反復着床不全の治療法とは?原因別治療から補助療法まで医師が徹底解説

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2025.10.24

不妊治療

【第5話】【治療編】希望につなぐ治療法。エビデンスに基づいた選択肢を医師が解説

全5回にわたってお届けしてきた「反復着床不全」シリーズも、いよいよ最終回を迎えました。これまでの記事で、その定義から多岐にわたる原因、そして原因を探るための様々な検査について解説してきました。

原因やご自身の体の状態がわかってきたら、次に見えてくるのは「では、どうすればいいのか?」という治療のステップです。

最終回となる今回は「治療編」として、これまでの検査で原因が特定できた場合の治療法や、原因がはっきりしない場合でも着床をサポートするために行われる様々な治療法について、科学的根拠(エビデンス)に基づいて解説します。

1. 原因が特定できた場合の治療法


これまでの検査で着床を妨げている原因が見つかった場合、その原因に直接アプローチする治療が第一の選択肢となります。

子宮内病変に対する子宮鏡手術

子宮鏡検査で子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫、子宮内の癒着などが見つかった場合は、子宮鏡を使った手術でこれらを取り除きます。着床を物理的に妨げている原因を取り除くことで、着床環境の改善が期待できます。

卵管留水腫に対する腹腔鏡手術

卵管の遠位端が閉塞した卵管留水腫があると、卵管の中の内容液が胚へ影響して着床を邪魔するため、腹腔鏡手術で卵管を切断することで妊娠成績の向上が期待できます。

慢性子宮内膜炎(CE)の治療

検査で慢性子宮内膜炎と診断された場合、最も標準的な治療は抗生物質の内服です ※1。一般的にはドキシサイクリンなどが処方され、治療後に再度検査をして炎症が治まっているかを確認します。


ただ子宮内病変として子宮内膜ポリープと併発するCEは抗生剤より子宮鏡手術を行った方が改善率が高く、かつ術後の妊娠率が高いことがわかっています。そのため子宮鏡検査で子宮内病変があれば、手術を優先することを推奨します。


また複数の研究で、慢性子宮内膜炎を適切に治療することで、その後の妊娠率や出産率が、炎症がなかった方と同レベルまで改善することが報告されており、エビデンスが比較的確立された治療法の一つです ※2。

免疫の働きを調整する治療

血液検査で免疫系が過剰に働いている可能性が示された場合、その働きを調整する治療が検討されます。


例えば、ビタミンDが低値だと母体からの胚への攻撃性を高めるTh1細胞値が上がりTh1/Th2細胞比が上昇し、サプリメントでビタミンDを正常化することで、Th1細胞値およびTh1/Th2細胞比が低下することがわかっています


また免疫抑制剤の一種であるタクロリムスを用いて、Th1細胞の働きを抑え、バランスを整える治療法もあります ※3。また、免疫グロブリン大量療法といって、免疫グロブリン製剤を点滴する治療法が応用されることもありますが、非常に高額な治療法です ※4。


子宮内フローラの改善

EMMA検査や子宮内フローラ検査で善玉菌であるラクトバチルス属菌の減少が指摘された場合は、プロバイオティクス(ラクトバチルスを含むサプリメント)を用いて、子宮内の細菌環境を整える治療が行われます



2. 原因不明の場合や、さらなるサポートとしての治療


様々な検査をしても明確な原因が特定できない場合や、上記の治療に加えてさらなる着床率の向上を目指す場合に、以下のような補助的な治療法が提案されることがあります。

  • アシステッドハッチング(孵化補助法)

    胚は透明帯という殻を自分で破って(ハッチングして)から子宮内膜に着床します。このハッチングを助けるために、移植前にレーザーなどで透明帯の一部を薄くしたり、穴を開けたりして着床をサポートする技術です。特に、凍結した胚を融解して移植する場合に有効です ※5。


  • ヒアルロン酸含有培養液

    ヒアルロン酸は子宮内膜への胚の接着において、非常に重要な因子です。胚移植の前にヒアルロン酸を多く含んだ培養液につけてから胚移植をすることで、着床率を上げる可能性があります。


  • 子宮内膜スクラッチ

    胚移植を行う前の周期に、細い器具で子宮内膜をスクラッチする方法です。この刺激によって内膜が修復される過程で、着床を助ける物質が放出され、胚が着床しやすくなる可能性があります。RIFの既往があれば妊娠成績を向上する可能性がありますが、否定的な報告もあり現在も議論があります。


  • PRP(多血小板血漿)療法

    ご自身の血液から、組織の修復などを促す成長因子が豊富な「血小板」を濃縮して取り出し(PRP)、それを子宮内に注入する治療法です。PRPの働きによって、子宮内膜を厚くしたり、着床しやすい状態にしたりする効果が期待されています。


    特に子宮内膜が薄い方やRIFの既往がある場合に効果が期待できます※6日本では「再生医療」に位置付けられ、厚生労働省に届出・受理された医療機関でのみ実施可能で、かつ基本高額な治療です。


  • 生活習慣の改善

    これまでの記事でも触れてきましたが、肥満の是正、禁煙、ストレス管理といった生活習慣の見直しは、すべての治療の土台となります。特定の治療法だけに頼るのではなく、ご自身の身体全体のコンディションを整えることが、妊娠への近道となる可能性があります ※7。


    また着床は子宮内膜に一過性に炎症反応が起こり、胚が浸潤していきます。その一過性の炎症を抑制するサプリメントや薬を使うことで妊娠率が低下することがあります。


    例えば、頭痛があって鎮痛剤を使っていたり、低用量アスピリンやアンチエイジングにかかわるサプリメントを使っても妊娠率が低下する可能性があります。


    なかなかうまくいかないといろいろなサプリメントを独自にはじめている方もいるかもしれませんが、それらが妊娠率を低下することもありますので、お気を付けください。

希望を持って、あなたらしい一歩を

全5回にわたり、反復着床不全について解説してきました。原因から検査、そして治療まで、多くの情報に触れ、頭がいっぱいになっているかもしれません。

大切なのは、これらの情報を知識として持った上で、主治医の先生と深く対話することです。

  • 「私の場合は、どの原因の可能性が高いでしょうか?」
  • 「この検査をすることで、何が分かり、何が分かりませんか?」
  • 「この治療法のメリットと、私たちの状況におけるデメリットを教えてください」

RIFであっても着床を阻害する問題点、特に子宮内環境や免疫異常が見つかれば、若年の方であれば大半の方が体外受精で妊娠できますし、高齢の場合でもPGT-Aを併用することで妊娠・出産までたどり着けることがわかっています。このシリーズで得た知識が、夫婦で納得して、次の一歩に繋がれば幸いです。


参照:

  • ※1: Kitaya K, et al. Live birth rate following oral antibiotic treatment for chronic endometritis in infertile women with repeated implantation failure. Am J Reprod Immunol. 2017;78:e12719.
  • ※2: Vitagliano A, Laganà AS, De Ziegler D, Cicinelli R, Santarsiero CM, Buzzaccarini G, Chiantera V, Cicinelli E, Marinaccio M. Chronic Endometritis in Infertile Women: Impact of Untreated Disease, Plasma Cell Count and Antibiotic Therapy on IVF Outcome-A Systematic Review and Meta-Analysis. Diagnostics (Basel). 2022;12(9):2250. Liu J, Liu ZA, Liu Y, Cheng L, Yan L. Impact of antibiotic treatment for chronic endometritis on pregnancy outcomes in women with reproductive failures (RIF and RPL): A systematic review and meta-analysis. Front Med (Lausanne). 2022;9:980511.
  • ※3: Nakagawa K, Kwak-Kim J, Ota K, et al. Immunosuppression with Tacrolimus Improved Reproductive Outcome of Women with Repeated Implantation Failure and Elevated Peripheral Blood Th1/Th2 Cell Ratios. Am J Reprod Immunol. 2015;73:353-361.
  • ※4: Winger EE, Reed JL, Ashoush S, El-Toukhy T, Ahuja S, Taranissi M. Degree of TNF-α/IL-10 cytokine elevation correlates with IVF success rates in women undergoing treatment with Adalimumab (Humira) and IVIG. Am J Reprod Immunol. 2011;65:610-618.
  • ※5: Lacey L, Hassan S, Franik S, Seif MW, Akhtar MA. Assisted hatching on assisted conception (in vitro fertilisation (IVF) and intracytoplasmic sperm injection (ICSI)). Cochrane Database Syst Rev. 2021;3(3):CD001894.
  • ※6: Hajipour H, Farzadi L, Latifi Z, Keyhanvar N, Navali N, Fattahi A, Nouri M, Dittrich R. An update on platelet-rich plasma (PRP) therapy in endometrium and ovary related infertilities: clinical and molecular aspects. Syst Biol Reprod Med. 2021;67(3):177-188.
  • ※7: Ma, Y., Gao, L., & Li, Y. (2023). Recurrent implantation failure: A comprehensive summary from etiology to treatment. Frontiers in Endocrinology, 13, 10

記事監修

杉山産婦人科丸の内 

院長

黒田恵司先生

2001年順天堂大学医学部卒業、同大学産婦人科学講座入局
2003年産科婦人科舘出張佐藤病院
2004年東京女子医科大学第二生理学教室体外受精・卵活性化について研究
2005年順天堂大学 産婦人科学講座助手
2007年順天堂大学院 医学博士課程 学位授与、産婦人科学講座 助教
2010年Imperial College, London Hammersmith Campus, Research fellow 子宮内膜脱落膜化について研究
2011年University of Warwick, Research fellow 原因不明不育症・着床不全について研究
2013年順天堂大学 産科婦人科学講座 准教授
2018年杉山産婦人科新宿 難治性不妊症診療部長 内視鏡診療部長
2023年杉山産婦人科丸の内 院長 現在に至る。
 資格:産科婦人科専門医、生殖医専門医、産科婦人科内視鏡技術認定医(腹腔鏡、子宮鏡)、オフィス子宮鏡手術認定医、不育症認定医
 著書:データから考える不妊症・不育症治療, メジカルビュー社
エビデンスで答える女性診療で必要な栄養素・サプリメントの知識90, メジカルビュー社
Treatment Strategy for Unexplained Infertility and Recurrent Miscarriage, Springer社など

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