シリーズ 精子提供│第4回:真実を伝えるテリングと、土台となる「性教育」の重要性
ARTICLE
妊活お役立ち情報
前回の第3回では、精子提供を受けるご夫婦に対して、治療前から出産後、そして育児中まで続く長期的なカウンセリングの必要性についてお伝えしました。
最終回となる第4回では、継続的支援の最大の目的でもある「真実を伝えるテリング(告知)」と、その土台となる「性教育」の重要性、そして実際に精子提供を受けて親となった当事者の声をご紹介します。
※本記事は、プライベートケアクリニック東京で非匿名精子バンクを運営する伊藤様に監修いただいています。
嘘や隠し事のない親子関係を築くための「テリング」

精子提供を通じて子どもを授かったご夫婦にとって、最も重要で、かつ最も悩むテーマが「提供を受けて生まれたという事実を、子どもにいつ、どのように伝えるか(テリング)」です。
かつてのように「伝えない」という選択ではなく、子どもの出自を知る権利を保障し、親子の間に嘘や隠し事のない関係を築くためには、子どもが幼い頃から、年齢に応じた言葉で少しずつ真実を伝えていくことが推奨されています。
第3回で触れた、同じ立場のご夫婦との交流や心理カウンセリングは、すべてこの「テリング」に向けた心の準備と環境を整えるためのものなのです。
テリングの基盤となる家庭での「性教育」の大切さ

テリングをスムーズに行うために欠かせない土台が、家庭での「性教育」です。
精子提供の事実を伝えることは、必然的に「命はどうやって生まれるのか」「家族にはいろいろな形があること」を子どもに教えることにつながります。
だからこそ、日頃から科学的で正しい生殖の知識(性教育)をフラットに話し合える親子関係ができていて初めて、子どもはドナーの存在や自身の出自を自然に受け入れることができます。
性教育は、自分と他者の心と体を大切にするための教育であり、多様な家族の形を肯定するためにも非常に重要な基盤となります。
「出自を知る権利」というギフト。当事者からのメッセージ

ここで、当事者の生の声をご紹介します。プライベートケアクリニック東京の不妊カウンセラーであり、ご自身も精子提供を受けて出産した伊藤ひろみさんから、非匿名のドナーへ向けた感謝のメッセージです。
私たち夫婦のドナーになってくださった方へ
私たち夫婦は、あなたのやさしさのおかげで親になることができました。
無精子症と診断された時、私は子どものいる人生を諦めようとしましたが、夫は精子提供を受けて私だけでも血のつながった子を一緒に育てたいと言いました。私たちは、なぜ(そこまでして)子どもを産み育てたいのか、そしてもし子どもを授かることができたらどんな親を目指し、どんな子育てをするのか、時間をかけて話し合いました。
嘘や隠し事のない親子関係を築き、子どもたちを絶対に幸せにするという覚悟を持って精子提供を決断しました。そして今、二人の子どもに恵まれ、その二人が喧嘩をしたり、ふざけて大笑いしたり、仲良くくっついて眠ったりする姿を微笑ましく眺め、日々幸せを感じています。
あなたなしでは実現できなかった人生が目の前に広がっています。
幾重もの奇跡が重なって育まれた生命の尊さを、私たちはひしひしと感じ、言葉では言い表せないほど大きな感謝の気持ちを抱いています。あなたが非匿名のドナーになって下さったおかげで、私たちは「出自を知る権利の保障」という最初のギフトを子どもたちに贈ることができました。
世の中には、このギフトを当たり前のように持つ子どももいれば、たとえ求めても永遠に得られない子どもや、全く興味を持たない子どももいます。私たちにとっては、このギフトを子どもたちに贈ることがとても重要でした。私たちはドナープロフィールを通じて、あなたがどんな人なのか、あなたの人生のほんの一部分かもしれませんが知っています。
どんな家族構成で、何をするのが好きで、なぜ精子提供を行ってくれたのか。
子どもたちに聞かれた時に堂々と伝えられることに心から感謝しています。
あなたからの提供を受けて産まれた他のご家庭の子どもたちともオンラインでつながり、面会も実現しました。この兄弟たちは、成長した子どもたちにとって大切な存在となっていくことでしょう。
あなたがしてくださったことは、きっとあなたが想像している以上に、私たちの人生をゆたかにしてくれています。親となった私たちのみならず、その周りのたくさんの人々を幸せにしてくれました。
大切な宝物を授けてくださり、本当に本当にありがとうございました。
あなたとあなたの大切な人々の幸せと健康を心から願っています。伊藤 ひろみ
おわりに

全4回にわたり、「精子提供」の現状と課題、ドナーの存在、継続的なカウンセリング、そしてテリングと性教育の重要性についてお伝えしてきました。
精子提供に関わるすべての当事者――子どもを望むご夫婦、善意のドナー、そして生まれてくる子どもたちが幸せになれるような「やさしい仕組み」が、社会全体でさらに理解され、広がっていくことを願っています。
【出典・参考文献】
- ・大野和基 著『私の半分はどこから来たのか AID(非配偶者間人工授精)で生まれた子の苦悩』朝日新聞出版(2022年)
- ・非配偶者間人工授精で生まれた人の自助グループ・長沖暁子 編著『AIDで生まれるということ 精子提供で生まれた子どもたちの声』萬書房(2014年)
- ・無精子症のご夫婦の自助グループ・すまいる親の会HP
- ・オルタナティブ・ファミリー――さまざまな形の家族と、親子にとって本当に大切なこと スーザン・ゴロンボク(著), 石渡 悠起子(翻訳), 伊藤ひろみ(監修)
記事監修
プライベートケアクリニック東京 【東京院】
日本不妊カウンセリング学会認定 不妊カウンセラー
伊藤 ひろみ
夫の無精子症により英国で非匿名ドナーから精子提供を受け、二児を出産。2019年にデンマークの精子バンク、クリオス・インターナショナルの日本事業担当ディレクターとして日本事業を立ち上げ、500名超の女性が国内で精子提供を受けることを支援した。2024年5月、プライベートケアクリニック東京にて日本初の非匿名ドナーのみを募る精子バンクを開設し、日々の運営にあたる。NPO法人日本不妊カウンセリング学会認定 不妊カウンセラー。

テーマ:
RANKING⼈気記事
KEYWORDキーワード検索
ALL TAGSタグ一覧人気のタグ
CATEGORY
会員限定記事
会員限定の記事です。
ログインしてからご覧ください。会員登録は無料です。