【医師監修】反復着床不全の検査(子宮鏡・子宮内フローラ)とは?
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妊活お役立ち情報
第2話では、反復着床不全の考えられる様々な原因について見てきました。胚の質、子宮の形、そして子宮内のミクロな環境まで、着床を妨げる要因は多岐にわたります。
「原因は分かったけれど、自分の場合はどれに当てはまるの?」
そう思われた方も多いでしょう。ここからは、原因を探るための具体的な検査について、2回に分けて詳しく解説していきます。
まず子宮の中を直接観察する「子宮鏡検査」と、子宮内の細菌環境を調べる「子宮内フローラ検査」に焦点を当てます。
1. 子宮の中を直接チェック!「子宮鏡検査」

子宮鏡検査(ヒステロスコピー)は、反復着床不全(RIF)の原因を探る上で、非常に基本的で重要な検査の一つです ※1。
これは、先端にカメラが付いたとても細い管(子宮鏡)を子宮の入り口から挿入し、子宮の内部を直接モニターで観察するものです。
この検査の最大のメリットは、超音波検査では見つけにくいような、ごく小さな異常も発見できる点です。
【子宮鏡検査でわかること】
- 物理的な問題(第2話で解説):子宮内膜ポリープ、粘膜下子宮筋腫、中隔子宮、子宮内の癒着など、胚の着床を物理的に邪魔する原因がないかを正確に診断できます ※2。
- 慢性子宮内膜炎のサイン(第2話で解説):慢性子宮内膜炎に特徴的とされる、内膜の赤みや「マイクロポリープ」と呼ばれる小さなポリープの多発といった所見を、目で見て確認することができます ※3。
多くの場合、外来で比較的短時間で終わる検査であり、着床の”土台”となる子宮の状態を正確に把握するための、最初のステップとして多くのクリニックで推奨されています。
2. 子宮内の細菌バランスを調べる「子宮内フローラ検査」

第2話で、子宮内にも細菌がいて、そのバランス(子宮内フローラ)が着床環境に影響することをお話ししました。この目に見えない細菌の世界を、遺伝子レベルで詳しく調べるのが「子宮内フローラ検査」です。
この検査は、子宮内膜の組織などを少量採取し、その中にどんな細菌が、どのくらいの割合でいるのかを次世代シークエンサー(NGS)という高度な技術で解析します。
この分野の検査としては、アイジェノミクス社が提供するEMMA/ALICE検査や、国内企業であるVarinos株式会社が世界に先駆けて実用化した子宮内フローラ検査などが知られています ※4。
これらの検査では、「ラクトバチルス属菌(善玉菌)が90%以上の方の体外受精での出産率が有意に高い」という2016年の研究報告を一つの基準としています ※5。
しかし、子宮内細菌叢が体外受精で妊娠へ影響しない報告も多く、またRIFの女性と健常女性の子宮内ラクトバチルス属菌の割合がともに、55%-60%と以前の報告より低く、かつ2群に有意差がないことも報告されており、現在も議論があります。
- EMMA検査、子宮内フローラ検査:子宮内にいる細菌叢全体を調べ、善玉菌である「ラクトバチルス属菌」が、多いのかを明らかにします。
- ALICE検査:よりターゲットを絞り、慢性子宮内膜炎の原因となることが知られている特定の病原菌がいるかどうかを検出します ※7。ただし慢性子宮内膜炎の診断はできません。
これらの検査によって、もし問題が見つかった場合、抗生剤やプロバイオティクス(ラクトバチルスを含むサプリメント)を用いるなど、的を絞った治療へとつなげることができます。
原因の特定が、治療への近道
今回は、RIFの原因を探るための基本的な検査として、「子宮鏡検査」と「子宮内フローラ検査」をご紹介しました。
子宮鏡で物理的な問題がないかを確認し、子宮内フローラ検査で子宮内のミクロな環境を整える。これらの検査は、これまでの記事で解説してきた原因を具体的に特定し、一人ひとりに合った治療法を見つけるための重要な手がかりとなります。
原因が分かれば、闇雲に治療を繰り返すのではなく、より確かな一歩を踏み出すことができます。
【次回予告】
第4話:【検査編②】受精卵を調べるPGT-A、最適な移植時期を探るERA検査。受けるべき?
次回は「検査編」の後半です。近年注目されている、より先進的な検査である「PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)」と「ERA(子宮内膜受容能検査)」について、そのメリットだけでなく、専門家の間でも議論されている点も含めて、深く掘り下げていきます。
参照:
- ※1: Cao H, You D, Yuan M, et al. Hysteroscopy after repeated implantation failure of assisted reproductive technology: A meta-analysis. J Obstet Gynaecol Res 2018;44:365-73.
- ※2: Bosteels J, Kasius J, Weyers S, et al. Hysteroscopy for treating subfertility associated with suspected major uterine cavity abnormalities. Cochrane Database Syst Rev. 2015:CD009461.
- ※3: Cicinelli E, Resta L, Nicoletti R, et al. Detection of chronic endometritis at fluid hysteroscopy. J Minim Invasive Gynecol. Nov-Dec 2005;12(6):514-8.
- ※4: Varinos株式会社. (n.d.). 子宮内フローラ検査.; アイジェノミクス. (n.d.). EMMA/ALICE検査.
- ※5: Moreno I, Codoñer FM, Vilella F, Valbuena D, Martinez-Blanch JF, Jimenez-Almazán J, Alonso R, Alamá P, Remohí J, Pellicer A, Ramon D, Simon C. Evidence that the endometrial microbiota has an effect on implantation success or failure. Am J Obstet Gynecol. 2016;215(6):684-703.
- ※6: Moreno I, et al. Am J Obstet Gynecol. 2016.
- ※7: アイジェノミクス. (n.d.). EMMA/ALICE検査.
記事監修
杉山産婦人科丸の内
院長
黒田恵司先生
2001年順天堂大学医学部卒業、同大学産婦人科学講座入局
2003年産科婦人科舘出張佐藤病院
2004年東京女子医科大学第二生理学教室体外受精・卵活性化について研究
2005年順天堂大学 産婦人科学講座助手
2007年順天堂大学院 医学博士課程 学位授与、産婦人科学講座 助教
2010年Imperial College, London Hammersmith Campus, Research fellow 子宮内膜脱落膜化について研究
2011年University of Warwick, Research fellow 原因不明不育症・着床不全について研究
2013年順天堂大学 産科婦人科学講座 准教授
2018年杉山産婦人科新宿 難治性不妊症診療部長 内視鏡診療部長
2023年杉山産婦人科丸の内 院長 現在に至る。
資格:産科婦人科専門医、生殖医専門医、産科婦人科内視鏡技術認定医(腹腔鏡、子宮鏡)、オフィス子宮鏡手術認定医、不育症認定医
著書:データから考える不妊症・不育症治療, メジカルビュー社
エビデンスで答える女性診療で必要な栄養素・サプリメントの知識90, メジカルビュー社
Treatment Strategy for Unexplained Infertility and Recurrent Miscarriage, Springer社など
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