反復着床不全(RIF)ってなに?〜繰り返す陰性判定の原因と向き合い方〜

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2025.09.26

不妊治療

【第1話】何度も体外受精がうまくいかない。もしかして反復着床不全?

良好な胚を移植しても、繰り返される陰性判定。期待と落胆のサイクルに、心がすり減るような思いをしていませんか?

「なぜ自分だけ…」と自分を責めたり、先の見えない不安に押しつぶされそうになったり。そんな辛い状況にいるかもしれません。

体外受精で、良好な胚を繰り返し移植しても妊娠に至らないこの状態は、「反復着床不全(Recurrent Implantation Failure: RIF)」と呼ばれています。

この言葉を初めて聞いた方も、すでにご自身の状況として向き合っている方もいるかもしれません。これは決して珍しいことではなく、不妊治療を進めるカップルの約10組に1組が直面する課題だと言われています ※1。

しかし、このRIFという状態は、精神的な負担が非常に大きく、治療を続ける気力を奪ってしまうほどの大きな壁として立ちはだかります ※2。この連載では、「反復着床不全」について複数回にわたってお届けします。まず今回は、「反復着床不全って、そもそも何?」という基本のキから見ていきましょう。

1. 「反復着床不全」って、どういう状態のこと?


「反復着床不全(RIF)」という言葉は、不妊治療、特に体外受精(IVF)を受ける中で耳にすることがあるかもしれません。

世界で最も大きな生殖医療の学会であるESHREでは、RIFは「着床可能と考えられる胚を十分な回数移植しても妊娠しない状態」とされ、その十分な回数は、推定累積妊娠率が60%以上になる回数と定義しています。

反復着床不全、日本での判断の目安とは?

10年以上前ではRIFは、「40歳未満の女性が、質の良い受精卵(良好胚)を3回以上、合計で4個以上移植しても、妊娠が成立しない場合」※3とと定義されていました。

しかし患者の年齢や移植した胚によって妊娠率は大きく異なるため、推定累積妊娠率が60%以上となる胚移植回数の目安は、日本産科婦人科学会の本邦のデータから計算すると、40歳未満は2-3回、40-42歳は3-4回、43歳以上は5回以上でRIFとなります。

2. なぜ、お医者さんによって言うことが違うの?


「前のクリニックでは何も言われなかったのに、転院したら『反復着床不全の検査をしましょう』と言われた」そんな経験をした方もいるかもしれません。なぜ、こんなにも定義がバラバラなのでしょうか。

海外の専門家の間では、この状況を「a profusion of confusion(大いなる混乱)」と表現されることさえあります ※5。定義が一つに定まらない背景には、いくつかの理由が複雑に絡み合っています。

評価する基準が違うから

「失敗した移植の回数」を重視するのか、「移植した胚の合計個数」を重視するのか、専門家の間でも意見が分かれています ※6。

「良い胚」の基準もさまざまだから

私たちが「グレードの良い胚」と聞く評価は、あくまで顕微鏡で見た「形」の評価です。見た目が良くても、着床できる力を持っているかどうかは、また別の話なのです。

一人ひとり状況が違うから

女性の年齢、不妊の原因、治療で使うお薬の種類など、患者さんの背景は千差万別です。そのため、すべての人に当てはまるたった一つの基準を作るのが、とても難しいのです。

この「定義のあいまいさ」は、私たち患者にとって大きな不安の原因になります。さらに、医学研究を進める上でも大きな壁となっています。研究ごとにRIFの基準が違うと、どの治療法が本当に効果があるのかを正しく比べることができなくなってしまうのです。

「反復着床不全」という言葉に、とらわれすぎないで


今回、一番お伝えしたかった大切なポイント。それは、もしあなたが医師から「反復着床不全ですね」と言われたり、ご自身でそう感じたりしていても、その言葉の定義自体に幅があるという事実です。

その言葉にショックを受けたり、自分を責めたりする必要はまったくありません。

大切なのは、「なぜ、着床に至らないのだろう?」という現象の裏に隠れているかもしれない、具体的な原因について知ることです。

次回予告:【原因編】着床しないのはなぜ?受精卵・子宮・免疫…考えられる原因を徹底解説


参照:

  • ※1: Ma, Y., Gao, L., & Li, Y. (2023). Recurrent implantation failure: A comprehensive summary from etiology to treatment. Frontiers in Endocrinology, 13, 1061766.
  • ※2: Ma, Y., et al. (2025). Immunological Aspects of Recurrent Pregnancy Loss and Recurrent Implantation Failure. International Journal of Molecular Sciences, 26(3), 1295.; Merckgroup. (2021). 第6回「妊活®/子育てに関する意識と実態調査」.
  • ※3: Coughlan C, et al. Recurrent implantation failure: definition and management. Reprod Biomed Online. 2014;28(1):14-38.
  • ※5: Garneau, A. S., & Young, S. L. (2021). Defining recurrent implantation failure: a profusion of confusion or simply an illusion?. Fertility and Sterility, 116(6), 1432–1435.
  • ※6: Coughlan, C., Ledger, W., Wang, Q., Liu, F., Demirol, A., Topdagi, O.,... & Li, T. C. (2014). Recurrent implantation failure: definition and management. Reproductive biomedicine online, 28(1), 14–38.

記事監修

杉山産婦人科丸の内 

院長

黒田恵司先生

2001年順天堂大学医学部卒業、同大学産婦人科学講座入局
2003年産科婦人科舘出張佐藤病院
2004年東京女子医科大学第二生理学教室体外受精・卵活性化について研究
2005年順天堂大学 産婦人科学講座助手
2007年順天堂大学院 医学博士課程 学位授与、産婦人科学講座 助教
2010年Imperial College, London Hammersmith Campus, Research fellow 子宮内膜脱落膜化について研究
2011年University of Warwick, Research fellow 原因不明不育症・着床不全について研究
2013年順天堂大学 産科婦人科学講座 准教授
2018年杉山産婦人科新宿 難治性不妊症診療部長 内視鏡診療部長
2023年杉山産婦人科丸の内 院長 現在に至る。
 資格:産科婦人科専門医、生殖医専門医、産科婦人科内視鏡技術認定医(腹腔鏡、子宮鏡)、オフィス子宮鏡手術認定医、不育症認定医
 著書:データから考える不妊症・不育症治療, メジカルビュー社
エビデンスで答える女性診療で必要な栄養素・サプリメントの知識90, メジカルビュー社
Treatment Strategy for Unexplained Infertility and Recurrent Miscarriage, Springer社など

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