反復着床不全(RIF)の原因を探る。見えない4つの問題とは?

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2025.10.03

不妊治療

【第2話】(原因編)着床しないのはなぜ?受精卵・子宮・免疫…考えられる原因を徹底解説

第1話では、「反復着床不全」という言葉には、定義があっても年齢や移植した胚によって曖昧であることをお話いたしました。大切なのは言葉の定義に一喜一憂することではなく、「なぜ、着床しないのだろう?」という現象の裏にある、具体的な原因について知ることです。


着床は、質の良い受精卵が、準備の整った子宮内膜に出会うことで初めて成立します。反復着床不全は、このプロセスのどこかに、うまくいかない原因が隠れているサインかもしれません。

今回は【原因編】として、考えられる主な原因を「①受精卵」「②子宮」「③着床のタイミング」「④免疫」という4つの側面から、一気に解説していきます。

1. 最も大きな原因は「胚」にあった?染色体の問題


「良好な胚を移植しているのに、なぜ…」

そう思われている方がほとんどだと思います。しかし、反復着床不全(RIF)の最も頻度の高い原因は、移植する胚そのもので、特に染色体異常が主な原因です ※1。

人間の細胞には、身体を作るための設計図である染色体が、23本2対ずつ合計46本ありますが、胚の段階でこの数に過不足があると、多くの場合、着床しなかったり、着床してもすぐに成長が止まって流産や死産となります。

実は、見た目のグレードでどんなに「良好」と評価された胚盤胞であっても、染色体の数が正常であるとは限りません。そして、この染色体異数性(せんしょくたいいすうせい)が起こる確率は、特に女性の年齢と強く関係しているため、胚盤胞における染色体正数胚の割合は35歳で1/1.5個、38歳で1/2個、40歳で1/2.5個で、44歳では1/9個しか染色体正数胚がありません※2。

染色体異数性を確認する着床前スクリーニングという方法で、胚の染色体数を確認し、染色体正数胚を3回移植すると95%以上の方が妊娠することがわかっており、胚の染色体異常がRIFの主な原因であることは明らかです。


つまり、「良好胚を移植しているはずなのに着床しない」という事態の最大の理由は、目には見えない受精卵の染色体の数にあることが多い、というのが現在の医学的な考え方なのです。

2. 「子宮」は大丈夫?物理的な問題と見えない環境問題


どんなに良い受精卵があっても、子宮に問題があれば、うまく根付くことはできません。子宮の問題は、形などの「物理的な問題」と、子宮内のミクロな「環境問題」に分けられます。

【物理的な問題】

子宮の形や内部の状態に異常があると、受精卵の着床を物理的に邪魔してしまうことがあります。これらは「器質的異常」や「解剖学的異常」と呼ばれ、主に以下のようなものがあります ※4。

  • 子宮内膜ポリープ
  • 粘膜下子宮筋腫
  • 中隔子宮(ちゅうかくしきゅう)などの子宮形態異常
  • 子宮内癒着
  • 卵管留水腫(らんかんりゅうすいしゅ)

これらの異常は自覚症状がほとんどない場合も多いですが、その多くは「子宮鏡検査」という、子宮の中を直接カメラで見る検査で発見することが可能です ※4。

【子宮内膜の環境問題】

着床の舞台となる子宮内膜は、単なる「受け皿」ではありません。そのコンディションが整っている必要があります。

慢性子宮内膜炎:気づかれない「静かな炎症」

子宮内膜にじわじわと持続的な炎症が起こっている状態です。ハッキリした症状がほとんどないため、「サイレントな炎症」とも呼ばれています ※6。


反復着床不全の方の14%から、多い報告では67.5%もの高い割合で見つかるというデータがあり ※6、この炎症が着床を妨げていると考えられています ※6。


子宮内フローラ:子宮にも"善玉菌"がいた!

最近の研究で、子宮の中にもたくさんの細菌がいて、そのバランス(子宮内フローラ)が妊娠に大きく影響していることが分かってきました。


健康な子宮内膜は、善玉菌である「ラクトバチルス属」が多い状態が理想的とされています※9。このバランスが崩れると、妊娠率が低下する可能性があります。

3. 移植のタイミングは合っている?"着床の窓"の問題


子宮内膜が胚を受け入れてくれる期間は、「着床の窓(Window of Implantation)」と呼ばれ、通常妊娠できる方では4-5日間あることがわかっています ※10。ただ、不妊症の方の中にはこの着床の窓が狭かったり、ズレているケースがあることが分かってきました。

複数の研究で、反復着床不全の患者さんの約25%から30%に、この「着床の窓」のズレが見られたと報告されています ※11。

4. 身体の"ガードマン"が働きすぎ?免疫システムの問題


妊娠というのは、お母さんの身体から見ると、とても不思議な現象です。受精卵は、お父さん由来の遺伝子を半分持っているため、お母さんの免疫システムから見れば「半分は他人」です。

通常であれば、身体のガードマンである免疫は、"他人"を攻撃して排除しようとします。しかし、妊娠の時には特別な「免疫寛容」という仕組みが働き、受精卵は攻撃されずに大切に守られます ※12。

反復着床不全では、この免疫の仕組みがうまく働いていない可能性が指摘されています。

  • Th1/Th2細胞のバランス
    免疫細胞の中には、異物を攻撃する働きの強い「Th1細胞」と、その攻撃を調整する働きの「Th2細胞」がいます。妊娠を維持するためには、Th2細胞が優位な状態が望ましいとされています。


    しかし、何らかの原因で攻撃的なTh1細胞が過剰に働いてしまうと、受精卵を異物とみなして攻撃してしまい、着床不全の原因となることがあるのです ※13。

原因の探求は、希望への第一歩

今回は、反復着床不全の主な原因を解説しました。これらの原因は、どれか一つだけというよりは、複雑に絡み合っていることも少なくありません。

「原因が多すぎて、何が何だか分からない…」と感じるかもしれません。でも、大丈夫です。これらの原因が少しずつ解明されてきたことで、それらを調べるための検査法も進化しています。

医師に相談するためにも、色々な検査法がある、ということを知っておくと安心ですね。


次回予告:【検査編①】原因を見つける次の一歩。子宮鏡検査と子宮内フローラ検査でわかること

 

参照:

  • ※1: Pirtea P, de Ziegler D, Ayoubi JM. Recurrent Implantation Failure-Is It the Egg or the Chicken? Life (Basel). 2021 Dec 27;12(1):39.
  • ※2: Franasiak JM, et al. The nature of aneuploidy with increasing age of the female partner: a review of 15,169 consecutive trophectoderm biopsies evaluated with comprehensive chromosomal screening. Fertil Steril. 2014;101:656-663.e1
  • ※4: Kuroda K. Management strategies following implantation failure of euploid embryos. Reprod Med Biol. 2024 Apr 8;23(1):e12576.
  • ※6: Kimura F,et al. Review: Chronic endometritis and its effect on reproduction. J Obstet Gynaecol Res. 2019;45(5):951-960.
  • ※9: Ma, Y., et al. (2025). Immunological Aspects of Recurrent Pregnancy Loss and Recurrent Implantation Failure. International Journal of Molecular Sciences, 26(3), 1295.
  • ※10: Bergh PA, Navot D. The impact of embryonic development and endometrial maturity on the timing of implantation. Fertil Steril. 1992;58(3):537-42.
  • ※11: 京野アートクリニック. (n.d.). 子宮内膜受容能力検査(ERA).[19]; 杉山産科婦人科. (n.d.). 子宮内膜着床能(ERA)検査について.[20]
  • ※12: Saito S, Nakashima A, Shima T, Ito M. Th1/Th2/Th17 and regulatory T-cell paradigm in pregnancy. Am J Reprod Immunol. 2010;63(6):601-10.
  • ※13: Ng SC, Gilman-Sachs A, Thaker P, Beaman KD, Beer AE, Kwak-Kim J. Expression of intracellular Th1 and Th2 cytokines in women with recurrent spontaneous abortion, implantation failures after IVF/ET or normal pregnancy. Am J Reprod Immunol. 2002;48(2):77-86.

記事監修

杉山産婦人科丸の内 

院長

黒田恵司先生

2001年順天堂大学医学部卒業、同大学産婦人科学講座入局
2003年産科婦人科舘出張佐藤病院
2004年東京女子医科大学第二生理学教室体外受精・卵活性化について研究
2005年順天堂大学 産婦人科学講座助手
2007年順天堂大学院 医学博士課程 学位授与、産婦人科学講座 助教
2010年Imperial College, London Hammersmith Campus, Research fellow 子宮内膜脱落膜化について研究
2011年University of Warwick, Research fellow 原因不明不育症・着床不全について研究
2013年順天堂大学 産科婦人科学講座 准教授
2018年杉山産婦人科新宿 難治性不妊症診療部長 内視鏡診療部長
2023年杉山産婦人科丸の内 院長 現在に至る。
 資格:産科婦人科専門医、生殖医専門医、産科婦人科内視鏡技術認定医(腹腔鏡、子宮鏡)、オフィス子宮鏡手術認定医、不育症認定医
 著書:データから考える不妊症・不育症治療, メジカルビュー社
エビデンスで答える女性診療で必要な栄養素・サプリメントの知識90, メジカルビュー社
Treatment Strategy for Unexplained Infertility and Recurrent Miscarriage, Springer社など

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