シリーズ 精子提供│第3回:妊娠はゴールではない。時間をかけた継続的カウンセリングの必要性

ARTICLE

2026.09.18

不妊治療

シリーズ 精子提供│第3回:妊娠はゴールではない。時間をかけた継続的カウンセリングの必要性

前回の第2回では、子どもの「出自を知る権利」を守るために、厳格な審査を経て協力するドナーの実態についてお伝えしました。今回は第3回として、精子提供を受けるご夫婦に対する「時間をかけた継続的カウンセリングの必要性」について詳しく解説していきます。

※本記事は、プライベートケアクリニック東京で非匿名精子バンクを運営する伊藤様に監修いただいています。

出産は「家族の始まり」に過ぎない


不妊治療に取り組むご夫婦にとって、「妊娠・出産」は悲願であり、最大のゴールのように感じられるかもしれません。しかし、第三者からの精子提供を受けて子どもを授かる場合、出産は決してゴールではなく、意志によってつくられた「家族の始まり」を意味します。

そのため、精子提供の仕組みを導入している一部の医療機関では、治療前から出産後、さらには育児中まで長く続く手厚い支援体制が敷かれています。

治療前から始まる、多角的な心理サポート

プライベートケアクリニック東京では、ご夫婦が治療に進むにあたり、非常に多角的なサポートが行われています。

具体的には、参考資料の共有といった「情報提供」にとどまらず、「プライベートケアクリニック東京の不妊カウンセラーによる面談」や、「不妊治療クリニックまたは外部の心理職による心理カウンセリング」が実施されます。この心理カウンセリングにおいて確認・相談される内容は多岐にわたります。

  • ・不妊の受容
  • ・夫婦関係の安定性と意見の合致
  • ・社会生活の安定性
  • ・子どもへの告知の意向と方法
  • ・ドナーの存在の受容と位置づけ


これらは単なる医療的な手続きではなく、夫婦で足並みを揃え、新しい家族を迎えるための強固な土台作りのプロセスです。

同クリニックでは、「客観的な情報提供を行い、お二人の自発的な意思決定を尊重する」ことを大切にしています。また、精子提供で親となった当事者(ピア)でもある伊藤さんが、ご夫婦の悲しみや不安に寄り添いながら、時間をかけて意思決定をサポートしています。

妊娠中・育児中も途切れない伴走支援


支援は治療前だけにとどまりません。無事に妊娠が成立した後、そして子どもが生まれ育っていく過程においても、継続的な支援が行われます。

プライベートケアクリニック東京では、妊娠中や出産後に以下のようなサポート内容が提供されます。

  • ・不妊カウンセラーによる妊娠後期面談
  • ・オンラインを中心とする勉強会・交流会
  • ・同じ立場のご夫婦とのつながりづくり
  • ・精子提供に関する話題提供
  • ・告知の体験談共有(告知イメージの具体化)

精子提供で親になるという経験は、周囲の友人や親族には気軽に相談しにくいケースが多く、ご夫婦だけで孤立してしまうリスクがあります。

だからこそ、「同じ立場のご夫婦」と繋がり、悩みを共有し合えるコミュニティの存在が大きな支えとなります。

さらに必要に応じて、外部の精神科医や臨床心理士による「心のケア」や、「お子さまへの必要に応じた心理的サポート(児童心理に詳しい心理師をご紹介)」も行える体制が整えられています。親だけでなく、生まれてきた子どもの成長に合わせたケアまでを見据えているのです。

なぜ「時間をかけたカウンセリング」が必要なのか


なぜ、これほどまでに時間をかけ、複数の専門家が関わる継続的なカウンセリングが必要なのでしょうか。

それは、生まれてくる子供に対して「出自(自分のルーツ)」をどのように伝えていくかという、非常に繊細で重要な課題が待ち受けているからです。親となるご夫婦が、ドナーの存在を心から受容し、自分たちの選択に自信を持てていなければ、子どもに真実を肯定的に伝えることはできません。

時間をかけたカウンセリングや、同じ境遇の仲間との交流、そして外部専門家との連携は、すべて「嘘や隠し事のない親子関係」を築き、子どもの知る権利に応えていくための不可欠な準備期間なのです。ご家族の理解を得て提供してくださったドナーに対する責任を果たしていく意味もあります。

最終回となる第4回では、継続的支援の最大の目的でもある「真実を伝えるテリング(告知)」と、その土台となる「性教育」の重要性、そして実際に精子提供を受けて親となった当事者の声をご紹介します。

出典・参考文献

・大野和基 著『私の半分はどこから来たのか AID(非配偶者間人工授精)で生まれた子の苦悩』朝日新聞出版(2022年)
・非配偶者間人工授精で生まれた人の自助グループ・長沖暁子 編著『AIDで生まれるということ 精子提供で生まれた子どもたちの声』萬書房(2014年)
・無精子症のご夫婦の自助グループ・すまいる親の会HP
オルタナティブ・ファミリー――さまざまな形の家族と、親子にとって本当に大切なこと スーザン・ゴロンボク(著), 石渡 悠起子(翻訳), 伊藤ひろみ(監修)

記事監修

プライベートケアクリニック東京 【東京院】

日本不妊カウンセリング学会認定 不妊カウンセラー

伊藤 ひろみ

夫の無精子症により英国で非匿名ドナーから精子提供を受け、二児を出産。2019年にデンマークの精子バンク、クリオス・インターナショナルの日本事業担当ディレクターとして日本事業を立ち上げ、500名超の女性が国内で精子提供を受けることを支援した。2024年5月、プライベートケアクリニック東京にて日本初の非匿名ドナーのみを募る精子バンクを開設し、日々の運営にあたる。NPO法人日本不妊カウンセリング学会認定 不妊カウンセラー。

RELATED ARTICLEおすすめ関連記事

テーマ:

RANKING⼈気記事

KEYWORDキーワード検索

ALL TAGSタグ一覧人気のタグ

CATEGORY

会員限定記事

会員限定の記事です。
ログインしてからご覧ください。会員登録は無料です。