが12.2mIU/mlと少し高めの値。卵巣機能の低下が考えられます。AMHも1.2ng/mlで、卵巣のなかに残っている卵子の数が41歳と同数と予測され、あまり残っていない状態といえます。したがって体外受精を実施した場合に、卵胞発育促進剤を使っても、発育する個数が少ない可能性があります。
また、卵状卵胞が右1個、左2個。現時点ではありますが、今後卵胞の発育数は少なくなることが予測されます。39歳という年齢は、染色体異常率の上昇によって妊娠しづらい状況になる可能性も考えられるでしょう。
両卵管閉塞で卵子と精子が出会えず妊娠できないため、タイミング療法や人工授精を希望するなら、卵管を開通させるFT(卵管鏡下形成術)を受けるか検討することが必要です。FTは保険適用されます。
旦那の精子が乏精子症と発覚。サウナも悪影響を。
一方、夫のDさんは精液検査を受け、精子濃度が800万/ml、総精子総数が980万とWHOの正常範囲を下回る結果に。乏精子症であることが分かりました。精子の状況を改善する必要があります。
またサウナ好きで週に4回通っている習慣も気になる点です。陰嚢が高温になっている時間が長いと、精巣機能が低下する可能性があります。乏精子症のため、妊活中はサウナに通うのを一時的にやめるか、もしくは週に1回程度に回数を減らすことが推奨されました。
こんな二人に医師からの治療の提案は?FT?顕微授精?
おふたりの検査結果を受け、医師からは次のような診断と治療の提案がありました。
・CさんはAMH、胞状卵胞の状態から卵子の個数が激減していく可能性がある
・39歳であり、今後染色体異常率が上昇していくため妊娠しにくい状況になる可能性がある
・両方の卵管閉塞があり、一般治療のタイミング法や人工授精法を行うなら卵管を開通させるFT(卵管鏡下卵管形成術)を行う必要がある
・Dさんは乏精子症であり、FT実施後にタイミング療法では妊娠できない可能性が高く、人工授精でも妊娠の可能性は2~3パーセント
・早めに生殖補助医療の顕微授精にて、妊娠を目指していくことを推奨する
2人の夫婦は結果をどう受け止めた?
医師の話の後、ご夫婦のショックが大きいかもしれないので、看護師からは、まずどう受け止めたかといった気持ちを伺います。その後、検査結果や治療などの補足説明をします。Cさん、Dさんの場合、お話するポイントは次の通りです。
・医師からの提案をどのように受け止めたか
・検査結果の解説
・一般不妊治療と体外受精、顕微授精について、また妊娠率、流産率、染色体異常率などの補足説明
・Cさんが39歳、Dさんが乏精子症のため、治療方針は顕微授精になったことの補足説明
・39歳の時点で顕微授精の治療計画を立案した場合には胚移植が6回まで保険適用される
検査結果を聞いたけれどよくわからない…
医師から検査結果の説明や提案を受けたものの、わからない点があればぜひ看護師に聞いていただきたいと思います。ここからは、検査結果の説明を再度看護師から聞いた後のやりとりです。
Cさん:検査結果を聞いたけど、よくわからなくて……。
看護師:検査結果については難しい内容が多いですよね。次の4つを説明します。1つめは、AMH。これは将来の卵子の数を示しています。Cさんの1.2という値は41歳くらいの値なので卵巣内に卵子があまり残っていない、閉経少し前の状態であるといえます。
2つめはFSHについてです。Cさんは値が少し高めなので、卵巣機能がやや低下傾向にあり、卵胞発育が順調でなく、排卵が早くなったり、遅くなったりする可能性があります。
3つめは、胞状卵胞について。これは現在の卵巣の中で育とうとする卵子の数です。39歳は平均2~3個はあるので、Cさんはやや少ない状態にあります。
4つめは、卵管についてです。卵管が通っていると一般不妊治療のタイミング法と人工授精法からスタートしますが、AMHやFSH、胞状卵胞、そして精子の数や運動率などから考えると、妊娠率が高い顕微授精などのART(生殖補助医療)スタートにしたほうが良いといった提案になります。
Cさん:やっぱり顕微授精しないと妊娠できないのでしょうか?
看護師:乏精子症のため、人工授精の妊娠率は2~3%で人工授精の妊娠の可能性は低いと思います。その妊娠率でもFTをして、卵管を開通させてトライするなら、人工授精は1~3回までと期間を決めることをお勧めします。
それは、先ほどのお話した1つめ、2つめ、3つめの理由からです。今なら顕微授精を行うことで妊娠率は約12.7%、胚移植当たり約34.4%あります。
ただこれは今の妊娠率であって、1年後には卵巣内の卵子がなくなっている可能性や、卵子はあるけれど卵巣機能が低下してホルモンの流れが悪くなっている可能性があります。
保険適用に年齢制限や回数がある?
人工授精を選択肢に入れているCさんに、次のように話を続けました。
看護師:FTを行った後に、人工授精1~2回実施で2~3か月は経過します。その結果、もし妊娠できなかったら、39歳のうちに体外受精の治療計画を立てることを見通しておくことが大切です。
Cさん:それはどうしてですか?妊娠する確率ですか?
看護師:妊娠率はもちろんですが、生殖補助医療の顕微授精は保険適用になるからです。ただし年齢制限があります。
初回の治療計画立案の年齢が40歳未満なら胚移植を6回まで、40歳から43歳未満なら3回まで保険適用でトライすることができます。43歳になると保険適用で治療を受けることができなくなり、自費診療になります。
Cさん:保険適用に年齢制限や回数制限があると思いませんでした。顕微授精の治療計画を39歳のうちに立てることと、それまでの間に妊娠率は低いけれど、人工授精にトライするかどうかを考えるのが良いのですね。
看護師:そうですね。初めての不妊治療ですし、いきなり顕微授精だと気持ちが追い付かないかもしれません。いったん人工授精を行うか、すぐに顕微授精にトライするかは、ご夫婦で決めて選んで良いんですよ。ただし保険の年齢制限を忘れずに期間を決めましょう。
夫は「サウナってダメ‽」
夫のDさんからは、次のような質問がありました。
Dさん:サウナがダメってどういうこと!?さっぱりしてストレス解消になるから行きたいんですが、ダメですか?
Cさん:精巣の温度が高くなると良くないって言ったじゃない!!
看護師:精液検査の結果で精子の数が少ない乏精子症と診断されました。Dさんが週4回のサウナに通っている影響が少なからず出ていると思います。サウナで陰嚢が温まって温度が上昇すると、精巣機能が低下するリスクがあります。その結果、運動精子が少なく、運動率も下がれば、受精能力も下がってきます。サウナはDさんのストレス発散だとは思いますが、妊活中は回数を減らして、精子数が増えてくるか様子を見たほうが良いと思います。
Dさん:え、そうなんですか?週1回は辛いけど、妊活中は仕方ないか……。妻も頑張っているんだから、僕も止めてみます。
Cさん:(心の声)なかなか止めてくれなかったから、看護師さんから説明してもらって良かったー!
妻への寄り添い方、どうしたらいい?
Dさん:妻は病院へ行くのが遅かったとか、自分の卵管が詰まっているなんて思ってもみなかったみたいで、以前よりもよく泣いちゃうんです。どうしたらいいか分からなくて……。
看護師:赤ちゃんが欲しいと思っているからこそ、自分の行動に後悔してしまったり、これからのことを不安になってしまったりするんですね……。
その気持ちは自然なことですから、奥様に寄り添ってお話を聞いてあげてくださいね。一番そばにいるご主人に理解してもらうと心強いと思います。そして今後の治療についてご夫婦で考える機会をたくさん作ってください。
Dさん:自分の精子も良くなかったから、妻ばかりに負担がかかってしまって申し訳ないと思っています。気分転換に映画やドライブに連れ出そうと思いますがいいですか?
看護師:もちろん、ぜひお二人で楽しく笑顔になれる時間を増やしてください。
Dさん:笑顔になってほしいんだ!
Cさん:いつも話を聞いてくれてありがとう。週末はできるだけ楽しく過ごしたいな。
CさんとDさん夫婦の治療計画立案はどうなったのか
そして、Cさん、Dさんの治療計画が医師から示されました。妊娠率は低いけれど、FTで卵管を開通させてから人工授精を2回トライする。
もし妊娠できなかったら、39歳のうちに治療計画を立て直して、生殖補助医療の顕微授精へステップアップする。刺激方法は、マイルドなアンタゴニスト法で実施。その際は、自己注射の指導を受けて注射は自宅でできるようにする、といった説明を受けました。
ご夫婦は、治療をスタートしました。
初めて不妊治療を始めるおふたりへ
奥様へ
不妊検査で卵管閉塞や年齢の壁などに気づき、閉ざされた気持ちになったかもしれませんが、これから妊娠にむけてできることは沢山あります。40歳前に不妊検査を受けたことをプラスに捉えて、今できることを一生懸命頑張りましょう!
初めての不妊治療が始まり、分からないことや悩むことがあったら、何でも医師や看護師へ聞きましょう。必ず相談に乗ってくれますので、安心してください。ご夫婦で相談する機会を増やして、ふたりの未来に向かって取り組んでいきましょう。
ご主人様へ
精液検査で乏精子症と診断され、落ち込んだかもしれませんが、サウナを控えるなど生活環境で改善される可能性があるので見直しましょう。不妊治療で分からないことや心配なことなどがあればいつでも医療者へ相談しましょう。
不妊治療は奥様が通院することが多くなりますので、家事の分担を見直すなど、奥様を労わることを今まで以上にしてください。そして、奥様の笑顔の時間が増えるように、週末にはリフレッシュできる過ごし方を見つけましょう。
人工受精の治療も進んで、もやもやと悩みが出てきた時は、LINEオープンチャット「みんなの妊活」を活用してみてください。妊活にまつわる質問や相談ができる場です。不妊治療や妊活に関するさまざまなプロの方々が悩みや疑問に答えてくれます。
この記事の動画はこちらから
本日お話をおうかがいした方
不妊症看護認定看護師/生殖医療コーディネーター
小松原 千暁
不妊治療の専門クリニックに勤務して20年、妊活をしている方の母的存在になれるように日々頑張っています。 不妊治療は時間もお金もかけて頑張って通院するのですから、一緒に勉強して自分達の歩く道を自分達で決めてみませんか?
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