先進医療1│先進医療「IMSI」って何?

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2025.05.23

不妊治療

先進医療1│先進医療「IMSI」って何?

不妊治療は保険適用で今受けられますが、どうしても通常の治療だけでは難しいケースもあり、保険と併用できる先進医療を用いることが多々あります。今回は、不妊治療で用いられる先進医療について元培養士の塚田寛人さんから詳しくお届けします。

2022年4月より不妊治療の保険診療化が開始され、人工授精法や体外受精法といった治療が保険の範囲内で受けられるようになりました。

「保険診療」に認められると、有効性や安全性を評価し国が認めた範囲内の治療に対し、決められた費用(点数)が決められ、その3割の費用負担で治療を受けられるようになります。

保険適用前は、クリニックによって体外受精にかかる費用が大きく異なっていたため、事前にある程度の費用を見込んで治療を受けた方の中にも、実際には想定以上に高額となり、驚かれた方もいらっしゃったのではないでしょうか。

特に体外受精は、不妊治療の中でも高額な医療費であることもあり、費用負担が減ったことは患者さんにとっても喜ばしいことだと思います。

一方で、体外受精で保険診療化された範囲というのは、「体外受精治療技術の全てではない」ということも知っておいて損はないと思います。

保険診療化の範囲


体外受精治療では、その有効性や安全性が国によって評価され、保険適用となる範囲が定められています。ざっくりと分類すると、
「初診」
「排卵誘発」
「採卵」
「培養」
「凍結・融解」
「移植」
といった大まかな枠組みで構成されています。

勿論、これらは体外受精治療において最も必要な部分ですから、保険診療化されたのは当然と言えます。

ただ、これ以外にも体外受精の技術は非常に細かな技術や検査も多くあり、保険診療の範囲内に含まれなかった技術も少なくありません。

以前は治療に使用されていたのに、保険適用化され含まれなかった技術もあるのです。

これらの技術は「先進医療」に含まれており、わかりやすく言えば、現在もデータを収集しながら効果を検証している段階の技術や検査です。
また、不妊治療の現場では、効果が明確に証明されていないものの、一定の成功例が報告されている技術や検査も含まれています。

効果などがはっきりしてない背景には、不妊治療自体が「オーダーメイドの治療」と昔から言われている通り、カップルによる治療の差が非常に大きいことも関係しているのかもしれません。
ですが、結論としてはまだ保険診療化されているわけではなく、将来の保険診療化に向けて、効果を測定することで準備をしているというのが実情です。

また、先進医療技術を利用して治療をする場合には、
1,クリニックが届け出を出し、技術を保険診療と併用して実施できる許可を得ている
2,適応にあった症例である
といった制約もあります。
しかし、先進医療に含まれると費用はクリニック毎に違うものの、「保険診療と併用して」治療を行うことができます。

つまり、保険診療の範囲内の治療においては3割負担で行い、先進医療についてはその費用を上乗せするだけで治療を行えるわけですから、保険診療化にはメリットがあったと言えると個人的には考えています。

実際に保険診療化から数年が経過し、先進医療技術を保険診療と併用して治療を行う患者さんから、喜びの声をいただけるということもありますから、うまくこれらの技術と向き合いながら治療をすすめることも必要なのかもしれません。

そこで今回からは、先進医療技術を1つずつ解説していきたいと思います。
今回は顕微授精を実施する際に使用できる、IMSI(強拡大顕微鏡を用いた形態学的精子選択術)について見ていきましょう。

IMSIとは?


IMSIは「強拡大顕微鏡を用いた形態学的精子選択術」と先進医療項目にあります。

通常の顕微鏡よりも高倍率で確認できるレンズ(1000 倍以上、最大倍率6000倍)を使って精子を観察し、良好精子を選別する技術で、顕微授精時に使用できる先進医療です。

精子のDNAに傷があると、受精や胚発育に影響を及ぼし、流産率が上がると考えられています。

この精子のDNA の傷は、精子頭部の空胞と関係があるといわれていることから、顕微鏡の倍率を上げて精子を観察し、頭部に空胞のない精子を選び顕微授精に用います。


また、精子の形態は様々で、頭部が大きい精子や小さい精子、丸い精子や細長い精子など様々です。

倍率を上げて精子を観察することで、精子頭部をしっかり観察でき、精子を選別することが可能と考えられています。


IMSIとは簡単に言うと、顕微鏡の倍率を上げ、精子を良く見て、より良い精子を選ぶ方法です。

しかし、精子頭部に空胞がないイコールDNAにも問題がない、とはいえないこともあり、IMSIの利用をおすすめしない医師やクリニックもありますし、逆に効果が期待できると考えている医師やクリニックもあります。

実施できるクリニックかどうかは病院HPなどで確認すると良いでしょう。
*妊活の歩み方→施設検索でIMSIを選択して検索すると実施クリニックが選べます。

IMSIの適応

IMSIを保険診療と併用する場合は、以下のような条件の方に限られています。
不妊症と認められた方のうち、

1) 1回以上の体外授精を実施したものの、受精卵や移植胚を得ることができなかった方
2) 下記の性状不良精液(精子)所見のうち、2つ以上を満たしており、顕微授精が適応の方
A) 精子濃度:1mLあたりの精子数3000万未満
B) 運動率:40%未満
C) クルーガーテスト:正常形態精子率 3%未満
D) 精子DNA断片化:30%以上


というのが適応範囲となります。
採卵をしたものの受精しなかった、受精しても育たなくて移植ができないというのはわかりやすいと思います。また、精子濃度や運動率、奇形率というのも、精液検査を実施したことがある方なら聞いたことのあるワードかと思います。

しかしD)の「精子DNA断片化」は聞きなれない方もいらっしゃるのではないでしょうか?

先ほど、精子のDNAの損傷があると、受精や胚発育に影響を及ぼし、流産率が上がると考えられているとお伝えしましたが、この損傷のことを「断片化」と言います。

そしてこれを調べる検査を「DFI検査」と言います。DFI検査(精子DNA断片化指数検査)を行うことで、DNAの損傷がある精子が全体の何割をしめるかがわかります。40歳程度でも平均で20%程度とされています。

IMSIの効果


IMSIを利用し、より形態の良好かつ空胞のない精子を選択して顕微授精を行うことで、受精する可能性を高める、その後の受精卵の成長の可能性を高める、もしくは胚グレードを良くすることが期待されています。


そして結果的に着床率や妊娠率の向上だけではなく、染色体異常の胚を減らし流産率を低下させると考えられています。

一方で、受精率や成長などには効果は期待できないのではといった報告もあれば、グレードの高い胚盤胞へ到達する確率や流産率が下がったといった報告もありますし、高い倍率にすると、観察する領域が狭くなり、特に運動精子数が極めて少ないカップルにおいては探すのに時間がかかる可能性も否めないといった声もあり、まだまだ結論については出ていないのが実情です。

ただ、個人的には「精子を良く見て選ぶ」というのは非常に重要なことです。倍率をあげてより良い精子を選ぶということは良い方法のように思えます。

気になる方がいらっしゃいましたら、通われているクリニックの医師に問い合わせてみましょう。

【IMSIの費用】

クリニック毎に設定される費用が異なっています。

¥11,000~55,000 と大きな差があります。

また、卵子の個数によって加算される場合もあるようなので、 クリニックHPなどで確認していただくと良いでしょう。

本日お話をおうかがいした方

塚田寛人

大学卒業後、検査会社にて動物の検査業務を担当。その後、医療法人三秀会中央クリニックにて胚培養業務に従事。クリニック開業に伴う、培養室立ち上げにも参画。現在は、高度生殖補助医療(体外受精)や妊活で悩む方へのオンライン相談やのほか、株式会社QOOLキャリア(https://career.qo-ol.jp/)へ協力し、企業に勤める女性へ医療情報を提供するなどのサポートを行っている。

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