知っていますか?体外受精に使われる薬について~PPOS編~
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妊活お役立ち情報
2024.10.09
不妊治療
知っていますか?体外受精に使われる薬について~PPOS編~
不妊治療の体外受精では、採卵に向けて質の良い卵子を一定数確保するために、薬などを使って、卵巣に刺激を与えて卵子の発育を促す排卵誘発(卵巣刺激)の方法が選択されることがあります。
そのひとつPPOS法とは、どのような方法で、どのような薬が用いられるのでしょうか。薬剤師で国際中医専門員の住吉忍さんが解説します。
体外受精での排卵誘発
体外受精は、次のような場合に勧められます。
- 卵管が詰まっているなど正常に機能していないとき
- 排卵障害や子宮内膜症が原因で自然妊娠が難しいとき
- 男性不妊
- 原因が特定できない不妊
- 遺伝子的要因
- 年齢的に早期治療が判断されたとき
基本的な治療の流れは、採卵に向けて、まず排卵誘発で卵巣を刺激していきます。
卵子が成熟したら、採卵・採精→体外受精または顕微授精→培養→移植という流れで進んでいきます。
排卵誘発の方法はさまざまです。主に高刺激法としてショート法、ロング法、アンタゴニスト法、PPOS法、低刺激法のマイルド法やランダム法、自然周期法などがあります。そして今回は、PPOS法について説明します。
排卵誘発のPPOS法とは
PPOSとは「Progestin-primed Ovarian Stimulation」の略で、黄体ホルモン併用卵巣刺激法と呼ばれます。
排卵誘発のなかでも比較的新しい方法で、黄体ホルモン剤(プロゲスチン製剤)を併用して内因性のLHサージをコントロールしながら、卵巣を刺激する方法です。
具体的には、月経3日目頃から、hMG製剤もしくはFSH製剤を連日投与して卵巣刺激を行い卵胞をしっかりと育てると同時に、プロゲスチン製剤も連日服用します。
そしてHCGまたは点鼻薬でLHサージを起こし、適切なタイミングで採卵します。
PPOS法のメリット、デメリットとは?
PPOS法のメリットは、次の通りです。
- 採卵まで排卵がコントロールできる
- 他の誘発よりも費用が安い
- 治療期間が短い
- 通院回数が少ない
- OHSS(卵巣過剰刺激症候)のリスクを抑えられる
このようにPPOS法には多くのメリットがあります。
一方、PPOS法のデメリットとして挙げるならば、新鮮胚移植ができないことが難点です。
PPOS法は、低温期にプロゲスチン製剤を用いるため、採卵後の子宮は着床に適さない状態になります。そのため採卵と同じ周期に胚移植はできません。良好胚は凍結保存され、次回以降の周期に胚移植することになります。
PPOS法で使われる排卵誘発の注射剤
PPOS法で使われる薬剤について説明しましょう。
まず排卵誘発に使われるhMG製剤やFSH製剤についてです。いずれも注射剤になります。
hMG製剤は、ヒト閉経期女性の尿から抽出されるホルモン剤です。基本的に、hMG製剤には、FSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)が含まれています。
FSHとLHのバランスが崩れている場合、両方のホルモンを作用させ複数の卵胞を効果的に成長させたい場合などに選択されます。
FSH製剤は、純粋なFSHのみを含んでいます。卵胞の成長を直接刺激するものです。ホルモンバランスが正常でLHの補充を必要としていない場合は、こちらを選択することが多くなります。
hMG製剤とFSH製剤の使い分けは、患者さん個々の状態、治療の目的や進行によって、医師が反応などを見ながら適切に判断、選択します。
PPOS法でLHサージを抑制する飲み薬
続いて、黄体ホルモン剤(プロゲスチン製剤)についてです。
PPOS法では、前述の排卵誘発の注射剤とともに、月経3日頃から飲み薬のプロゲスチン製剤も連日服用します。
使用される薬には、ルトラール(クロルマジノン)、デュファストン(ジドロゲステロン)、プロベラとヒスロン(メドロキシプロゲステロン)があります。
これらの薬は、LHサージを抑制する効果が期待できるため、適切なタイミングでの卵子採取を可能にします。
またOHSS発症のリスクを軽減する目的でも使われます。OHSSは、重篤になると入院が必要になるので、このリスクが軽減できるのは大きなメリットだと言えるでしょう。
PPOS法でLHサージを起こす薬
最後に、LHサージを起こす薬についてです。HCG注射と点鼻薬の2つがあります。これらの薬の役目は、卵胞の中の卵子が最終的に成熟して適切なタイミングで採卵できるようにすることです。
まず、HCG注射について、薬品名にはオビドレルと注射用hcgがあります。良い点としては、点鼻薬と比べるとLHサージを起こす確実性が高いことと、費用が抑えられることです。
一方で考慮すべき点としては、PPOS法でもOHSS発症のリスクが少し高まる可能性があります。*いずれも指導を受けた後、在宅での自己注射が可能です。
点鼻薬は、GnRHアゴニスト(スプレキュア、ナサニール)です。自分で行うため、特に来院の必要がありません。
ただし考慮すべき点としては、鼻の粘膜からの吸収になりますので、鼻づまりなどの状態によって吸収が不安定になる可能性があり、LHサージが起こりにくい場合もあります。
体外受精においての漢方の役割
女性の体は、排卵前に体温がしっかり下がり、卵胞の成長があり、排卵した後は高温が保たれるのが理想的な自然周期と考えられています。
ただし、体外受精で薬を使って成熟させて排卵させ、採卵するという場合は、自然周期とは異なります。
特にPPOS法の場合は、低温期だからといって体温が下がるのが理想だとは言えません。治療で使用する薬の影響で、低温期に体温が上がることがあります。このような場合は、体温を下げる必要はありません。
むしろ中医学では、低温期は「体が潤う」ことが重要だと言われています。漢方ではそのような処方をして、体外受精をサポートしていきます。
例えば、注射や内服による刺激に反応するために、必要に応じて活血薬、補陰薬、補血薬といった提案を行います。
採卵周期に受ける刺激に反応できるように体調を整えることをサポートしていくことが漢方の役割だと考えます。
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本日お話をおうかがいした方
ウィメンズ漢方
薬剤師/国際中医専門員
住吉 忍
相談薬局で生まれ育ち、薬剤師となる。自身も不妊治療を経験し、妊活、女性のヘルスケアを専門に対応するため、ウィメンズ漢方(https://ninkatsu-ayumi.com/facility/1330/)創業。複数の不妊治療専門クリニックの漢方外来を担当し、西洋医学の不妊治療に適した漢方処方の提案を得意としています。
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