ラクトバチルスが鍵?「着床不全」と子宮内フローラの関係とは?
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妊活お役立ち情報
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「良好な受精卵を移植しているのに、なぜか着床しない…」。原因不明の反復着床不全(RIF)に悩む方にとって注目したいのが、近年研究が進められている「子宮内フローラ」です。
これまで無菌だと考えられてきた子宮内にも、腸内と同じように細菌の生態系が存在し、そのバランスが着床に深く関わっていることが分かってきました。今回は、子宮内フローラがなぜ注目されているのか、その理由と、着床との関係についてお届けします。
腸内フローラではなく、子宮内フローラとは?

よく、腸内フローラという言葉は耳にしますが、子宮内フローラは聞きなれないのではないでしょうか。子宮内フローラとは、子宮内に存在する細菌の集まり(細菌叢:さいきんそう)のこと。そして、その健康状態は、ある特定の善玉菌と悪玉菌がどのくらいいるかで決まります。
1.妊娠・出産に大切な子宮内の善玉菌「ラクトバチルス」
研究により、妊娠・出産において、子宮内の善玉菌である「ラクトバチルス属」の菌が重要な役割を果たしていることがわかってきています。
この「属」というのは生物の分類におけるグループ名のようなもので、「ラクトバチルス属」という大きなグループの中に、クリスパタス菌やガセリ菌といった、様々な種類の善玉菌が含まれています。このラクトバチルスが優位な状態が、いわば「着床に適した子宮環境」と言えます。
2. 子宮を守る、ラクトバチルスの働き
ラクトバチルスは、以下の3つの働きで、子宮内を妊娠に適した環境に保っています。
- 乳酸の産生:乳酸を作り出し、子宮内を酸性に保つことで、悪玉菌の侵入や増殖を防ぎます。
- 過酸化水素の産生:天然の消毒液ともいえる過酸化水素(H₂O₂)を作り出し、雑菌を抑制します。
- 免疫の調整:妊娠の成立には「免疫寛容」という精子や受精卵などを母体外から来たものを受け入れる状態が必要となります。しかし、悪玉菌が増殖すると、免疫が活性化し、精子や受精卵も異物として攻撃してしまいます。ラクトバチルスはこの免疫寛容という状態を作り出す手助けをしています。
3. ディスバイオシス(菌のバランスの乱れ)が着床を妨げる
何らかの原因で、善玉菌ラクトバチルスが減少し、悪玉菌が増えるなどバランスが崩れてしまった状態を「ディスバイシス」と呼びます。この状態になると、子宮内が着床しにくい環境になってしまいます。
だからこそ、子宮内のラクトバチルスを増やし、優位な状態に保つことが、妊娠の確率を高める上で重要だと考えられているのです。
【論文から見る】ラクトバチルスの割合と、妊娠・出産率の驚くべき関係

子宮内フローラの状態が、妊娠・出産の結果にどれほど大きな影響を与えるか。それを明確に示したのが、2016年にスペインで行われた画期的な研究です。体外受精を受ける女性の子宮内フローラを調べ、ラクトバチルスの割合で2つのグループに分け、その後の妊娠成績を比較しました。*1
その結果が、こちらの表です。
| 比較項目 | ラクトバチルスが90%以上 | ラクトバチルスが90%未満 |
|---|---|---|
| 妊娠率 | 60.7% | 23.1% |
| 出産率 | 58.8% | 6.7% |
| 流産率 | 13.3% | 60.0% |
このように、出産率に約9倍もの差をつけたという結果となり、衝撃を与えました。つまり、この論文からわかることは、子宮内がラクトバチルスで満たされているかどうかが、妊娠・出産に至る確率を大きく左右する重要な因子である、ということです。
ラクトバチルスの減少が招く「慢性子宮内膜炎」のリスク

子宮内フローラの乱れが引き起こす問題の中で、不妊治療において特に重要視されているのが「慢性子宮内膜炎」です。これは、子宮内膜が細菌感染等によって、軽い炎症を慢性的に起こしている状態です。
1. 慢性子宮内膜炎は、着床を妨げる”壁”
炎症が起きている子宮内膜は、免疫が常に戦闘モードにあり、受精卵を”異物”とみなして攻撃してしまうため、着床の大きな妨げとなります。実は、不妊女性の最大30%、反復着床不全の患者では最大66%が、この慢性子宮内膜炎に罹患しているという報告もあります。*2
2. 慢性子宮内膜炎の原因として多い細菌感染
慢性子宮内膜炎は、 様々な原因が考えられますが、原因として多いものに「細菌感染」があります。
主にラクトバチルスが減少し、ガードが手薄になった子宮内で、大腸菌やエンテロコッカスをはじめとする悪玉菌が増殖することによって引き起こされると考えられています。
着床しない。まずは子宮内フローラを調べて対策しよう!

では、どうすれば自分の状態を知り、改善を目指せるのでしょうか。現在、専門のクリニックで行われているアプローチをご紹介します。いずれも、必ず医師との相談が必要です。
1. 自分の状態を知る:子宮内フローラ・慢性子宮内膜炎検査
自分の子宮内の菌環境をするための検査には、先進医療(保険診療と併用可能なもの)として認められている検査がいくつかあります。
各社検査会社の解析方法や結果として分かる内容が異なるため、医師と相談の上、適切なものを受検されると良いでしょう。以下のページ「第2項先進医療【先進医療A】 (27種類) 」の「子宮内細菌叢検査」で調べると、どのような検査なのか知ることができます。
〇厚労省ページ
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/kikan03.html
お住まいの地区や医療機関の先進医療認定状況にもよりますが、補助金がおりる場合もあるため、一度お住まいの市町村や、通院されている医療機関で調べてみることをおすすめします。
2. 一般的な治療・改善のアプローチ
検査結果と、これまでの所見など総合的な観点から、医師の判断の元、以下のような治療や改善策がとられます。
- 抗生薬による原因菌の除菌:慢性子宮内膜炎の原因となる悪玉菌が特定された場合、まずは抗生薬で除菌治療を行うのが一般的です。
- ラクトバチルス(プロバイオティクス)の補充:抗生剤治療の後や、ラクトバチルスの割合が低い場合には、善玉菌を増やすために、ラクトバチルス菌を含む腟錠(腟坐薬)を直接、腟内に投与する治療が行われることがあります。
- ラクトフェリン(プロバイオティクス)の活用:ラクトフェリンは、悪玉菌が増殖の際必要とする「鉄」と結合する働きがあるため、悪玉菌から鉄を奪うことで、悪玉菌の増殖を抑え、間接的に善玉菌であるラクトバチルスの増殖を応援する働きがあるとされています。経口サプリメントとして、摂取する方法も補助的に用いられることがあります。

子宮内フローラのまとめ
今回は、着床の鍵ともなる「子宮内フローラ」について解説しました。
-
妊娠・出産においては、子宮内の菌環境として、善玉菌「ラクトバチルス」が90%以上占めている状態が良いとされている
-
この菌のバランスの乱れが、着床不全や慢性子宮内膜炎の原因となり得る。
- 検査で自身の状態を知り、医師の指導のもとで改善を目指すことができる。
もしあなたが、原因不明の着床不全に長く悩んでいるのであれば、一度、かかりつけの医師に「子宮内フローラについて相談したいのですが」と、切り出してみてもいいかもしれません。
参考文献
- *1 Moreno, I., et al. "Evidence that the endometrial microbiota has an effect on implantation success or failure." American journal of obstetrics and gynecology 215.6 (2016): 684-703.
DOI: 10.1016/j.ajog.2016.09.075 / URL: https://www.ajog.org/article/S0002-9378(16)30723-X/fulltext - *2 Kitaya, K., T. Takeuchi, and T. Mizuta. "Chronic endometritis: potential cause of infertility and obstetric and neonatal complications." American journal of reproductive immunology 75.1 (2016): 13-22.
DOI: 10.1111/aji.12438 / URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/aji.12438
記事監修
varinos株式会社
妊娠・着床の成功率に影響すると言われている“子宮内の菌環境”を調べる『子宮内フローラ検査』を世界で初めて独自開発・実用化。今後は、がんや新生児疾患などへ領域を広げ、診断や治療方針にゲノム情報を活用するゲノム医療の社会実装を目指す。https://varinos.com/

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