【専門医解説】なぜ良好な胚を移植しても着床しないのか?難治性不妊と「免疫の壁」

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2025.09.05

不妊治療

「体外受精を繰り返しても妊娠しない…」難治性不妊、杉山産婦人科中川院長に聞く新たな選択肢

何度も体外受精に挑戦してもうまくいかない。その苦しみとストレスは、経験した人にしか分からないかもしれません。こうした「難治性不妊」について、今回は杉山産婦人科の中川浩次院長にお話を伺いました。なかなか光が見えないと感じている方々にとって、新たな希望となるかもしれません。

「難治性不妊」とは?


東尾:
何度も体外受精に挑戦してもうまくいかない、「難治性不妊」について伺います。まず、何回くらいの不成功で「難治性」と判断されるのでしょうか?


中川先生: 一つの目安として、35歳未満の方であれば、質の良い胚盤胞を2〜3回移植しても妊娠しない場合、我々は難治性不妊の可能性を考えます。35歳を超えてくると、回数だけでなく移植した胚の個数、例えば3回の移植で3〜4個を戻しても着床しない場合も同様です。


なぜ着床しないのか?見過ごされがちな「免疫」の壁


東尾:
着床しない原因はどこにあるのでしょうか?


中川先生: 大きく3つの要因、つまり「①胚因子:(受精卵の質)」「②子宮内膜:(子宮内の環境。慢性子宮内膜炎など)」「③母体の要因」が考えられます。特に見過ごされがちなのが③の母体の要因、とりわけ「免疫」です。

東尾: 免疫、ですか?

中川先生: はい。受精卵は半分がご自身のもの、半分はパートナーのものです。つまり、体にとっては「非自己(他人)」と認識される側面があります。

通常、体内にウイルスのような異物が入ると、免疫システムが働いて体外に排出しようとしますよね。

同じように、免疫の力が強すぎると、本来受け入れるべき受精卵を異物とみなして攻撃し、着床を妨げてしまうことがあるのです。 免疫のお話でいうと、患者様によく「風邪ひきやすいですか?」って聞くんですね。

東尾: 風邪をひきやすいことが関係はあるのですか?

中川先生: 大いに関係します。驚かれるかもしれませんが、「風邪をひきやすい人」の方が、外部からのものを「受け入れやすい」体質、つまり妊娠しやすい傾向があるんです。逆に、「風邪なんてほとんどひいたことがない」という免疫が強い方は、受精卵を拒絶しやすい可能性があります。拒絶が強い方に「風邪ひきます?」ときくと、決まって「ひいたことがないです」とおっしゃいます。

免疫の状態を調べて治療する

東尾:その免疫の状態は、どうすれば分かるのでしょうか?


中川先生: 血液検査(Th1/Th2検査)で調べることができます。これも一人子どもを産むことによって変わって来る人もいます。ただ、保険診療で、体外受精を受けている方は現状はできない検査です。


もし免疫による拒絶が強いと分かれば、胚移植の2日前から免疫の働きが機能しなくなる薬(タクロリムスなど)を使う治療法があります。これは妊娠判定日まで、10日ほど服用するものです。

東尾:その治療で、効果はどれくらい期待できるのですか?


中川先生: 3回で4個移植しても妊娠しなかった方々がこの治療を行ったところ、約65〜70%の方が妊娠に至るという非常に良い結果が出ています。さらに、嬉しいことに流産率が下がる傾向も見られます。


東尾:
私の望みとしては、一番最初の性感染症検査などの中にそれも含めていただきたいですね。


タクロリムスを使った先進医療の臨床試験について


東尾:
タクロリムスを使った治療は、「先進医療」としても行われていたと伺いました。そちらについても詳しく教えていただけますか?

中川先生: はい。2023年2月から2024年11月にかけて、タクロリムスを用いた先進医療の臨床試験を行いました。 これは、「3回で4個の胚移植で妊娠せず」「慢性子宮内膜炎がなく」「他の血液検査もすべて正常」という40歳以下の女性を対象にした、非常に厳密な基準の試験※でした。
※杉山産婦人科、東京医大、成育医療センター、山梨医大の4か所で実施。

その結果は、先ほどお話しした自費診療での効果と同様に、約65%という高い妊娠率を維持することができました。これにより、この治療法の有効性について、我々も非常に強い手応えを感じています。

東尾:先生、これはもどかしいですね。患者が色々な知識を付けすぎることが良くないこともあるとは思うのですが、自分の体を知るとか、選択肢を色々知るというのは大切だと思っています。
色々なご事情も踏まえながら、お話をお聞かせいただきありがとうござました。

中川先生から、体外受精を繰り返す患者様へのメッセージ


東尾:
最後に、中川先生、今まさに悩んでいる方々へメッセージをお願いします。

中川先生: 私たちは、大半の方を妊娠という結果に繋げられる方法を持っていると自負しています。諦めてしまったら、そこで終わりです。


年齢にもよりますが、40歳前後の方であれば、まだまだ可能性は十分にあります。 私たち専門医は、まるでドラえもんのポケットのように、一人ひとりの状態に合わせた様々な道具(治療法)を持っています。


どの道具をどう使うかは、我々が得意とするところです。 分からないことがあれば専門医に相談し、ご自身の体を知り、選択肢を調べてみてください。妊娠の神様は、必ず見てくれています。どうか、諦めないでください。

東尾:心強いお言葉をありがとうございました。

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本日お話をおうかがいした方

杉山産婦人科

新宿 院長

中川浩次先生

1990年3月 自治医科大学卒業
1990年5月徳島県立中央病院婦人科にて研修開始
1996年 徳島大学医学部産婦人科医員
2000年 徳島大学医学部産婦人科助手
2001年 愛媛県立中央病院産婦人科医長
2002年 国立成育医療センター不妊診療科医員
2008年 4月山産婦人科生殖医療科
2018年 1月杉山産婦人科新宿 院長 現在に至る
月経困難症に対するホルモン治療~オフィスギネコロジーと不妊クリニックを繋ぐために~
Euploid時代の着床不全対策 体外受精反復不成功(RIF)奨励に対する我々の取り組み

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