体外受精の先進医療「タイムラプスインキュベーター」とは?知っておきたい費用と効果
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妊活お役立ち情報
目次
体外受精や不妊治療の分野では、ここ数年で多くの「先進医療技術」が開発され、実際の臨床に導入されるようになってきました。先進医療とは、将来的に保険適用を目指して研究が進められている医療技術のことで、効果や安全性が国の基準に基づいて評価されています。
これまでのシリーズでは、
をご紹介してきました。
そして今回ご紹介するのは、受精卵(胚)がどのように育つか、つまり「胚の培養と成長」に注目した技術です。その名も、「タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養」(通称:タイムラプスインキュベーター)。
タイムラプスインキュベーターは、これまでご紹介した先進医療技術の中でも最も一般的で、導入率が高い技術です。クリニックによっては「全症例」で使用している施設もあるほどで、体外受精の現場で急速に普及しています。
「胚をできるだけ良い環境で育てたい」「妊娠につながりやすい胚を見極めたい」というニーズに応える形で生まれたのが、この技術です。
「胚培養」って何?

タイムラプスインキュベーターの話に入る前に、体外受精治療に欠かせない「胚の培養」について簡単に整理してみましょう。
不妊治療を受けている方であれば、「培養」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。
一般的に培養とは「細胞などを育てること」ですが、体外受精における培養は、将来赤ちゃんになる“胚”を体外で育てることを指します。この胚を最適な環境で育てるためにサポートするのが、「胚培養士(はいばいようし)」という専門スタッフです。
卵子と精子が受精すると、「受精卵」となり、分割・成長を続けて胚盤胞(はいばんほう)と呼ばれる状態にまで育ちます。この胚盤胞とは、「赤ちゃんのもと」のことです。
通常、このような成長は女性の体内(卵管〜子宮内)で自然に起こりますが、体外受精では卵子を体外に取り出すため、この成長をサポートする「体外での培養」が必要になります。
インキュベーターって何?

体外受精において、受精卵(胚)を適切に育てるために欠かせないのが「インキュベーター」と呼ばれる装置です。私たちが普段暮らしている体外環境は、胚が本来成長する女性の体内環境とは大きく異なります。
例えば、
- 温度
- 酸素や二酸化炭素の濃度
- 光や湿度
といった要素です。これらの条件が胚にとって適切でないと、胚の成長が止まってしまう、もしくは細胞が壊れ、移植ができなくなります。他にも紫外線や菌やウイルスの数など様々な要素が体内と体外では大きく異なります。
そこで活躍するのがインキュベーターです。
この装置は、女性の体内環境に近い状態を人工的に再現し、胚が安心して成長できる環境を整えます。具体的には、温度・ガス濃度・湿度などを一定に保ち、体外でもできるだけ自然に近い状態を作り出します。体外受精が始まった当初から導入されている、非常に重要な装置です。
体外受精では、受精の作業が終わった卵子をインキュベーターの中に入れ、胚盤胞と呼ばれる状態になるまで数日間培養していきます。
インキュベーターの課題

インキュベーターは、胚を適切な環境で育てるために欠かせない装置ですが、ひとつ大きな課題があります。それは、胚の成長を観察するたびにインキュベーターから取り出さなければならないという点です。
通常のインキュベーターは、中の様子を直接見ることができないため、1日に1~2回、一定のタイミングで胚をインキュベーターから外に出し、顕微鏡で成長の状態を確認する必要があります。
しかし、この方法にはいくつかのデメリットがあります。
- 胚をインキュベーターから出すたびに温度やガス濃度が変化し、胚にストレスを与えてしまう
- インキュベーターの外は体内環境と異なるため、短時間でも胚への影響が懸念される
- 1日1~2回の観察では、胚の成長過程を十分に把握できない
この課題を解決するために開発されたのが、「タイムラプスインキュベーター」です。
タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養(タイムラプスインキュベーター)とは?
タイムラプスインキュベーターは、高性能カメラを内蔵したインキュベーターのことで、胚を外に出さずに成長を観察できます。
つまり、胚を一度インキュベーターに入れたら、移植または凍結処理を行うまで外に出す必要はほとんどなく、内蔵カメラが一定間隔で胚の画像を自動撮影しますので、それらをつなぎ合わせることで、胚の成長過程を動画のように利用できるメリットがあります。
また、タイムラプスを使うことで、従来のインキュベーターでは見逃しがちだった情報も可視化できるようになりました。いくつかご紹介しましょう。
① 隠れた「異常受精」がわかる
これまでのインキュベーターでは、受精の確認は採卵翌日の1〜2回のみで行っていました。正常な受精では、受精卵の中に「核」と呼ばれる丸い構造が2つ見えます。一方、核が3つ以上ある場合は「異常受精」、核が見えない場合は「受精していない」と判断します。
しかし、この核は一定時間で自然に消えるため、観察するタイミングによっては「見えなかった=受精していない」もしくは「見えなかったが正常受精だろうと判断したものが異常受精だった」と誤って判断する可能性がありました。
タイムラプスインキュベーターでは受精直後から継続的に撮影を行うため、より正確な受精状態を判断できるようになりました。
② 「異常な分割」がわかる
受精後、胚は1個 → 2個 → 4個…と細胞分割を繰り返します。しかし中には、通常とは異なる分割パターンをたどる胚もあります。
- ダイレクト分割:1つの細胞からいきなり3つに分かれてしまう

- リバース分割:分割した細胞が再びくっつき、細胞数が減ってしまう

こうした胚は発育能力が低い傾向があることがわかっています。ただし、ダイレクト分割やリバース分割を起こした胚でも、最終的に胚盤胞(移植可能な段階)まで成長すれば、妊娠の可能性は通常の胚とほぼ変わらないとされています。
タイムラプスでは、これらの異常分割を見逃さずに確認できるため、胚の評価がより正確になりました。
③ AIによる胚評価が可能に
近年では、タイムラプスで得られた膨大な画像データをAIが解析し、分割スピード・形態・発育パターンなどを数値化して評価する技術が導入されています。
これにより、妊娠につながりやすい胚をより客観的に選ぶことができるようになりました。
タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養(タイムラプスインキュベーター)の適応

タイムラプスインキュベーターは、体外受精を受ける方であれば基本的に誰でも利用できる先進医療です。保険診療と併用する場合には、以下の条件を満たす必要があります。
- 不妊症と診断されている
- 体外受精(IVF)治療を受ける予定がある
この条件を満たしていれば良いので、初めて体外受精を行う方でも、タイムラプスインキュベーターを保険診療と併用して使用することができます。他の先進医療(例:PICSIなど)と比べても適応範囲が広く、導入しやすい技術であることが特徴です。
施設によっては、「すべての症例で標準的に使用している」ところもあれば、希望する患者様のみ先進医療として利用できるところもありますので、利用を検討する際は、通院先の方針や費用をあらかじめ確認すると安心です。
タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養(タイムラプスインキュベーター)の効果
タイムラプスインキュベーターを使用することで、以下のような効果が期待されています。
1.胚の安全性と安定性が向上
胚を外に出す必要がないため、温度やガス濃度の変動が少なく、胚にかかるストレスを最小限に抑えられます。
2.胚の成長過程を詳細に把握できる
定期的に撮影された画像を動画のように連続再生することで、これまで見逃していた発育のタイミングを観察できます。より多くの情報をもとに、妊娠につながりやすい胚を選びやすくなります。
3.胚評価の精度向上
タイムラプスでは、静止画だけでなく、分割スピードや形の変化など動的なデータも解析できます。近年ではAIを活用した胚の自動評価も進んでおり、従来よりも客観的で再現性の高い評価が可能になっています。
ただ、効果には個人差があることも知られています。研究では妊娠率や出生率が向上したとする報告がある一方、「通常のインキュベーターと大きな差はない」という報告もあります。
現時点では、「胚を安定した環境で育てられる」「観察精度が上がる」というメリットは明らかですが、「妊娠率を必ず向上させる技術」とまでは言えません。
タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養(タイムラプスインキュベーター)の費用

技術にかかる費用は、クリニックによって設定が異なり、
¥20,000~¥40,000
とされており、施設によってはそれ以上の費用がかかることもありますが、他の先進医療項目に比べて費用が比較的かからない点が特徴としてあります。
受診予定のクリニックのホームページなどで、事前に費用を確認しておくと安心ですね。
●タイムラプスが受けれるクリニックはこちら(2025年度妊活の歩み方アンケート結果より)
実際の実施の有無や金額についてはクリニックに直接お問い合わせください。
*順不同
【東京都】
杉山産婦人科丸の内(東京)
東邦大学医療センター大森病院リプロダクションセンター(大森・蒲田)
【茨城県】
【千葉県】
【埼玉県】
【神奈川県】
【北海道】
【宮城県】
【岩手県】
【山形県】
【栃木県】
【岐阜県】
【山梨県】
【静岡県】
【愛知県】
【岐阜県】
【大阪府】
【兵庫県】
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【京都府】
【滋賀県】
【鳥取県】
【岡山県】
【広島県】
【愛媛県】
【徳島県】
【高知県】
【福岡県】
【熊本県】
【大分県】
【鹿児島県】
【沖縄県】
本日お話をおうかがいした方
塚田寛人
大学卒業後、検査会社にて動物検査業務に従事。その後、医療法人三秀会中央クリニックにて胚培養士として勤務。また、クリニック開業時の培養室立ち上げにも参画。現在は川越レディースクリニックで医療部マネージャーを務めながら、高度生殖補助医療(体外受精)や妊活に関するオンライン相談を行い、患者様支援に幅広く携わっている。

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