先進医療2│先進医療「PICSI」って何?
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妊活お役立ち情報
不妊治療は保険適用で今受けられますが、どうしても通常の治療だけでは難しいケースもあり、保険と併用できる先進医療を用いることが多々あります。今回は、不妊治療で用いられる先進医療PICSI(ピクシー)について元培養士の塚田寛人さんから詳しくお届けします。
先進医療①では、顕微授精(ICSI)と併用して使用できる技術である、「強拡大顕微鏡を用いた形態学的精子選択術:IMSI」についてお話しました。 IMSIの目的としては、「より良い精子の選択」でしたが、同じような目的で使用されている技術として「PICSI(ピクシー)」と呼ばれ先進医療に含まれているものがあります。
今回はこのPICSIについてご説明していきます。
PICSIとは?
PICSIは、「ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術」として先進医療に含まれています。正式には、Physiologic intracytoplasmic sperm injectionと呼ばれ、IMSIと同様に顕微授精を行う方に使用できる技術です。
目的としては、こちらもIMSIと同様に良好な精子を選択することですが、方法が異なります。
IMSIは形態学的な精子選択、つまり形を見て良い精子かどうかを判断する方法でしたが、PICSIは生理学的な精子選択とあり、形ではなく精子の性質を利用して良い精子を選択する方法です。
まずはPICSI技術のお話をする前に受精可能な精子の特徴についてお話いたします。ここで言う受精可能な精子は、言い換えると成熟した精子となります。
精子にも未成熟なものと成熟したものがあるというわけです。そしてこの成熟した精子というのは、未熟な精子に比べてDNAの損傷や染色体の異常が少ないことが報告されています。
精子も卵子と同様に、DNAの損傷があるか染色体異常があるか、というのは非常に重要で、そういった異常があれば卵子と受精しないこともありますし、成長して移植可能な胚になっても妊娠しなかったり、妊娠しても流産する可能性もあります。
つまり、成熟した精子をなるべく選んで顕微授精に用いてあげることで、それぞれのリスクを少しでも抑えてあげようと言うのがPICSIなのです。
何故ヒアルロン酸で成熟精子を選べるの?
次に、成熟した精子の性質についてお話します。この成熟しているか、未熟なものか、というのは目で見て判断することはできません。ですから、目視以外の方法が必要になってきます。ここで関係してくるのがヒアルロン酸です。
成熟した精子と未成熟な精子の違い、それはヒアルロン酸が結合する受容体(レセプター)が精子の頭に出来ているか否かです。
なんのこっちゃわからないと言われると思いますので簡単に説明すると、ヒアルロン酸がくっつきやすい場所というのがレセプターで、このレセプターが精子の頭に出来たものが成熟した精子で、レセプターが未完成なものや、そもそも作り始めてないものは未成熟な精子、ということです。
ただ、このレセプターが精子に出来ているかどうかというのも目で見て判断することはできません。
なので、ヒアルロン酸をあえて結合させてあげます。方法としては、クリニックの培養室内でヒアルロン酸が多く含まれた培養液内に精子をいれてあげます。
レセプターが出来ている精子、つまり成熟している精子にはヒアルロン酸が結合し、レセプターが完成していなかったり、そもそも作られていない精子、つまり未成熟な精子にはヒアルロン酸が結合しません。
すると、ヒアルロン酸が結合した精子の動きに変化が起きます。ヒアルロン酸が結合した精子は、頭部が物理的に重くなり動きが遅くなり、下に沈みモゾモゾと動くようになるのです。一方で、ヒアルロン酸が結合しなかった精子は何の変化もなくそのまま動き続けます。
このモゾモゾした精子をピックアップし、顕微授精に利用するのです。ヒアルロン酸が含まれる培養液とお伝えしましたが、クリニックが独自に開発しているわけではなく、下記どちらかの製品を使用していると思います。
1, ヒアルロン酸を含有する精子選別用培養液
2, ヒアルロン酸が多く含まれた培養液が一部に塗ってある培養dish(小さなシャーレのようなもの)
どちらも、精子の選び方に違いはありませんから、もしクリニックでこういった技術の話があれば、安全性などについてはご安心いただいても良いかなと思います。
また、ヒアルロン酸と精子って結合しても大丈夫なの?という声も聞きますので、そちらについて少し補足いたします。
ヒアルロン酸は、成熟した卵母細胞の卵丘細胞に存在しています。卵母細胞とは卵子のことですが、卵子の周りには、卵子を保護する目的もある卵丘細胞という細胞の集合体がびっしりとついています。
この集合体部分を精子は自分の力で泳いで、中心部にある卵子へと到達するわけです。ですから、ヒアルロン酸自体が精子に、というのは心配なさらなくてもいいと思います。
PICSIの適応
PICSIを保険診療と併用する場合は、以下のような条件が必要です。
不妊症と認められた方のうち、
1.ICSI が適応とされる方
2.ICSI 後に反復流産や着床不全がみられた患者。または、夫が奇形精子症の患者を対象とする。
というのが適応範囲となります。
PICSI自体がICSIで利用される技術ですから、1はわかりやすいでしょう。2について少し補足します。
さきほど、成熟した精子はDNAの損傷や染色体の異常が少ないことが報告されていて、その精子を選ぶことを目的とするとご説明いたしました。反復して流産された場合や、着床不全(何度か移植するものの着床しない)という場合は、「胚の染色体に異常がある」ことが原因の場合があります。
胚盤胞(移植可能な胚)になったとしても、その胚の染色体に異常がある場合もあります。
そのような場合は、移植した後流産してしまう、そもそも着床しない、といったことがありますから、それらが繰り返された場合は、胚となる前の卵子や精子の染色体を疑い、より良い精子(成熟した精子)を選ぶことで、胚染色体異常のリスクを少しでも下げてあげようという狙いがあります。
また、夫が奇形精子症の患者を対象とするとありますが、IMSIの記事でも書かせていただいた通り、奇形の精子は正常形態精子よりも染色体異常のリスクが高いことが知られています。
ただ、奇形精子症とは、全体の精子のうちの奇形精子の割合が高いということですから、より選別をしなくてはなりません。その選別を、目視だけではなく生化学的に行ってあげることで、成績をあげてあげるという目的があります。
PICSIの効果
PICSIは、流産率が改善することが期待されています。他にも、受精率や着床率や妊娠率、良好胚盤胞率の向上、生児獲得率があがるといった報告もありますが、それぞれ変わらないといった報告もあり、クリニックによってデータは異なるようです。
こういった背景もあり、保険診療の治療ではなく先進医療として認められた側面があるのでしょう。ただ、報告を見ると共通しているものは「流産率が低下する」というものです。
成熟した精子を選ぶ、つまりDNA損傷や染色体異常の少ない精子を選んであげることを目的としているわけですから、流産率が下がるというのはデータとしても納得できるかなと個人的には考えています。
妊娠には、精子だけではなく卵子の情報も非常に重要です。ただ、卵子というのは精子に比べて非常に少ないですし、選ぶことができません。
顕微授精の際、精子は複数の中から選ぶことができますから、卵子が難しいのであればより良い精子を選んであげるべきだ、というのはわかりやすいと思います。
先進医療となり、様々なクリニックでデータを集積していますから、今後更に研究が進んでいくかもしれませんね。
PICSIの費用
クリニック毎に設定される費用が異なっていて、11,000~30,000円と大きな差があります。
クリニックHPなどで確認していただくと良いでしょう。
本日お話をおうかがいした方
塚田寛人
大学卒業後、検査会社にて動物の検査業務を担当。その後、医療法人三秀会中央クリニックにて胚培養業務に従事。クリニック開業に伴う、培養室立ち上げにも参画。現在は、高度生殖補助医療(体外受精)や妊活で悩む方へのオンライン相談やのほか、株式会社QOOLキャリア(https://career.qo-ol.jp/)へ協力し、企業に勤める女性へ医療情報を提供するなどのサポートを行っている。
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