知っていますか?体外受精で使用する薬剤〜採卵周期編〜

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2024.07.31

不妊治療

知っていますか?体外受精で使用する薬剤〜採卵周期編〜

不妊治療の体外受精では、採卵に向けて質の良い卵子を一定数確保するために、薬などを使って、卵巣に刺激を与えて卵子の発育を促す排卵誘発(卵巣刺激)の方法が選択されることがあります。どのような方法で、どのような薬が用いられるのでしょうか。薬剤師で国際中医専門員の住吉忍さんが解説します。

体外受精の適応と基本的な流れ

本題に入る前に、まず体外受精について簡単に説明します。適応としては、卵管が詰まっているなど正常に機能していない場合、排卵障害子宮内膜症が原因で自然妊娠が難しい場合、原因が特定できない不妊症や年齢的に早期治療が判断された場合、遺伝子的要因がある場合などに、体外受精が勧められます。

もちろん精子の問題など男性不妊も適応です。精液検査では問題ないけれど、フーナーテストで常に不良の場合も体外受精を選択するケースが多くなります。

体外受精は、基本的には排卵誘発(卵巣刺激)採卵・採精→体外受精または顕微授精→培養→移植という流れで治療が進んでいきます。今回は、採卵に向けての排卵誘発とその際に用いられる薬についてのお話です。

採卵に向けた3つの排卵誘発の方法

排卵誘発の方法は、大きく分けると、薬を使わない自然周期法、薬を使う低刺激法と高刺激法の3つです。低刺激法や高刺激法の中でもさまざまな刺激法があり、用いる薬剤や頻度、量も変わってきます。主な高刺激法として、ショート法、ロング法、アンタゴニスト法の特徴を解説していきましょう。

 

排卵誘発のショート法とは


ショート法は、排卵を抑える点鼻薬を採卵周期の月経初日から採卵日の2日前まで使用し続け、月経3日目から排卵誘発剤のhMG注射を打ち続けて複数の成熟卵胞を育てていきます。卵胞が一定の大きさに育ったら、トリガーとしてhCG注射を打って、翌々日に採卵する方法です。後述のロング法と比べて治療期間が短く、薬の使用量も少なくて済みます。ただし月経開始から排卵誘発剤の使用による刺激をスタートしていくため、排卵日をコントロールしにくい面があります。また、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクがあります。

 

排卵誘発のロング法とは

ショート法とほぼ同じですが、異なる点は、排卵を抑える点鼻薬を使い始めるタイミングで、月経が始まる1週間前から使います。早く使い始める理由は、しっかりと排卵をコントロールし、卵胞が均一に育つようにするためです。薬で完全にコントロールできる反面、排卵誘発剤などの薬を長期間使い続けるので、卵巣に負担がかかることが考えられます。年齢が高めで卵巣機能が落ちてきた方には不向きです。

排卵誘発のアンタゴニスト法とは

ショート法やロング法とは違って、排卵を抑える点鼻薬は使いません。月経3日目から注射などを用いて複数の卵子を成熟させ、ある程度大きくなったところでGnRHアンタゴニスト製剤を併用して、排卵にブレーキをかけます。卵胞がしっかり発育したら、最後にhCG注射を使って卵胞発育を完成させて採卵する方法です。ロング法に比べて排卵誘発剤の使用量が少なくて済みます。ただし、排卵抑制には個人差があり、卵胞確認のために通院の回数が増える可能性もあります。また 薬剤の費用が高額です。

採卵に向けたその他の刺激方法について

その他、黄体ホルモン剤を併用して卵巣を刺激する高刺激法のPPOS法、低用量の薬を使って少数の卵子を採取する低刺激法のマイルド法、また月経周期を気にせず始められるランダム法があります。自然周期法は、ホルモン注射を使用しない分、副作用を最小限に抑えます。

採卵で使われる薬の種類

採卵に向けた排卵誘発の際に使用される具体的な薬について、「排卵をコントロールする薬」と「LHサージを誘発する薬」に分けて説明します。

GnRHアゴニスト

GnRHアゴニストは、排卵をコントロールする点鼻薬です。商品名はスプレキュア、ナサニール。ショート法、ロング法で最初に使われます。投与初期はFSHやLHが分泌されますが、連日投与することで反応性を低下させます。

GnRHアンタゴニスト

GnRHアンタゴニストは、LHサージ抑制剤の注射です。商品名はセトロタイド、ガニレスト。GnRH受容体をブロックしてエストロゲンによりGnRHが働かないようにブロックして、計画的に排卵をコントロールします。

hCG注射

LHサージを起こす注射で、商品名は注射用hcg、オビドレル皮下注です。点鼻薬よりも確実性が高く、コストが抑えられるメリットがあります。自分で行えるので来院の必要がありません。ただしOHSSを発症する可能性も。

体外受精における漢方薬の使い方

薬に頼らず、自然周期で採卵を目指すのであれば、漢方医学では、卵子の成熟に必要な気血の充実と、五臓六腑で生殖を司る腎の陰の充実が大切だと考えます。すべての方に当てはまることではありませんが、採卵に向けては基礎体温の低温期は36.3~36.5度が理想で、代謝が良く、かつ潤っているのが望ましいと考えられています。

薬を使って排卵誘発をする場合は、ご自身の体調を整えるのはもちろんですが、採卵周期に受ける薬による刺激にしっかりと反応できるようにしていくのが大切です。低温期を安定させるために使う漢方薬としては、例えば、血流が悪ければ活血薬、腎や陰を補充する補陰薬、血が足りないのならば補血薬などの処方が考えられます。すべての方が同じではなく、それぞれの体質に応じて処方します。

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本日お話をおうかがいした方

ウィメンズ漢方

薬剤師/国際中医専門員

住吉 忍

相談薬局で生まれ育ち、薬剤師となる。自身も不妊治療を経験し、妊活、女性のヘルスケアを専門に対応するため、ウィメンズ漢方(https://ninkatsu-ayumi.com/facility/1330/)創業。複数の不妊治療専門クリニックの漢方外来を担当し、西洋医学の不妊治療に適した漢方処方の提案を得意としています。

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